動物を買おう! 1
「いち、に、さん、よん、ご、ろく、なな。…銀貨は7枚かぁ。白貨が9枚に、銅貨3種はたくさん、と。約7万9千マニー。銅貨を入れれば8万マニー以上。……ちょっと、増えたかな」
アイリーン様と契約を結んでから、1ヶ月が経った。
アイリーン様に依頼品を届けたのは2回。
契約した日を入れれば3回。
支払われる報酬は最低でも銀貨1枚。
1度に納品する数は1種につき基本2個。
つまりアイリーン様は、1個につき5000マニーの値段をつけてくれている。
納品する数が多い場合と、高級品の場合はそれ以上が支払われる。
『報酬、多くないですか?』と聞いたら、『あら、こんなに質がいいのだから、適正価格よ?』と言われた。
……本当かなぁ。
疑問は残るけど……多いのは、正直助かるし、いいのかな?
「さて……行かないと」
私は今日を心待ちにしていた。
前回街に行った時、アーガイルさんから、1日だけ開催する特価セールの話を聞いたからだ。
今日は、いつもより動物が安く買える。
動物達の世話にはもうすっかり馴れた。
買うだけのお金もある。
そして特価セール。
これはもう、動物を増やすべき時でしょう!
私は庭に出て、魔法のじゅうたんに乗り込んだ。
すると、コタもこっそりと乗ってきた。
「あっ。……駄目だよコタ。さっき話したでしょう? 今日はモオとかを乗せる分重量がかかるから、コタはお留守番しててねって。何往復かしなきゃならないし」
魔法のじゅうたんは、4人乗りだ。
今日はモオとメエを一頭ずつ、それにアルパカみたいな子とウサギみたいな子をとりあえず一頭ずつ買うつもりだ。
それに、もう季節は夏だ。
夏服も揃えたい。
だから少しでも重量を減らすため、コタはお留守番させる事に決めていた。
「……ウォ~ン……」
「ああっそんな声出さないで! 用事が終わったらすぐに帰って来るから! ね? お願いコタ!」
「……ウォン」
コタはそう返事を返すと、渋々魔法のじゅうたんから降りた。
うっ……凄いしょんぼりしてる……。
でも今日は、どうしても連れて行くわけには行かないし……。
「ごめんねコタ! お詫びにコタの好きなササミお土産に買って来るから!」
「……ウォン!?」
あっ、ちょっと浮上したみたい。
良かった。
「じゃあ、行ってくるね! 出発!」
ササミ、というか……鶏肉を買うなら、ついでに他のお肉も買おうかな。
目的地に市場を追加しながら、私は街に向かった。
動物屋に入ると、アーガイルさんとアージュが声を張り上げていた。
「今日は年に一度の特価セールでございます! いつもは高くてなかなか手が出せない方、ペットを格安で購入されたい方、どうかこの機会をお見逃しなく!」
「貴方の生活に動物の癒しを! どんな子も今日だけはお安くなってます! 貴方を癒す運命の子をじっくり探して下さいね~!」
……うん、二人ともさすがのセールストークです。
けど、ずいぶん混んでるなぁ。
動物がいるガラスケースがまともに見れない……うう、子供の体が恨めしい。
「あら、クレハちゃん。いらっしゃい」
「あ、ジュジュさん。こんにちは。大盛況ですね」
この人はジュジュさん。
アーガイルさんの奥さんで、アージュのお母さんである。
サラサラストレートの金茶の髪に、菫色の瞳の、綺麗な人だ。
「クレハちゃん。この人混みじゃ、動物、見えないでしょう? お昼どきになれば少しすくから、もし他に用事があればそれを先に済ませていらっしゃい。残念ながら、今日はアージュも大事な戦力だから、一緒には行けないけど」
「あ、はい。動物の説明、アージュ上手いですもんね」
「ふふ、そうね」
「じゃあ、あとでまた来ます。お仕事、頑張って下さい」
「ええ、ありがとう。またあとでね」
私は動物屋を後にした。
洋品店で夏服を買い、市場へ行く。
目指すはお肉屋さんだ。
お肉屋さんは……正直、ちょっと苦手だ。
牛肉や羊肉は捌かれて、長方形の塊になり、保冷剤の役割をもつ魔石と一緒に袋に入れられているんだけど、豚肉や鶏肉は……その……そのまま、売られている。
アージュに連れられて初めて市場に来た時は、それを見て悲鳴をあげそうになった。
必死に目をそらし、捌いてある牛肉を買っていると、アージュが、『鶏肉とかは買わないの? 捌けないならお父さんに頼めばやってくれるよ? お母さんもね、いつもお父さんに頼んでるの』と言ってきた。
私は一度ちらりと鶏肉と豚肉を見て、散々迷った末購入した。
動物屋までその"物体"を運ぶ間、必死に無心になるようにつとめた事は言うまでもない。
私は一人暮らしである為、そのままで売られていたお肉は量があったから、まだ残っている。
けどどうせお肉屋さんに行くのなら、買ってしまおう。
倉庫には劣化防止機能があるから、どれだけ放置しても鮮度は保たれる。
……あの"物体"を見たり運んだりすることは、できうる限り少ないほうがいい。
またもや無心になりながら動物屋に戻ると、中はがらんとしていた。
お客さんが一人もいない。
あれ?
お昼どきとはいえ、特価セール日にこれは……おかしくない?
店内を見回すと、アーガイルさん達の姿すらなかった。
あれれ?
「……あの~! アーガイルさん、ジュジュさん、アージュ~? 誰かいませんか~?」
少し大きめの声で私がそう言うと、奥からパタパタと走って来る音がした。
「クレハ! いらっしゃい!」
奥に通じるドアを開けて、アージュが元気な顔を見せる。
「アージュ! どうしたのこれ? お客さんは?」
「うん、あのね。特価セール日は一日中お客さんが引かないから、お昼に1時間だけお店を閉めてるの。そうしないと、ご飯を交代制にもできないほど忙しいから」
「……ああ、なるほど。そういう事」
「うん。さ、おうちのほうに上がってクレハ! ご飯、クレハの分も作ってあるから!」
「あ、うん。ありがとう。じゃあ、お邪魔します」
「うん、どうぞ~!」
私は動物屋の裏手にある、アージュの家にお邪魔してお昼をいただいた。
私の手にあった"物体"は、気づいたアーガイルさんがすぐに捌いてくれた。
感想に指摘があったので、お肉のエピソードを追加しました。
今までの話で、『これはどうなってるんだろう?』と、気になった点がありましたら教えて下さい。
可能な限り書いていきます。




