防衛作戦 6
今日も一更新です。
「クレハちゃん! 皆!」
「えっ? あ……! フレンさん! セイルさん!」
翌日、私達が大量の爆弾が入った袋を手に家から出ると、空からフレンさんの声が聞こえ、見上げると魔法のじゅうたんに乗ったフレンさんとセイルさんが降りてきた。
「良かった、全員無事だね。見たところ、出かけるみたいだけど……街に行くの? もしそうなら、しばらくはやめておいたほうがいいよ」
「二つの盗賊団の首領達が、街を狙っているらしいんだ。襲撃してきた盗賊から聞いた話だから、間違いない。俺達は急いでこの事をアイリーン様と軍団長様に知らせに行く。クレハちゃん達は危険だから、事が済むまで街には」
「その話なら、もうアイリーン様も軍団長様も知っています。ここにも襲撃があって、捕縛した盗賊からアイリーン様達が聞いたんです。それで、街の襲撃に備えて、ひとつ対策を立てたんです。だから私は、これを届けに行かないと」
「へ? な、何だ、そうなのか。もう対策を。で、その対策って? 届けにって、それは何だい、クレハちゃん?」
「ちょっと待ってよセイル。その前に、ここに襲撃って……皆、大丈夫だったの? 服の下に怪我を隠してたりとか、ないだろうね?」
「はい、大丈夫ですよ。詳しい事は行きながら説明しますから、とりあえず街に向かいましょう? フレンさん、セイルさん」
街への襲撃の話を聞いて気が急いているのか、フレンさんとセイルさんは代わる代わる言葉を紡ぎ、畳み掛けてくる。
私はそれにやんわり待ったをかけて、広げた魔法のじゅうたんに乗り込んだ。
それにシヴァくんとギンファちゃんが続くと、二人は頷き、再び自分達が乗ってきた魔法のじゅうたんに乗った。
「それじゃイリスさん、行って来ますね。私達が帰るまで、家の敷地からは出ないで下さい」
「はい、わかりました。……どうかお気をつけて。皆さんのお帰りを、お待ちしています」
そう言ってイリスさんが頭を下げるのを横目に、私達は空へと飛び立った。
「施錠」
私は家を振り返り、侵入不可のスキルを発動させた。
これで、もし再び家が襲撃されても、家の敷地には誰も入れない。
解除するまで、中からも出れないだろうけど……イリスさんには今のところ家の外に用事なんてないから、大丈夫なはずだ。
街に着くと、私達はまっすぐハイヴェル邸に向かった。
応接室には軍団長様がいて、私達が到着するとすぐに細かい作戦が立てられた。
私達が作った爆弾に加え、フレンさんとセイルさんという一騎当千と言っても過言ではない戦力が戻った事もあって、アイリーン様と軍団長様の表情はわずかに明るさを取り戻した。
「アイリーン様。街門から爆弾を投げるメンバー、僕を入れて下さいね」
「えっ? そ、そんな、どうしてですかフレンさん? 何でそんな役に立候補するんです?」
作戦会議が終わるとすぐ、突然フレンさんがとんでもない事を言い出して、私は驚きの声を上げた。
「そうよフレン。そんな必要はないわ。貴方は門の内側で、突撃するまで待機していていいのよ」
「その通りだフレンくん。戦いの中で敵を殲滅するならともかく、爆弾で一方的に虐殺するなどという行為を、一般人にさせるわけにはいかない」
一方的に、虐殺。
軍団長様が発したその言葉に、私は唇を引き結んで俯いた。
……私が作ったのはそういうアイテムだって、わかっていたはずなのに。
わかっていた上で、作ったはずなのに。
なのに、事実を改めて告げられただけで、途端に恐ろしくなる。
「「 ……クレハ様 」」
「あ……」
俯いた私に気づいたのか、シヴァくんとギンファちゃんが左と右から、そっと私の名を呼び、手を握ってくれた。
「……ありがとう、二人とも」
気づかってくれる二人にお礼を言うと、私は再び顔を上げた。
すると、何故か不機嫌そうな顔をしたフレンさんと目が合った。
ど、どうしたんだろう?
「……はぁ、だから行きたくなかったんだ。アイリーン様、軍団長様、どんなに止めても僕は街門に立ちますよ。このままじゃ、僕だけ仲間外れでしょうから」
「へ? な、仲間外れ?」
溜め息を吐きつつ告げられたフレンさんの言葉の意味がわからず、私は首を傾げた。
「……わからない? クレハちゃん、この爆弾を作るの、シヴァくんはもちろん、ギンファちゃんやイリスちゃんも手伝ったんじゃない?」
「え? あ、はい……そうですけど……」
「やっぱり。つまり、皆は君の重荷を分けられた訳だ。けど、僕はその場にいなくて、それが叶わなかった。それなら、あとはこの爆弾を使うしかその方法はないだろう? 僕だけ仲間外れは御免だよ」
「へ……え、ええ!? い、いや、フレンさん、そんな……!! 仲間外れとか、そんな事ないですから!! そんな理由でこんな事しようとしないで下さい!!」
「"そんな理由"じゃあないよ。僕にとっては大事な事なんだから」
「そんな! だって、だってそんな……第一、作っただけなのと、実際使うのでは大きな差が……!!」
「そうだね。でも、いいよ。僕は後悔しないし、そんなに罪悪感も感じないから。そもそも悪いのは襲撃なんかしてくる盗賊だし。……僕は元々、僕の大事なものを壊そうとするような相手には容赦なんかしない人間だもの。だから大丈夫だよ、クレハちゃん」
「……え……」
そんな事を言うフレンさんの絶対零度の微笑みが、いつものそれとはどこか違って見えて、私は何故か冷や汗が流れた。
「ああ、こらこらフレン、それやめろ。クレハちゃんが驚いて硬直してるぞ? 怖がらせてどうするんだよ」
「あ……。はは、ごめんねクレハちゃん」
「い、いえ……」
セイルさんがフレンさんに話しかけながらポンと肩に手を置くと、フレンさんはそれまでの雰囲気をがらりと変えて謝ってきた。
今の雰囲気は、いつものフレンさんのものだ。
い、今の、何だったんだろう?
一瞬、フレンさんが怖かった……?
いつも優しい、いい人なのに……。
「とにかく、僕は街門に立つから。いいですよねアイリーン様?」
「……仕方ないわね。わかったわ。許可します」
「ありがとうございます」
あっ!
うぅ、結局フレンさんが爆弾投げる事になっちゃった……!!
混乱している間に決まってしまった話に、私はひっそりと、溜め息を吐いた。
その後、襲撃してきた盗賊達は投入された爆弾の前に大半が屈し、それでも負けじと押し寄せてきた二人の首領を含めた数人も、街門から打って出たセイルさんやミュラさん達騎士様方や、アイリーン様率いるハイヴェル家の皆さんに駆逐され、街に入る事なく、全員が捕縛されたのだった。
それとほぼ同時に各地への襲撃もおさまったらしく、逆恨みからの盗賊襲撃騒動は、各地に多少の被害を出したものの、無事に幕を閉じたのだった。




