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お別れ、そして……。 3

今日も一更新です。

「よし、無事に完成、と! シヴァくん、材料を秋の果物にしていくつかパイを作ってみたよ! どうぞ、味見してみ……て……って、シヴァくんは、いないんだった……。はぁ、またやっちゃった」


私は、錬金術で作ったパイを手に、隣を向く。

そこはいつも、シヴァくんが調合していた場所だ。

今は、シヴァくんが使っていた器具だけが、静かに鎮座している。

シヴァくんが故郷へ帰ってから、今日で6日。

この一年、毎日シヴァくんが隣にいて、それが当たり前となっていたせいか、私は今だにこんなふうに、シヴァくんに話しかけてしまう。

シヴァくんはもう、いないのに。


「……こういった料理の類いは、作るとすぐにシヴァくんに味見してもらってたからなぁ。どうしても話しかけちゃうや。……はぁ。……ギンファちゃ~ん、イリスさ~ん、フレンさ~ん! パイを作ってみたから味見して~!!」


私はひとつ溜め息を吐き、胸にくすぶる寂しさを誤魔化すようにわざと明るい大きな声を上げて、調合室をあとにした。







夜になり、自室からぼんやりと窓の外を眺めていると、背後から光が溢れ、男性が一人現れるのが、窓に映った。


「ラクロさん! お久しぶりです! 夏以来ですね!」

「はい。こんばんは、華原さん。……時々訪ねると申し上げたのに、季節が変わるまで訪れず、申し訳ありません」

「いえ、いいんです! ラクロさんがお忙しい人だって事は、理解していますから。……それより、今日は何か? 疲れて、休みに来たんですか? それなら、遠慮せず、ベッドで休んで下さい」


そう言って、私は手をベッドに向けて広げ、ラクロさんを促した。


「ああ……いえ、休息は、きちんと取っていますから。あの後、エンジュからも改めて進言されましたので」

「え。……本当、ですか? ラクロさん? また無理していませんか?」

「ええ。誓って、本当ですよ。その証拠に、以前のようにやつれてはいないでしょう?」

「……確かに、そうですけど……」


夏に会った時とは違い、ラクロさんは顔色もよく、元気そうに見える。


「でも、それじゃあ今日はどうして? 私に何か、ご用ですか?」

「用、という程ではないのですが。彼がいなくなった事で、貴女が随分寂しい思いをされているようなので、少しでもそれを紛らせられたらと、参上したのですよ」

「……え……」

「この家にいる三人も、この数日、貴女を元気づけようとしている事は、気づいていらっしゃるでしょう?」

「あ……はい」


そうなんだよね。

料理を担当してたシヴァくんがいなくなってから、料理は日替わりで皆で担当する事にしたんだけど、フレンさんもギンファちゃんもイリスさんも、一日に一回は必ず、私の好きな料理を作るし、コタや動物達も、ここ数日、やけに私に擦りよってくるし、精霊達まで、呼んでもいないのに現れるようになったし。


「皆、貴女が大切なのですよ。どうか少しでも、元気を出して下さい。華原さん」

「……はい。ありがとうございます、ラクロさん」


このあとラクロさんは、私が眠くなるまで、色々な話を聞かせてくれた。

主に、この世界の、他国の話だった。

この国とは文化が少し違うようで、私は初めて聞く話に気分が高揚し、なかなか眠くは、ならなかった。

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