魔窟出現 1
「あっ、来た! なぁお嬢ちゃん! 薬、今日はありったけ俺に売ってくれ!!」
「おい待てよ! 嬢ちゃん、こいつじゃなく俺に売ってくれ! 頼む!!」
「あらダメよ。お嬢ちゃん、私に売ってちょうだい? 金額、弾むわよ?」
「え? え? えぇ……!?」
ある日、いつも通り、ギルドに作った物を売りに来たら、入り口を入ったところで冒険者の皆さんに囲まれた。
何故か皆さん、口々に『薬を売ってくれ』と言ってくる。
「こらこらお前ら! やめろ! 嬢ちゃんが困ってるだろうが!」
事態が飲み込めず呆然としていると、おじさんが冒険者さんの壁をこじ開けて入って来た。
「おじさん……! ……あの、これ、何事……?」
「ああ、すまんな嬢ちゃん。今朝街の近くに魔窟が現れてな。それでこいつらが騒いでるんだ」
「へ?」
魔窟……?
何だろう、それ?
「ほらほらお前ら、散れ! 薬の独占は禁止だ! 薬が欲しいのは皆一緒なんだからな!」
「そんな事はわかってるさ、おやっさん! だから薬全部を独占しようってわけじゃない。ただ、この嬢ちゃんが今持ってる薬を、全部買うだけだって!」
「同じ事だろうが! 屁理屈言うんじゃねえ! 嬢ちゃんの薬が欲しいなら、ギルドが買い取ったあとに売買カウンターで買え!」
「あ、あの、おじさん? 魔窟って、何ですか?」
「は?」
「「「 え? 」」」
「えっ?」
……あれ?
なんか、皆さんの目が、点になってるような……魔窟が何か知らないって、そんなにおかしな事だったのかな?
「あ、あ~……そうか。嬢ちゃんは知らないのか。魔窟ってのはな、今まで何もない場所に、ある日突然現れる迷宮の事だ。……いつどこに現れるのか、どうやってできたのか、一切不明だが……この魔窟の中には、世にも珍しいアイテムや金銀財宝が山ほど眠っててな。だから魔窟が現れると冒険者達が色めき出すのさ。……その魔窟が今朝、この街の近くに現れたんだ。それでこの騒ぎなのさ」
「へえ……」
迷宮の中に、世にも珍しいアイテムと、金銀財宝ねえ。
確かに、いかにも冒険者さん達が好きそうな場所だなぁ。
……ん?
ちょっと待って、珍しいアイテムがあるって事は……。
「ねえおじさん? もしかして、錬金術に使える珍しい材料も、その魔窟にある?」
「ん? ……ああ、あるらしいぜ」
「わ、本当に? なら、私も行きたい!」
「……は?」
「あのっ、皆さん、魔窟に行くんですよね? どなたか、私も連れて行ってくれませんか?」
「「「 え 」」」
「お願いします!」
「……いや……あのさ、場合によっては連れて行ってもいいんだけど……嬢ちゃん、レベルはいくつなんだ?」
「え? ……レベル……?」
「冒険者レベルだよ。ステータスを見ればわかるだろ?」
「……ステータス……」
……ああ、そっか!
魔物がいて、冒険者がいるとなれば、当然あるよね、ステータス!
あ……でも、どうやって見るんだろう?
う~ん?
「……嬢ちゃん? どうしたんだ?」
「……え……もしかして、見方がわからないとか、ないわよね?」
「うっ……!」
「……え、図星?」
「は? マジ!?」
「……えと……すみません、どうやって見るんでしょう……?」
「「「………………」」」
あ、皆さん絶句してる……。
「……嬢ちゃん。身分証、あるだろ? 見方教えてやるから、出してみな」
「……お、おじさん……! ありがとうございます! よろしくお願いします!」




