ネオスティアの勇者 9
夕方になり、私達は王城の広間に移動した。
ここにも、優勝者を祝おうと、大勢の人々が集まっている。
「う~ん、やっぱり凄い人だね。もし皆とはぐれたら絶対見つけられなそう」
「そうですね、気をつけましょう。……それにしても、フェザ様、凄かったですね」
「うん。素晴らしい試合でしたね、クレハ様」
「そうだね。フェザ様がまさかあそこまで強いなんて……それも、優勝しちゃうなんて思わなかったよ」
「はは。まぁ、フェザ様は王子殿下だしね。剣術にしろ何にしろ、一流の師について学んだろうから、この結果は不思議ではないんだけど。むしろ、彼はここからが大変だよ。まあ、覚悟の上だろうけどさ」
「え? "ここからが大変"って……どうしてですか? フレンさ」
フレンさんの言葉に首を傾げ、その意味を尋ねようとすると、広間に楽隊の奏でる音楽が響き、私の言葉は掻き消された。
それまで談笑していた人々も口をつぐみ、その視線は入り口の扉に集められる。
そんな中扉が開き、静まりかえった広間に、国王陛下や王妃殿下、王子殿下方が揃って現れ、ゆっくりと玉座に向かって進んでいく。
その姿を見て、私は違和感を覚え首を傾げた。
一人、足りない。
フェザ様がいないのだ。
どうしたんだろう……?
私のそんな疑問をよそに、国王陛下方は玉座に辿り着くと、広間をぐるりと見渡した。
「皆のもの、よく集まってくれた。今日は記念すべき日だ。一人の強者が役目を終え安穏を手にし、また、一人の強者が役目を継ぎ、栄誉を手にする」
へ?
役目?
安穏……栄誉?
な、何の話だろう……これ、大会の祝賀会だよね……?
「ユーシス・ハイアルク」
国王陛下がそう口にすると、初老の男性が一人、玉座の前に進み出て膝をついた。
今のは、あの人の名前だろうか?
「これまでよくこの国の為に戦ってくれたな。全ての民に代わり、礼を申す。そなたの名と功績は国史に刻まれ、後世までずっと語り継がれていくだろう。……本当に、ご苦労だった。これよりは、健やかに、心穏やかな日々が送れる事を、祈っておるぞ」
「は。この身に余るお言葉、ありがたき幸せにございます。明日からは遠き地にて、陛下を始め皆様のご健勝と、国の平穏と発展を、陰ながら見守らせて戴きます」
「うむ。……フェザラッド・ネオスティア」
国王陛下は男性の言葉に頷くと、視線を再び広間に戻し、フェザ様の名を呼んだ。
すると、広間の片隅からフェザ様が姿を現し、玉座の前に進むと、男性の隣に膝をついた。
「フェザラッド・ネオスティア。本日の試合、誠に見事であった。優勝したそなたには、我が国最高級の栄誉が与えられる。受けとるがよい。……ユーシス」
「はっ」
国王陛下が男性に声をかけると、男性は立ち上がり、腰にある剣を鞘ごと外し、フェザ様へと差し出した。
「陛下より賜りしこの宝剣と、ネオスティアの勇者の称号を貴殿に送ります。……私の後継者よ、この国を、頼みます」
「……ありがたく、頂戴致します。いずれ後続に引き継ぐその日まで、国の平穏は必ず守り通す事をお約束致します」
フェザ様は男性の言葉にそう返し、捧げ持つように差し出された剣を受け取った。
そして立ち上がると、鞘を腰に差し、剣を抜き放つと、それを高々と掲げた。
「この日、この時をもって、ネオスティアの勇者は私に引き継がれた! これより国の平穏はこの私が守り抜く事を、この宝剣に誓う!!」
ワアアアアアアアア!!!
フェザ様が堂々とそう言い放つと、広間は人々の大きな歓声に包まれたのだった。
「クレハ! 父上……いや、陛下より魔物討伐の命が下った。明日朝一で現地へ発つ。薬の用意を頼む」
「あ、はい、わかりました。数はいつも通りでいいですか?」
「ああ、それでいい」
「はい。じゃあ、早速作りますね。シヴァくん、手伝ってくれる?」
「はい」
あれから。
勇者となったフェザ様は、なんと拠点となる住処を私の家に移した。
これは、フェザ様達勇者一行の使う装備やら薬やらを、私が一手に担う事になったのが原因だった。
これらは"国を守る勇者の為のもの"なので、無償で作成し渡す事が義務づけられているそうだ。
なのでフェザ様は、魔物や盗賊などの討伐命令がない時は、私の護衛の一人に加わる、という引き換え条件を口にし、とんでもないと拒否する私の言葉には聞く耳を持たず、最終的には私が根負けして受け入れる形で、ここに移りすんだのである。
……今でも時々、本当にいいのかなぁと、疑問が頭をよぎる。
そうそう、勇者一行、つまり、フェザ様の仲間達には、あの日、王都の別の会場で開かれていた試合の、上位三人がなった。
一人はアレク様。
アレク様は今、アイリーン様のお屋敷に住み、討伐に出掛けない普段は、アージュと一緒に、動物屋を手伝っている。
一人は、リィンさん。
私が初めて街に行った時、ギルドで出会った女の子だ。
今はフェザ様の仲間として、私の家に住んでいる。
リィンさんは普段、動物達の世話を手伝ってくれている。
最後の一人は、ソールさん。
祝賀会でフェザ様に紹介された、物腰の穏やかなお兄さんだ。
フェザ様も、大会後に初めて会った人らしい。
ソールさんも家に住み、実家が農家だったらしく、普段は畑の世話を手伝ってくれている。
その為、私は動物を増やし、畑も広げた。
正直に言おう。
かなり助かっている。
時々無償で渡す薬や装備品で釣り合いが取れているのか、首を傾げるほどだ。
最近は荒事に巻き込まれる事もなく、私はとても穏やかな日々を送れている。
盗賊に襲われたり何なりしていたのが嘘のようだ。
けれどこの数年後、私の周囲はまた騒がしくなるのだけど……それはまた、別の話。
私は今日も、皆と一緒に、動物の世話をし、畑の世話をし、街に行き、採取に出掛け、調合をする。
それが私の、異世界移住生活。
ここまでご愛読ありがとうございました!
最初に書く予定だったスローライフとはかなりかけ離れた作品になってしまいましたが……いかがでしたでしょうか。
ひとまず、これで完結です。
色々と不完全燃焼ではあるのですが、クレハがまだ10歳な為、恋愛させてイチャラブさせるのに抵抗があり……。
けれど恋愛させて無理のない年齢になるまで書き続けるには、ネタが切れてしまいました……。
なら一気にそこまで上げようかとも考えましたが、今まで一年一年進めていたのに突然そうするのもなんだか嫌で。
無理矢理ネタ出して一年ずつ書いてもつまらないものになるのはわかりきっていて。
考えた末、一旦終わらせようという結論に至りました。
出しきれていないものに関しては、数年後のクレハ達、という形で新たに別の連載を立ちあげ、そちらに書こうと思います。
まぁ、他の連載もあるので、始めるのは体力的に余裕ができるであろう秋くらいになると思います。
その時にまた、お読み頂けたら幸いです。




