ネオスティアの勇者 3
「お~~いクレハ~~!!」
「クレハちゃ~~ん!! いないの~~!?」
「えっっ!?」
王都行きを5日後に控えたある日、リビングで皆と一緒に楽しくお茶をしていると、どこからか私を呼ぶ声が響いた。
「あら? お客様でしょうか?」
「この声……フェザ様とアレク様? え、まだ王都にいらっしゃるはずなのに……?」
「そうですよね? ……でも今の声、上から聞こえて来ましたよ?」
「上から? ……クレハ様、あのお二人に魔法のじゅうたんを渡されたんですか?」
「え、ううん、そんな事は……」
「クレハ~~~!!」
「お~い、クレハちゃ~~ん!!」
「あっ! は~い!」
再び聞こえてきた大きな声に、私は皆との会話を中断し、慌ててリビングを出て玄関に向かい、扉を開け、空を見上げた。
「……あれ?」
私はそう呟いて、視線を下げると、周囲を見回す。
そして再び空を見上げて、キョロキョロと広い空を見回した。
けれども、そこには誰の姿も見つける事はできなかった。
「クレハちゃん? どうしたの、早く中に入ってもらいなよ」
そう言いながら、フレンさんが玄関に姿を現した。
私は背後を振り返り、困ったようにフレンさんを見返した。
「それが……外には、誰もいないんです。アレク様も、フェザ様も」
「え? ……ちょっと、どいて」
私の言葉を聞くと、フレンさんは私の横を通り抜け外に出て、周囲を見回した。
「本当だ……誰もいないね。おかしいな……」
フレンさんがそう言って首を傾げ、玄関に戻った、その時。
「ク~~レ~~ハ~~!!!」
再び、フェザ様の声が響いた。
「えっ……!? い、今の、って」
「……二階から聞こえたね?」
「クレハ様! 今の、クレハ様のお部屋から聞こえました!!」
私とフレンさんが階段へ向かうと、リビングから出てきていたギンファちゃんにそう告げられる。
「へ!? わ、私の部屋……!?」
何で私の部屋からお二人の声がするの!?
これがラクロさんとかなら、ああ、来たんだな、で済むけれど、アレク様とフェザ様ってどういう事!?
訳がわからず、私は自室がある場所の天井辺りを凝視した。
「……クレハ様。もしかしたら、親愛の水晶ではありませんか? アレク様は、アージュちゃんと連絡を取るためにお持ちですし……クレハ様も、先日の盗賊の一件でお作りになって、今もお部屋に置かれていますよね?」
「……あ……! そっか! それで声だけ聞こえてくるんだ! うん、なら納得! さすがシヴァくん、冴えてるね!」
「ありがとうございます。……ですが、早くお部屋に戻られたほうがいいかと思います」
「あっ! そ、そうだよね、うん! 行ってくる!!」
シヴァくんに促され、呼ばれていた事を思い出した私は、慌てて自室へと駆けて行った。
「……う~ん、これは駄目だね、フェザ。クレハちゃん、出かけちゃってるみたいだよ」
「……チ、タイミングが悪いな。昼食時を少し過ぎたくらいなら、家にいると思ったんだが」
「仕方ないよ。夕方にでも、また声をかけてみようよ」
「夕方か……では、それまで滞在させて貰うぞアレク」
「うん、わかった」
扉を開け部屋に駆け込むと、そんな会話が聞こえてきた。
机の横にあるキャビネットを見ると、やはり親愛の水晶が光を帯びて、人の姿を映し出している。
「ア、アレク様! フェザ様! すみません、お待たせしました!!」
私は水晶に駆け寄りながら、そう声を上げた。
「あ……! クレハちゃん!?」
「はい! ごめんなさい、まさか水晶から声が聞こえてきてるとは思わなくて、玄関に行っちゃって!」
「何? ……俺達はまだ王都の学生なのに、長期休暇でもないのにそちらに行くわけがないだろう?」
「う……そ、そうですよね……すみません……」
呆れたようなフェザ様の声に、私は謝りながら水晶に向かって頭を下げた。
「まあまあ、フェザ。僕がこの水晶を使ってクレハちゃんに連絡を取るのはこれが初めてだし、突然だったんだから仕方ないよ。いきなりごめんね、クレハちゃん」
「い、いえ……あの、それで、私に何か?」
「あ、うん。……あのさ、王都で僕達が、大会に出るのは、もう知っているよね?」
「あ、はい。アージュから聞きました。大事な大会なんですよね?」
「そうだ、とても大事な大会だ。……それに備えて、装備を新調したい。クレハ、トルルの街のギルドに、作って欲しい装備のメモとその材料を送ってある。もう届くはずだ。それを作って、王都に持ってきてくれ」
「え、ギルドに? ……ええと、大会には、フェザ様も出場なさるんですね? でも……大事な大会なのに、私が作った装備でいいんですか?」
「うん。母上から、君の錬金術の腕は凄くいいって聞いていたから、前々から何かお願いしたかったんだよ。だから是非、お願い」
「クレハ。……俺は、他にもこの国の、名のある鍛冶師や錬金術士に同じものを頼んである。届いた完成品の中で、一番いい物を使うつもりだ」
「えっ……?」
な、名のある鍛冶師や、錬金術士?
一番いい物をって……えええっ!?
「もちろん、使わない事になっても金は払う。依頼したのは事実だからな」
「えっ!? い、いえ、お金はいいです! 材料は届くんでしょう? なら材料費もかかりませんし!」
「何言ってる、無償で仕事をするつもりか?」
「"仕事"……う~ん……わかりました。それなら、万が一私の作った物をフェザ様が選ばれたなら、お金を戴きます。"仕事"と言うなら、ちゃんと納品してこそ、仕事ですから!」
「……ほう? ……"万が一"というのは気に入らんが、まあいい。わかった。……期待しているぞ? クレハ?」
「うっ! よ、余計なプレッシャーかけないで下さい……!!」
「ははは!」
「クレハちゃん、僕は、お願いしてるのはクレハちゃんだけだから、お金はちゃんと払うからね。装備一式、よろしく頼むよ」
「あ、はい、わかりました!」
「ではなクレハ。王都で会おう」
「またねクレハちゃん」
「はい、それじゃまた後日、王都で」
私がそう言うと、水晶は光を失い、何も映さなくなった。
「さて……アレク様の依頼はとにかく、フェザ様の依頼は……大変な事になったなぁ」
この国の名のある鍛冶師や、錬金術士かぁ。
王子殿下であるフェザ様の依頼って事で、全力で取り組むんだろうなぁ。
ラクロさんがくれたスキルのおかげで、私の作る物は質がいいらしいけど……そんな人達の作った品にまで、勝る事ができるんだろうか?
……う~ん……。
……まぁ、ここで悩んでいても仕方ないよね。
私はいつも通りに作るしかないんだし。
とりあえず、ギルドに届くっていうメモと材料を取りに行かなくちゃ。
「シヴァく~ん、ギンファちゃ~ん、フレンさ~ん! 出かけますよ~!」
私は部屋を出て、階下に向かってそう声をかけながら、階段を下りて行った。




