ネオスティアの勇者 6
王都の街門をくぐると、そこにはアレク様とフェザ様の姿があった。
私達は再会の挨拶を交わすと大通りへと進み、以前王都に来た時と同じ宿へ入った。
「さてクレハ。早速だが、依頼した品を見せて貰おうか」
「あっ、はい!」
宿の部屋へ入ると、後からアレク様とフェザ様がついてきて、そう言われた。
私はそれに頷くと、アレク様とフェザ様、それぞれの装備品を荷物から出した。
アレク様とフェザ様は出されたそれを受け取り、そして出来栄えを確認した。
「へえ……うん、母上の言う通りだね。クレハちゃんの腕は確かなものだよ。ありがとう、クレハちゃん。大切に使うよ」
「はい。こちらこそ、ご依頼、ありがとうございました。……フェザ様は、どうですか?」
装備品を見て満足そうに言葉を発したアレク様に対し、フェザ様はまだじっと大剣を見つめていた。
な、何か、気になる点でもあったかな……?
「……クレハ。この大剣、ずいぶんと軽いが、どういう事だ?」
「あっ、はい! 重量の軽量化を計ってみたんです。それが成功したので、軽くなってます!」
「……軽量化? それは……いや、まぁいい。とりあえず調べさせて貰うぞ」
「え? "調べさせて"って……?」
「鑑定、発動」
フェザ様がそう言うと、闘神の大剣が淡い光に包まれ、その上に文字が浮かび上がった。
攻撃力、耐久性、属性、重量、備考……え、これって……!
「……ふむ……なるほど。そういう事か」
「へえ……! 凄いね、クレハちゃん、そんな事もできるんだ?」
「え? "そんな事"……って?」
アレク様の言葉に、私は表示された闘神の大剣のパラメーターを凝視した。
けれど、何の事を言われているのかさっぱりわからない。
私はアレク様とフェザ様に、説明を求めるような視線を向けた。
「ああ、その顔は、わかってないんだね?」
「……クレハ。お前はこの大剣を軽くしたわけじゃない。表示された重量は市販されているものと変わらない」
「え!? で、でもそれ、私でも持てるくらい軽いですよ!?」
「だろうね。クレハちゃん、備考欄、読んでごらんよ?」
「備考欄? ええと……"使用者に対する負荷を軽減する"……?」
「そう。つまり」
「お前は大剣を軽量化したのではなく、使い手がその重さを感じる事がないようにしたんだ」
「え…………えええええ!?」
「……うん、本気で驚いてるね」
「……何で作った本人がわかってないんだ……」
告げられた事実に私が驚きの声を上げると、アレク様とフェザ様は呆れたような顔でそう呟いた。
う、だって……軽くなるようにって思って作ったら本当に軽くできたから、てっきり……。
「え、ええと。そ……それで、どうでしょうか……? 使って、いただけますか? フェザ様?」
「ん? ああ……悪いな、それについては、まだ判断できない。他に頼んだ品がまだ届いてないからな」
「あ、そ、そうなんですか」
「ああ。けど、これらは期待以上の出来だ。鎧も注文通りだし、文句はない」
「あ……! よ、良かった! 鎧も、工夫したんですよ! 図鑑通りの全身鎧だと重いかなって思って、一部分を」
「全身鎧? おい、待て。俺が頼んだのはフルメイルじゃなくハーフメイルだぞ?」
「え? ハーフメイル? ……何を言ってるんですフェザ様? 闘神の鎧はフルメイルですよ?」
「闘神の鎧? 俺が頼んだのは戦神の鎧だぞ?」
「え、そんな……!? で、でも確かにメモには……! シ、シヴァくん~! シヴァくん~!!」
怪訝な顔で思ってもない事を告げたフェザ様に、私は慌てて部屋の扉へ向かうとそれを開け放ち、隣の部屋へ向かって声を上げ、メモを一緒に見たシヴァくんを呼んだ。
「クレハ様? どうなさいました?」
「シヴァくん! あの、フェザ様から届いたメモだけど、鎧は闘神の鎧って書いてあったよね!?」
隣の部屋の扉からシヴァくんが顔を出すと、私は早口にそう尋ねた。
「あ、はい。そうでしたが、それが何か……?」
「だ、だよね!? 良かった……! ほら! やっぱり闘神の鎧でしたよフェザ様!」
シヴァくんが頷くと、私はホッと胸を撫で下ろした。
次いで部屋の中にいるフェザ様を振り返り、間違っていない事を告げると、フェザ様は顔をしかめた。
「……そのようだな。悪いクレハ。恐らくメモを書いて送るよう命じた奴のミスだ。城に来たばかりの見習いで、俺のもとに配されたはいいが、何かと失敗する奴でな……」
「……ああ、あの人か。となると、フェザ? 他の人へのメモも……」
「ああ、間違えてるだろうな。だが命じた期日は明日までだ。既に完成してるだろうし、今さら間違いだったとは……」
「……言えない、ね」
そう言って、アレク様とフェザ様は揃ってため息を吐いた。
……見習いで、何かと失敗する人、かぁ。
心の中でそう繰り返した私の脳裏に、馬鹿天使の姿が浮かんで、そして消えた。
「……メモが、間違っていたのですか?」
「えっ? あ、シヴァくん。うん。そうみたい」
「……そうですか。それで、どうなさるのですか?」
ふいに、すぐ近くから聞こえた声に視線を向けると、いつの間にかシヴァくんが隣に立っていた。
私が頷くと、シヴァくんは部屋の中のフェザ様に視線を移し尋ねた。
「どうもこうも……仕方ない。クレハ、鎧はお前のものを使わせて貰うぞ。他へは、しかと謝罪して、騎士にでも下げ渡す事にする。……とりあえず、俺は急ぎ帰って奴を問いただし叱責せねばならん。これで失礼させて貰うぞ」
「あっ、はい、わかりました。それじゃあフェザ様、また」
「次は、大会の日、ですね」
「ああ。またな二人とも」
「気を付けてねフェザ。それと、あんまりキツく叱っちゃ駄目だよ? どうせフェザのすぐあとに、他の人からもお叱りがあるんだろうから」
「……わかっている。また明日なアレク」
アレク様の言葉にそう短く答えると、フェザ様はお城に帰って行った。
というわけで、鎧を変更しました。
どことなく無理やり感が漂っている気がしなくもないですが気にしません。←




