魔窟出現 2
本日更新一回目です!
今日も楽しく読んで貰えたら嬉しいです!
「いいか嬢ちゃん? 身分証の、名前とかの記載があるほうを上にして、こう唱えるんだ。ステータス、基本事項、表示。ほい、やってみろ」
「は、はい。……えっと、ステータス! 基本事項、表示!」
私は身分証を取り出すと、おじさんの指示通りにやってみた。
すると、身分証から光が伸びて、文字が現れた。
クレハ・カハラ 9歳
冒険者レベル 1
体力 115
精神力 302
力 38
魔力 10
素早さ 15
賢さ 96
運の良さ 50
「これが……私のステータス?」
「ああ、そうだ。……しかし、こりゃあ……」
「……おいおい、何だよ、このステータス?」
「……メチャクチャだな」
「レベル1なのに……体力も精神力も、数値高いわよね、どう考えても。……お嬢ちゃん、ドーピングでもしたの?」
「え!? ド、ドーピング!?」
「……冗談よ。……でもねぇ……」
皆さんは、私のステータスを見て、またしても絶句している。
助けを求めてちらりとおじさんを見ると、おじさんも難しい顔をしていた。
……こ、これは、まずい。
私にドーピング疑惑がかけられてしまう……!
「あ、あのっ! 私、毎日、動物の世話して畑耕して暮らしてるんです! 体力は、その日々で培われたものだと思います!!」
「え?」
「力は、材料採取の為に毎日この籠背負って歩いて……しょっちゅう持ち上げたりおろしたりするから、それでついたんだと! 中が一杯になるとかなり重いんですよ、この籠! それに賢さは、錬金術の調合図鑑を理解していく事で鍛えられたんだと思います!! だから、ドーピングじゃあないです!!」
「……精神力は?」
「え? ……あっ、せ、精神力は、ええと……そう! 私一人暮らしですから! 一人でたくましく生きていく為に養われたんです! きっと!!」
……本当は、これに関してはたぶん、前世?の、地球での経験が少し、反映されてるんだと思う。
賢さもきっと同じだろう。
けど……まさか、そんな事を言うわけにはいかないし。
「……なるほどな。そういう事か。なら納得だ」
「は!? おやっさん、この説明で納得できんの!?」
「一応、筋は通ってるだろう」
「……えぇ……!? ……ま、まあ、確かに日々の生活で鍛えられたっていうなら、あり得ないわけじゃないかもしれないけどさ……」
「それにしたって、数値がなぁ……。……レベル1だぜ?」
「ほ、本当です! 信じて下さい! ……決して、ドーピングなんかじゃありません!!」
ここ重要!!
「……う~ん……」
冒険者の皆さんは、それぞれ微妙な顔を浮かべ、私のステータスをもう一度まじまじと見た。
つられて私もそれを見ると、ステータス表の左右に何やら点滅してる黒い三角矢印があることに気づいた。
……何だろうこれ?
私は指でその矢印を押してみた。
すると、くるっとステータス表が入れ替わった。
クレハ・カハラ 9歳
職業 錬金術士
錬金術士レベル 25
職業ランク 中級(承認待ち)
あっ、錬金術士としてのレベルは25みたいだ!
けど、その下の、職業ランクの欄……あれは何だろう?
「……承認待ち……」
職業ランクが何かは、まあわかる。
今が中級という事は、きっと最初が初級で、次が中級、その次が上級なんだろう。
もしかしたらその上に特級があるかもしれない。
でも、承認待ちって何だろう?
「ねえおじさん、この承認待ちって何かわかりますか?」
「は? ……ああ……それも知らないのか、嬢ちゃん…」
あ……おじさんが呆れた顔してる……。
「職業ランクはな、ギルドの認定士が承認する事で上がる。承認待ちっていうのは、そのランクに上がる実力はついたが、まだ未承認って事だ。……あとで俺が錬金術士用の認定士の所に連れて行ってやるよ。承認を受ける時には簡単な試験があるからな、頑張れよ」
「へえ、そうなんですね……わかりました」
けど、試験、かぁ。
懐かしい言葉だなぁ。
「……ねえ、お嬢ちゃん。話を最初に戻すけど……数値はとにかく、レベル1の子を、魔窟には連れていけないわ。ごめんね」
「えっ!?」
「だよなあ。魔窟の魔物は、その辺のやつらとは比べようもないくらい強いって噂だし」
「そんな所に、レベル1で行くのはキツいよ。諦めな、お嬢ちゃん」
……あ、やっぱり魔窟にもいるんですね、魔物。
って、そうじゃなくて!
「でも、私珍しい材料が欲しいんです! ……ほ、ほら! 冒険者レベルは1でも、錬金術士レベルは25ですよ!!」
見てください!とばかりに私はステータスを指さす。
「……いや、錬金術士レベルが25あってもさあ……」
「……せっ、戦闘になったら邪魔にならないよう離れた場所に退避してますから!」
「……その離れた場所に別の魔物が来たらどうするんだよ? 嬢ちゃん、死ぬよ?」
「うっ……!!」
「……ねえ? お嬢ちゃん、珍しい材料が欲しいだけなのよね? なら、こうしない? 私と一時契約して、雇ってよ? そうしたら、魔窟で見つけたアイテムでお嬢ちゃんの欲しい物があったら全部あげるわ」
「え……」
「雇用代金はお金じゃなく、お嬢ちゃんが今持ってる薬全部でいいわ。どう?」
「おい待て! そりゃ駄目だって言ってるだろうが!」
「あら親父さん、冒険者の雇用条件は、その冒険者が提示するっていう自由がギルドから認められているはずよ? なのに口を出すの?」
「うっ! ……クソ、痛いところをつきやがって……!!」
「ふふっ。ねえ、どう? お嬢ちゃん? それなら貴女は魔窟に行かなくても済むでしょう?」
「おい待てよ! なあ嬢ちゃん、それなら俺を雇ってくれよ! 条件はこいつのと一緒でいいからさ!」
「ちょっと! 交渉したのは私が先よ? ルールは守ってよね!」
「……ええと……」
私は自分で採取に行きたいんだけど……。
この人達の提案を飲んで、雇ったとしても、錬金術に使える材料を持って帰って来てくれるとは限らない。
帰って来た時、私が欲しいものがなかったら意味がない。
ならやっぱり、自分で行って探したほうがいいと思うんだけど……どうやら、連れて行ってはもらえないみたいだし、一人で行くのは、死にに行くようなものだし。
……諦めるしか、ないのかな。
うう、魔物、徹底的に避けないで、少しは戦闘もしておくんだった……。
「あの……やっぱり、いいです。お騒がせしました」
「「「 え? 」」」
「おじさん。アイテム、売りたいんですけど」
「おっ! そうか! ギルドに売ってくれるか!!」
「なっ!?」
「ちょっ!! ちょっと待ってお嬢ちゃん!? どうして!? 材料、欲しいんでしょう!?」
「え? ……だって、錬金術に使える材料を持って帰って来てくれるとは限りませんし……もしなかったら、意味ないですし。むしろ薬を売るお金が手にできなかった分、私が損しますし」
「……あ……!」
「……ていうか、そもそも何で皆さん、そんなに私の薬を欲しがるんです? 薬ならギルドにいっぱいありますよね?」
「え?」
「は?」
「お、おいおいお嬢ちゃん……それ、本気で言ってるか?」
「ああ、本気も本気、大本気だろうぜ。自分の事をよくわかっていないのが、この嬢ちゃんの一番怖いところだ」
「……マジか」
「おじさん……? 何の話ですか?」
「ほらな」
「うわぁ……」
「……さて、嬢ちゃん。俺からひとつ提案だ。この三人をさっきの条件で雇ったらどうだ? 但し、薬は"全部"じゃなく、"いくつか"にするんだ。三人もいりゃ、嬢ちゃんの欲しい材料を持って帰って来る確率はぐんと上がるだろ?」
「あ……!」
「薬を独占するんでなきゃ、俺としても文句はねえし、もちろんギルドにもいくつか卸してもらうから、嬢ちゃんがまるっきり損をする事もねえ。どうだ?」
「は、はい! それでいいです! それでお願いします!」
「……よ、よっしゃ! お嬢ちゃんの薬GET!!」
「サンキューおやっさん!!」
「お嬢ちゃん、貴女の欲しい物、きっと持って帰って来るからね!」
「はい。どうか、お願いします!」
「ようしお前ら! そこに並べ! 俺がちゃんと"均等"に薬を配ってやるからな! ……嬢ちゃん、籠貸してくれ」
「あ、はい」
私が籠を渡すと、おじさんは薬の数を数え、冒険者さん達に渡して行った。
冒険者さん達は薬を受け取ると、意気揚々と、魔窟へ向けて旅立って行った。




