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防衛作戦 1

今日も一更新。


「さて……そろそろだと思うんだけど、どう? 二人とも? 僕は八匹だよ」

「……そうですね。だいぶ経ちましたし、この辺で終わりにしましょう。私は、四匹です」

「おしまいですね、かしこまりました。私は二匹です。……また私が最下位ですね。魚釣りって、難しいですね……」


そう言って、イリスさんはため息を吐いた。


「そう? 簡単だと思うけど」

「そりゃあ、フレンさんはそうでしょうね。ほぼ毎日私の倍釣ってるんですから。何でそんなに釣れるのか不思議でなりませんよ。ねえイリスさん」

「ええ、本当に」

「何で、と言われてもね。釣れる理由なんて僕にもわからないよ」


そう言ってフレンさんが肩を竦めると、その背後からこちらへと駆けてくる二つの影が見えた。


「クレハ様、只今戻りました! 今日の魚釣り勝負はいかがでした?」

「……表情を見る限り、またフレンさんの勝ちのようだよ、ギンファちゃん」

「……そう。また、フレンさんの勝ち」


また、の部分を強調して、私は傍に来たシヴァくんとギンファちゃんに告げた。

シヴァくんが戻ってきて、早二ヶ月。

少し前、イリスさんが魚釣りに興味を持った発言をした事がきっかけで、私はイリスさんに釣りの仕方を教え、一緒に釣るようになった。

何故か、それにフレンさんも加わって、いつの間にか、毎日誰が一番多く釣るかを競う勝負にまで発展しているけれど。

シヴァくんとギンファちゃんは前と変わらず、私達が魚釣りをしている間は少し離れた場所で打ち合い稽古をしている。


「そうですか。それは残念でしたね、クレハ様。また明日、頑張って下さい」

「そうですね! 明日こそフレンさんより多く釣って下さいませ、クレハ様! イリスさんも、ファイトですよ!」

「……明日こそ、かぁ。……うぅ、無理な気がするよ……」

「はい……フレンさんに勝つのは、至難の技です……」

「大袈裟だなぁ、二人とも。まぁ、そう簡単に負ける気はないけどね。さあ、お腹も空いてきたし、そろそろ帰ろうよ」

「あ、はい。じゃあ、帰りましょう」

「はい、クレハちゃん」

「クレハ様。戻る途中でアイリーン様達にお会いしました。先にクレハ様の家へ行っていると伝言です」

「あ、そうです! 相談したい事があるから、できるだけ早く帰ってきて欲しいとの事でした!」

「え、アイリーン様が私に相談? 家にまで来るなんて……何だろう? あ、そういう事なら早く帰らなきゃ! 急ごう!」

「「「 はい 」」」

「うん。……けど、アイリーン様の相談か。厄介事じゃなきゃいいけどね……」

「フレンさん、行きますよ!」

「はいはい」


私達は早足で家に帰った。







「アイリーン様、お待たせしました! て、あれ? セイルさんに……軍団長様……?」

「……うわ、これは確実に厄介事だね……」


家に帰ると、そこにはアイリーン様と、その護衛のイザークさんの他に、何故かセイルさんや街の騎士様を束ねる軍団長様までいた。

それを見て、フレンさんが嫌そうに呟いた。


「お帰りなさいクレハちゃん。急に押しかけてごめんなさいね」

「いえ、構いませんけど……アイリーン様、相談したい事って、何ですか?」

「……ええ、それなんだけれど……話は、ちょっと長くなるの。まずは家に入りましょう? 座って、落ち着いてから話すわ」

「あ、は、はい、わかりました! それじゃあ中へどうぞ!」

「ありがとう。お邪魔するわね」


私達は家へ入り、リビングへ移動した。







「……それじゃあ、早速本題に入るわね。ねえクレハちゃん、夏に、シュピルツの街を襲撃してきた盗賊を覚えているかしら?」

「あ、はい。全員捕縛して、あのあと罰を受けたんですよね?」


リビングに入ると、アイリーン様は椅子に座り、ギンファちゃんが淹れてくれたお茶を一口飲むと、話し始めた。

シュピルツの街を襲った盗賊。

あの時、街門の外での攻防で、やむなく斬り捨てられた人以外は捕縛され、騎士団支部内にある牢屋に入れられて、後日罰を受けたはずだ。


「ええ。あの盗賊達、この国以外でも、かなり暴れていたらしくてね。頭目は処刑、配下にもそれぞれ厳しい罰が下されたわ。……けれど問題はそのあと。あの頭目、どうやら兄弟分の盗賊が二人いたらしくてね。どうやって知ったのか……困った事にその人達、捕縛した私達を逆恨みして、うちの領地のそこかしこで暴れ出したらしいのよ。今朝アルフレートからその旨を記した手紙が届いてね」

「えっ!? そ、それ、大変じゃないですか!!」


アイリーン様が話した内容に驚いて、私が声をあげると、軍団長様が頷いて口を開いた。


「はい。由々しき事態です。我が駐屯地であるトルルの街も、ハイヴェル侯爵領である為、いつ襲撃されるやも知れず……夫人と対策を話し合ったのです」

「対策を……。そ、そうですか。対策を立てたなら、トルルの街はひとまず安心ですね。……。……ええと? こ、ここへ来たのは、もしかして、この家も襲撃される恐れがあるから……だったり、します?」

「……ええ、そうよ」


思い浮かんだ考えに、私が恐る恐る尋ねると、アイリーン様は頷いた。

ああ……やっぱり。

私達も、捕縛に協力したからね、そりゃ、狙われる可能性はあるよね……。


「……わかりました。皆で十分、注意しますね」


でも万一襲われても、シヴァくんもギンファちゃんもフレンさんもいるし、強制退去のスキルだってあるから、まあ、問題はないだろうけど。

私はそう考えたが、次の瞬間、アイリーン様は思いがけない事を口にした。


「ええ。万一の時は、全員で力を合わせてね……と言いたいんだけれど。クレハちゃん、申し訳ないけれど、フレンを貸して貰いたいのよ。できうるだけの戦力を集めて分散させ、各地を襲う盗賊達を捕縛したいの。それから、被害にあった村や街に、救援物資を出したいから、クレハちゃんが収穫して保管してある野菜やミルクを、可能な限り全て売って欲しいの。……お願いできるかしら?」

「え、えっと……野菜とかは構いませんが……フレンさんは、まず本人に聞かないと。……どうしますか、フレンさん?」


私はフレンさんに視線を移して尋ねた。


「そうだね……正直、騎士でもないのにわざわざ遠方に出向いて盗賊退治なんて面倒だし、ここが心配だから行きたくないけど。……それは許してくれないんですよね、アイリーン様?」

「ふふ……お礼は、きちんとするわよフレン。貴方はもう、うちの使用人ではないのだから」

「え……」


アイリーン様の話し方は、フレンさんが盗賊退治に行くのを確定しているものだった。


「やっぱり。……はあ、わかりました。行きますよ。シヴァくん、ギンファちゃん。クレハちゃんとこの家のほうはよろしく。アイリーン様、お礼ははずんで下さいね」

「ええ、もちろん、そのつもりよ。クレハちゃん、本当に申し訳ないけれど、フレンを借りるわね。それと、野菜とミルクだけど、どのくらい売って貰えるかしら?」

「あ、はい! すぐに持ってきます!」

「お手伝いします、クレハ様!」

「あ、私も!」


私はギンファちゃんとイリスさんに手伝って貰って、売っても支障ないだけの量を魔法のじゅうたんに乗せた。

アイリーン様から代金を受け取ると、その魔法のじゅうたんをフレンさんに預け、『気を付けて行ってきて下さいね』と伝え、皆で見送った。

そのあと私達は、ここに盗賊が襲撃してきた場合の対策を、皆で話し合った。

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