家に帰れば。
帰りは馬車を利用したおかけで、行きよりもずっと早く帰れた。
「……え、モモ……?」
「モオ~」
家に着き、庭に入ると、モモが庭の草をのんびりと食んでいた。
私が声をかけると、返事を返してくれた。
庭を見回すと、メメやココもいる。
「な、何で? 私昨日は、放牧してないはずなのに、何で外にいるの?」
しかも、放牧スペースじゃなくて、庭にいるなんて……?
と、とにかく、放牧スペースに移動させないと。
「モモ、メメ、ココ! 庭は駄目だよ、いつもの所に移動して~!」
「モオ~」
「メエ~」
「コッコッコッ」
モモを軽く押しつつそう言うと、モモ達は返事をして、大人しく放牧スペースに歩いて行ってくれた。
うん、うちの子達はとてもいい子です。
ラクロさんにつけてもらった、動物に好かれやすい、というスキルのおかげもあるんだろうけどね。
さて、籠をひとまずリビングに置いて、畑の水やりをしないと。
買って来た物を片づけるのはその後だ。
……それにしても、どうしてモモ達外に出てるんだろう?
おかしいなぁ。
倉庫に行くと、何故かジョウロがなかった。
昨日は急いでたから、しまい忘れたかな?
なら畑にあるだろう、と畑へ来て……一番最初に目にしたのは、仁王立ちのラクロさん。
ラクロさんの視線を追うと、そこにはしゃがみこんで何かをしてる馬鹿天使がいた。
そして……。
畑を見ると、すくすくと育っていたはずの作物の姿は何故か一切なく、ただ土があるだけだった。
「……何、これ」
私がそう呟くと、ラクロさんと馬鹿天使が私を見た。
二人とも、気まずそうな顔をしている。
「……お帰りなさい、華原さん。……申し訳ございません」
「……お、お帰りなさい……。……すみません、華原さん」
……うん、お帰りなさい、って言ってくれるのは嬉しいよ?
もうずいぶんと、そんな言葉は聞いてないし。
けど……何でそのすぐあとに、謝罪の言葉が続くの?
ていうか。
「……作物は……?」
「……。……申し訳ございません」
「……す、すみません! あのっ、ほら、華原さんは、僕じゃなく先輩の加護を望んだから、僕じゃなくて先輩が代わりに償うような形になったでしょう? ……でも、やっぱり僕も自分で償いたくて、時々華原さんの様子を見てたんです! そしたら、華原さん昨日は街の宿に泊まるようだったから、それなら、今日の動物の世話と畑の水やりは、せめて僕がやっておこうと思って! ……それで……」
「……。……それで?」
「水やりを……やろうとしたら、転んじゃって。一部の作物下敷きにしちゃって……慌てて先輩にどうしたらいいか聞いたら、その作物撤去して、新しく種買って植えて、成長促進の魔法で元通りにしろって言われて、その通りにしたんです」
「……その通りにって……元通りに?」
……それで、どうしてこうなるのか。
一部の作物どころか、全部が綺麗さっばりなくなっているように見えるんだけど。
「……これが、元通りなの? ……私の目、おかしくなったのかなぁ?」
「い、いえ! ……その。……成長促進の魔法唱えた時に、加減間違えて……元通り通り越して、枯らしちゃって。ついでに、周りの作物まで全部、巻き添えにしちゃったみたいで……」
「……全部、巻き添えに?」
「……は、はい」
「……本当に、申し訳ございません華原さん。ルークに魔法まで指示した私が間違っていました。魔法は、私が唱えるべきでした。ウォンを届けに来た時にはもう、この有り様で……。……私の責任です」
「そ、そんな! 先輩は悪くありません! 僕が加減を間違えたのがいけないんです!」
「……………」
私はゆっくりと、無言で馬鹿天使の前まで歩き、立ち止まった。
「え? か、華原さん?」
「……ねえ、馬鹿天使」
「は、はい?」
「……歯、食いしばれ」
「えっ!?」
私は固く握った拳に、ありったけの力をこめて、馬鹿天使の頬にクリーンヒットさせた。
「いったあっ!? ……な、何するんですか華原さん!」
「うるさい! 私が毎日丹精込めて育てた作物を、よくもこんな姿にしてくれたわね!! 今日という今日はもう許さない!! 覚悟しなさい馬鹿天使~~!!」
そのあとしばらく私は、悲鳴を上げてあちこち逃げ回る馬鹿天使を追いかけ回した。
「許してっ、許して下さい華原さん! 悪気はなかったんです~!」
「うるさい! 許さないって言ったでしょ! 逃げるな馬鹿天使!!」
「嫌ですよ~! あ、そうだ! 空に逃げればっ!」
「封印。対象、ルークの翼」
「え!? ……わ! ひ、酷いです先輩! 封印なんてしたら飛べないじゃないですか! 解除して下さい!」
「知らん」
「ありがとうございますラクロさん! さあ、観念しなさい!!」
「そんな~!」
そうして私が馬鹿天使をボコボコにした頃、ラクロさんが私を畑に呼んだ。
「わぁ……! 凄い、元通りになってる! ありがとうございますラクロさん!」
畑には、昨日までと全く変わらない状態の作物の姿があった。
「いいえ、礼には及びません。ご迷惑をおかけしました、華原さん」
「ラクロさんが謝る事ないです! 馬鹿天使のせいなんですから!」
「私は、教育係ですから」
「……ああ、そうでしたね。ご苦労、お察しします」
「うう……元通りになるんですから、ここまで殴ることないじゃないですか~……」
「うるさい、馬鹿天使!」
「……さて、帰るぞルーク。次は神様のお説教だからな」
「ええ!? 報告するんですか!?」
「当たり前だ。償い対象者に更に迷惑かけて、お咎めなしな訳ないだろう。……封印、解除。ほら、帰るぞ」
「……そんな~……」
「それでは華原さん、失礼します。……ああ、ウォンは、ペット小屋にいますので。新しく作っておきましたので、ご確認下さい」
「あ、はい! ありがとうございます! それじゃあ、また!」
「はい、また」
「……失礼します~。またお会いしましょう……」
「あんたはもう来なくていいわ」
「そんなっ! ひ、酷いです……!」
何が酷いものか。
「……ま、また来ますからね~!」
その言葉を最後に、二人の姿は消えた。
「……はあ。……さて、と。モモ達小屋に入れて、ウォンに餌あげなきゃ。……あ、名前、何にしよう」
モモ達と同じようにつけるなら、茶太なんだけど……雄でも、あの子の毛色は、茶色じゃないしなぁ。
青……というより、紺だから、紺太とか?
……う~ん……なんか、しっくりこないなぁ。
……コタ、とか、いいかも。
うん、コタにしよう、決定。
「……モモ~、メメ~、ココ~! そろそろ小屋に入るよ~!」
放牧スペースへ行って私がそう声をかけると、モモ達は返事をして小屋へ歩いて行ってくれる。
うん、本当に、いい子達です。
小屋の扉を開けて、モモ達が中に入るのを確認して、扉を閉める。
これだけでいいのだから、とても助かる。
「……さてと。コタはどうしてるかな」
私はペット小屋へと向かった。




