防衛作戦 4
今日も一更新です
これは一体、どういう事だろう?
私は確かに、強制退去のスキルを発動させたはずだ。
その証拠に、盗賊達は家の敷地の外に移動している。
……でも……それならどうして、この子は家の敷地内に残っているんだろう?
スキルの効力が薄れた……はずはない。
ラクロさんは、ずっと使えるって言ってた。
ラクロさんが嘘をつくはずはない。
だとしたら……もしかして、スキルの対象にならなかった?
でも、勝手に入ってきたんだから、不法侵入にはなるはずだよね?
だけど、この子は残った……。
……あの盗賊達とこの子とで、何か違うんだろうか?
私はおろおろと前後を見回すその子を、じっと見つめ、観察した。
けれどその直後、森のほうから聞こえたバンッという、何かがぶつかったような音に意識が引き戻され、私は思わずそちらを見た。
そこには、森と家の敷地の境目で、結界に阻まれ衝突した盗賊達がいた。
やっぱり、スキルはきちんと発動しているようだ。
「くっそぉぉ、何だこりゃあ! 入れねえ!! ……チッ、仕方ねえ!! おいお前!! そのガキ共、お前が始末しろ!!」
「えっ!?」
先頭にいた男性にそう言われると、その子は体を震わせた。
「何だか知らねえが、入れねえ以上お前しかいねぇ! やれ!!」
「え……え……っ!!」
「何してやがる、早くやれ!! お前もとっくに盗賊の一味だって事、わかってるだろうが!!」
「っ!!」
男性の言葉にびくりと肩を震わせ、その子はゆっくりと私達を見た。
その顔は青ざめ、体は小刻みに震えだしている。
……わかった、あの男性達と、この子の違い。
「……ねぇ、聞いて。見ての通り、あの人達はもうこの家の敷地には入れないんだ。私はさっき、そういうスキルを使った。貴方が残ったのは……これは推測だけど、貴方が私達を害する気持ちを持っていなかったからだと、思う。……そうだよね?」
「……えっ……」
私は森にいる男性達には聞こえないよう、小さな声でその子に話しかけ、思い当たった理由を言い、そして尋ねた。
その子は目を見開き、動きを止めた。
……これはたぶん、肯定ととっていいだろう。
「そうだと、いうなら。そのまま何もせず、そこにいて。私達に襲いかかるなら、私は再びスキルを発動させるよ。そしたら貴方は今度こそ家の敷地から弾き出される。私達を害する気持ちを持ったんだから。そしてあの男性達みたいにここには入れなくなる」
そこで私は一度言葉を区切り、まっすぐにその子の目を見つめると、再び口を開いた。
「ねぇ、選んで。私達に襲いかかってあの男性達と同じになるか、それとも、何もせずここに残るか。貴方自身で、選んで」
「……わた……し、じしん……?」
「そう、貴方自身」
「……………………」
その子はただ呆然と虚空を見つめ静止した。
シヴァくんとギンファちゃんは武器に手をかけるも、じっとその子の答えを待ってくれている。
しかし、当然の如く、それを待たない人達もいるわけで。
「おい、何をボケッと突っ立ってやがる!! 早くヤらねえか!!」
「!!」
森のほうから男性の怒声が聞こえると、その子はビクッと体を震わせる。
「大丈夫だよ。怒鳴るだけで、あの人達には何もできやしない。入って来れないんだから」
「……あ……っ」
私が落ち着いた声でそう言うと、その子はどこかホッとしたように声を上げた。
そして。
「……私……本当は、盗賊なんて嫌なんです……っ。逃げたいんです。あいつら入れないなら、逃げられ、ますか? ここにこのまま、何もせずにいたら……!!」
「……うん、逃げられるよ。私達は既に近くの街の騎士様に助けを求めてる。もうそこまで来てるはずだよ。そしたら騎士様方と前後で挟んで捕縛する事になってるんだ」
「えっ……! じゃあ、あいつらはもう、おしまい……?」
「うん、そうだね。……良かったね、あの人達と同じにならず、捕縛されずに済むほう、選んで」
「……あ……! ……あのっ、ありがとう……!! 君のおかげだよ……!!」
「それは違うよ。選んだのは、貴方自身だもん」
「クレハ様、お待ち下さい」
「え? シヴァくん……?」
私がその子に近づこうと一歩踏み出すと、シヴァくんは何故かそれを止めた。
シヴァくんは厳しい視線をその子に向け、手を伸ばした。
「武器をこっちに。そして事が済むまで拘束させて貰います。盗賊と一緒にいた者を、そう簡単に信用するわけにはいきません」
「あ」
「……はい。わかりました。どうぞ」
その子は頷き、持っていた武器をシヴァくんに渡した。
……そうだよね、スキルに弾かれなかった事でこういう流れになったけど、その子が盗賊達と一緒に来た事は事実なわけで。
武器を所持したそんな人に安易に近づくのは……駄目だよね、うん。
うぅ、私、警戒心も足りないのかも……?
私がそんな事を考えている間に、シヴァくんは渡されたその武器をギンファちゃんに渡し、捕縛用に持っていた縄でその子を縛り上げていた。
その様子を見ていた男性達がその子をめいっぱい罵倒し、見えない壁となった結界をバンバンと叩いている。
ああもう、うるさいなぁ。
そう思って男性達のほうを見ると同時、凛々しい声が周囲に響き渡った。
「この地を踏み荒らす愚かなる盗賊ども! 貴様らの悪行もここまでだ! ネオスティア王国騎士団、トルル駐屯軍が貴様らを一人残らず捕縛する! 覚悟せよ!!」
「あ……! この声、ミュラさんだ! ミュラさんが来てくれたんだ!」
「そうみたいですね! さて、攻撃開始ですね!」
「行って参ります、クレハ様」
「うん! 気をつけてね! さ、それじゃあ皆、おいで! 盗賊達をやっつけて!」
「「「「「「 はい、マスター!! 」」」」」」
ギンファちゃんとシヴァくんが駆け出して行くのを見届けると、私は精霊達を呼んだ。
ミュラさん率いる騎士様数人に、シヴァくんとギンファちゃん、そして私の精霊達。
それらを相手にたった9人で敵うはずもなく、盗賊達は呆気なく全員捕縛された。
盗賊達と一緒だったという事で、あの子も一緒に連行されていったけど、ミュラさんにはもちろん、アイリーン様にも親愛の水晶を使って説明をしておいたので、お咎めなしとまではいかなくても、たぶん、軽いお仕置きで済むと思う。
どうして盗賊と一緒にいたのかはわからないけど、二度と悪い人達に近づくような事、しないといいんだけどなぁ。




