嵐襲来 3
午後になって、家の周りの材料を採取し終わった私は、調合図鑑をパラパラとめくっていた。
「う~ん……そろそろまた、新しいアイテム作りたいよねぇ……。何か新しく作れるもの、ないかなぁ」
今ある材料で作れる物は全て、既に一度は作っている。
そう、全て、だ。
爆弾も毒薬も、ちょっと怖かったけど、一回だけ作ってみた。
完成品は、誰かに売るのも怖かったので、倉庫の奥深くに眠っている。
「新しいもの、新しいもの~……あ」
パラパラとめくる手は、[装備品]の欄でピタリと止まった。
「あった……!」
ラピの守り服ーラピの毛×2 丈夫な布×2 赤い草or橙草
ラピのマントーラピの毛 丈夫な布 赤い草or橙草
ラピの手袋ーラピの毛 丈夫な布 浮遊石 赤い草or橙草
ラピのブーツーラピの毛 丈夫な布 丈夫な紐 浮遊石 赤い草or橙草
ラピぐるみーラピの毛×3 丈夫な布×3 浮遊石 赤い草or橙草
「ラピの毛を使った装備かぁ……。あ! 同じように、メエやフエのもある! そういえば、装備品の欄って見たことなかったかも」
何しろ、危険回避のスキルのおかげで、魔物とかには今だに一度も遭遇した事がない。
初めて釣りに行った時には、用心しなきゃ!と思って、翌日に初歩の爆弾を作ったけど、結局持ち歩くのが怖くて倉庫で眠ってるし。
魔法のじゅうたんを作ってからは、街までひとっ飛びだから、危険回避のスキルすら、必要ないくらいだし。
そんなわけで、装備品はスルーしてたんだよね……。
でも、他に新しいアイテムないし、作ってみようかなぁ。
私は改めて、[装備品]のページを見てみた。
武器に、防具に、アクセサリー。
あ、この剣強そう……。
わ、双剣だ……二刀流って格好いいよね。
うわ、重そうな斧……破壊力ありそう。
弓かぁ……狩人の武器だねぇ。
爪やグローブ……獣人とかいたら似合いそう。
あ、この杖可愛いかも……。
時間を気にせず、図鑑をまじまじと見ていると、ふいに、部屋の隅から光が溢れた。
「……あっ」
ラクロさんだ。
そう思って顔を上げると、そこにはやはり、ラクロさんが立っていた。
いつのまにか現れて突然声をかける馬鹿天使と違い、ラクロさんは来るときはいつも、光を放って現れる事を知らせてくれる。
「こんにちは、ラクロさん。今日は2回目ですね」
「ええ。こんにちは、華原さん。……結果をお知らせに参りました」
「結果?」
「ルークと、エンジュの処罰についての結果です。……気になってらっしゃるかと思いまして」
「あ……。……教えてくれるとは、思ってませんでした。わざわざありがとうございます」
「いえ。……エンジュは、明日の朝まで罰房行きになりました。ルークについては、一日だけ、罰房に入る期間が減りましたよ」
「……一日だけ、ですか……。……あの女性……エンジュさん?が言っていた事から考えると、罰房って、その、凄い所のように思いますけど……」
何しろ、何の音も通さず、一筋の光も射さない場所、だもんね……。
「華原さん。武器を、作られるのですか?」
「え?」
武器?
「図鑑。武器のページが開いてあります」
「あ、ああ……作ってみようかなって思って、見てたんですけど……」
でも何で突然、図鑑の話に?
「そうですか。……罰則については、これで以上です」
「えっ。あの、ラクロさ」
「どんなものでも、新しいものを作るのは、楽しいのでしょうね」
「……! ……ああ……そう、そうですね」
そっか……わざと話を逸らしてるんだ。
話せる事は話した、これ以上は聞くな……そう言ってるんだ、ラクロさん。
なら……うん、仕方ない。
ラクロさんに合わせて、話を変えよう。
「……でも、武器は鉱石類が必要みたいなので、次に街に行った時に買います。確か、道具屋さんと市場に売ってたはずなので。……だから、先に防具ですね。メメの毛がいくつか倉庫にあるから、メエぐるみから作ってみます」
「……メエぐるみ、ですか。それは……着たら、是非知らせて下さい」
「え? ……着ませんよ?」
「え?」
「売り物ですから」
「あ。………………そうですか」
……え?
何、今の長い間?
「ラクロさん……?」
「……ああ、失礼しました。……貴女が着たら、さぞ可愛らしいだろうと思いまして」
「え」
か、可愛らしいって……!?
「着ぐるみは、子供の愛らしさを引き立てますから」
「……あ。……ああ、子供……そう、そうですよね? うん! ですよね!」
びっくりした……!!
「さて、長居して、調合の邪魔をしてはいけませんね。用事も済みましたし、そろそろ帰るとしましょう。それでは華原さん。また」
「あ、はい! また来て下さいね、ラクロさん」
「ええ。では、失礼します。……華原さん、貴女が聡い方で、助かります。……ありがとうございました」
「!」
「そして……申し訳ございません」
そう言って、ラクロさんは姿を消した。
「……もう。せっかく話を変えたんだから、そのままスルーすればいいのに。話せない事なら、私は無理に聞きませんよ? ラクロさん」
私はつい今しがたまでラクロさんがいた場所を見つめて、一人ごちた。
「……はあ……さて、切り替え切り替え! 調合開始しよう! どんなふうになるかな、メエぐるみ! 楽しみ楽しみ! うん!」
私は図鑑を持つと、保管してあるメメの毛を取りに、倉庫に向かった。




