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防衛作戦 5

今日もやはり一更新です。

翌日、私はアイリーン様の元を訪ねた。

理由はもちろん、昨日の盗賊達の事を聞く為だ。

あの子がどうなったのかも、気になるし。

応接室に現れたアイリーン様は険しい顔をしていて、ソファに腰かけると、メイドさんに出されたお茶も飲まずに口を開いた。


「さて……まずは、クレハちゃんが一番気になっているであろう事から話そうかしらね。貴女を襲わなかったっていう、あの子の事から」

「あ……はい。お願いします」


私はアイリーン様の様子から、余計な事は言わずただ話を聞く事にして、頷いた。


「あの子ね、5年前に盗賊の首領にさらわれたんですって。当時は6歳で、逆らえば暴力を振るわれて、言いなりになるしかなかったらしいわ。けれど、それでも盗賊として盗みを働いてきた事は事実だから、それなりの罰は受けて貰う事になるわね。出身地の村の名前は覚えていたから、それがどこか探してはあげるつもりよ。あの子が罰を受け終えたら、そこへ送るわ」

「……そうですか。罰は、仕方ないけど……それが済めば、あの子、帰れるんですね。良かった」


とりあえずいい話が聞けた事に、私はホッと息を吐いた。


「そうね。……さて、次の話に移るけれど……こっちは、良くない話なのよ。昨日クレハちゃんの家を襲った盗賊達の中の、リーダーの男性から聞いたのだけれど……何でも、各地を襲っている盗賊達は陽動で、本命はここ、トルルの街らしいのよ。二つの盗賊団の二人の首領は、団の中の精鋭達と共に、時を見てこの街に攻め入ってくるらしいわ」

「えっ……!?」

「こ、この街が本命って、どうしてですか!?」

「……私が、この街にいるからよ。盗賊達はハイヴェル家の者を恨んで、でも当主のいる王都の本邸は王都の騎士やハイヴェル家お抱えの護衛団の守りが固くてとても襲えないから、比べて比較的守りの薄い、私がいるこの別邸を襲う事にしたんですって」

「へ……!?」


ほ、本邸は守りが固くてとても襲えない?

だから比較的守りの薄いこの別邸を襲う?

……な、なんて情けのない……。


「全く、迷惑な話だわ。どちらにしろ捕縛される事に変わりはないのに。守りの薄いほうを狙う情けのない盗賊団でも、首領率いる精鋭となればそれなりに強いんでしょうし……各地に戦力を送っている今襲撃されれば、被害がどれほど出るか……。……私のせいでこの街の人達が傷つくのは……絶対に嫌なのに……」


そう言って、アイリーン様は辛そうに目を閉じた。


「アイリーン様……! あっ、あの、それなら、戦力を集めればいいんじゃ? 各地に行ってる人達を呼び戻すのは無理でしょうけど、ほら、街にいる冒険者さんとかに協力を仰げば!」

「……それが、駄目なの。彼らには、もう協力を仰いで、各地に行って貰っているの。今この街には、冒険者は一人もいないわ。今いるこの街の戦力は、数名の騎士達と、この屋敷の、戦える使用人だけよ」

「えっ……。…………。………………わかりました! なら、私がなんとかします!」

「え? "なんとか"って、クレハちゃん……?」


私は決意を込めて声を上げ、立ち上がった。

そんな私を、アイリーン様は目を丸くして見つめてくる。

私は意識して口角を上げ、"不敵な笑み"に見えるように笑う。


「アイリーン様、私が何か、お忘れですか? 状況が不利なら、それを覆して勝利できるようなアイテムを作ってみせます! 戦力に差があるなら、一瞬で差を無くすアイテムを作ればいいんですよ!」

「一瞬で、差を無くす? そんなアイテムがあるの?」

「ありますよ。……怖くて、今まで作ってこなかったアイテムですけど。ただ、そのアイテムを使うに当たって、あらかじめ、街門を閉めておいて欲しいんですが……できますか?」

「え、ええ。こんな事になったんだもの。巻き込んで被害を増やす事のないよう、人の出入りは止めるよう既に手配したわ」

「そうですか。なら良かった。それじゃすぐに作って来ますね」


そう言うと、私は応接室の扉に向かった。


「ま、待ってクレハちゃん。何を作るの? "怖くて、今まで作らなかったアイテム"って……?」


追いかけてきたアイリーン様の言葉に、私は足を止め、振り返らずに口を開いた。


「……。……爆弾ですよ。アイリーン様。盗賊が来たら、閉じた街門の上から爆弾を投げる。それだけで盗賊達の数は減ります」

「!! ……クレハちゃん、それは……!! …………いえ……ごめんなさい、クレハちゃん。……ありがとう、ごめんなさい」

「……いいんです。街の人達のほうが、大切ですから」


そう言うと、私は今度こそ、応接室を出た。


「……クレハ様。爆弾の作成、俺もお手伝いします」

「あ、わ、私も! わ、私は錬金術やった事ないけど、何か、できることお手伝いします!」


応接室を出ると、シヴァくんとギンファちゃんが私の横に並んで歩き、そう言ってきた。

けれど私はそれに首を振って答えた。


「……駄目だよ、シヴァくん、ギンファちゃん。それは駄目。……これから作るのは、悪人とはいえ、人の命を奪うものなんだから。二人に、そんなもの」

「いいえ、手伝います。クレハ様だけに、そんな残酷なものを作らせたりはしません。分けてください、俺にも」

「"俺たちにも"ですシヴァくん! クレハ様、私達はクレハ様を支えるためにいます! 三人で作りましょう! ねっ?」


シヴァくんとギンファちゃんは、私の言葉を遮り、強い口調でそう言った。


「……二人とも……。…………わかったよ。なら、三人で作ろう。ごめんね二人とも。ありがとう……」

「「 はい 」」


私が謝罪とお礼を言うと、二人は笑顔で頷いた。

その後、家に帰った私達から話を聞いたイリスさんが、『なら私もお手伝いします!』と言ってきて、結局、四人で作業する事になった。

調合室に移動した私達の後ろには、話をした時イリスさんの横にいたコタが、ちょこんと座ってその光景を見守っていた。

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