魔窟出現 6
今日の更新2回目です。
翌日目が覚めると、大急ぎで動物の世話と畑の水やりを終えて、街に出かける支度をした。
「うん、これでよし。……ラクロさん! 支度、できました!」
私は上を見上げてそう言った。
すると、私の頭上に小さな青い光が現れた。
その光は上から下へ、私の体の周りをゆっくりと回りながら降りていって、床に着くと、突如眩しい光を放った。
私はあまりの眩しさに目を瞑り、そして再び目を開くと……そこは、街の街門の前だった。
「うわぁ……一瞬だぁ」
あっ、私、裸足だった!
良かった、一応靴、持っておいて。
私は手にしていた靴を履くと、街門へ走った。
街門に並んでいる人達の横を抜け、街と街門の境目にいる騎士さんの元へ向かう。
本当は並ばなきゃいけないんだけど、今日は勘弁して貰いたい。
並んでいる間にあの人達の仲間にでも見つかってしまったら困る。
「……あれ? こらこらクレハちゃん、何してるんだい? 並ばなきゃいけないのは、もう知ってるはずだろう?」
騎士さんの元へ行くと、そう声をかけられる。
声の主は、セイルさんだ。
「ごめんなさい! でも今日は、急ぐの! セイルさん、私大至急アイリーン様に会いたいの! それと、セイルさんにもついてきて欲しいんです! お願いします! 大至急、ここを通して下さい!」
「え……?」
私が"大至急"の部分を強調して伝えると、セイルさんは一瞬目を見開いて、そして、すぐに表情を引き締めた。
「……わかった。大至急、なんだね。……おい誰か! ここを替わってくれ! 急用ができた! ……クレハちゃん、身分証を出して。記録はしなきゃならないから」
「あっ、はい!」
私は急いで身分証を出し、セイルさんに渡した。
セイルさんはいつも通りに私が街に入った事を記録する。
「さて……じゃあクレハちゃん、しっかり掴まってて!」
「えっ? ……きゃあ!?」
セイルさんは突然、私を担ぎ上げ、街に向かって駆け出した。
……うわ……速い……!
それからしばらく、私は、セイルさんの肩ごしに流れていく街の風景を、ただ大人しく見ていた。
ハイヴェル家の屋敷に着くと、アイリーン様はちょうど馬車に乗り込み、どこかへ出かける所だった。
「……アイリーン様! お待ち下さい! セイル・クレベルにございます!」
セイルさんは馬車に向かって声を張り上げた。
すると馬車が止まり、窓が開かれた。
「セイル? 一体どうし……。……あら……!」
セイルさんに担がれてやって来た私を見て、アイリーン様は扉を開け、馬車から降りてきてくれた。
「……何かあったのね? クレハちゃん?」
「は、はい。……でも、あの、ごめんなさい。お出かけする所だったんですよね?」
「ああ、いいのよ。今日中に済ませればいい用事だから大丈夫。……まずはクレハちゃんの話を聞くわ。屋敷の中に戻りましょう?」
「あ……ありがとうございます。すみません、アイリーン様」
「セイル。お時間はあるかしら? 今日は貴方にもいて欲しいわ。……場合によっては、またお願い事をしなければならないかもしれないしね?」
「えっ……わ、私も、お屋敷にお邪魔させて戴いても……!?」
「ええ。是非お願い」
「!! ……か、かしこまりました!! お邪魔させて頂きます!!」
……うわぁ、セイルさん、すっごい嬉しそう……。
どうやらセイルさんの片思いは、まだ続いているらしい……。
微笑みを浮かべたアイリーン様、苦笑している私、嬉々とした表情のセイルさんは、揃って屋敷の中に入って行った。




