再会の約束
今日も一更新です。
瞬く間に日々は過ぎ、たくさんの人に誕生日を祝って貰ったあの日から、まもなく1ヶ月が経とうとしていた。
明日は、シヴァくんと本契約を結んでからちょうど一年。
灰色猫さんの元へ行き、シヴァくんとの契約を解き、お別れする日だ。
シヴァくんは最近よく、何かを考え込んでいるようだった。
もしかしたら、かつてクレビスさんがアイリーン様と別れた時のように、シヴァくんも私の事を心配してくれているのかもしれない。
でも、私の傍にはフレンさんもギンファちゃんもイリスさんもいる。
更に、街に行けば、親しい人達がたくさんいる。
だから私は、大丈夫だ。
明日は、それをきちんとシヴァくんに伝えて、安心して貰った上で、気兼ねなく故郷へと旅立たせてあげないと。
……僅かに感じる、寂しい、行かないで欲しいなんて勝手な願いは、決して気づかれないように、絶対に笑顔で見送るんだ。
「クレハ様、いらっしゃいますか? 入ってもよろしいでしょうか?」
「シヴァくん……? どうぞ!」
「失礼します」
自室の扉から、コン、コン、と控えめにノックの音が響き、シヴァくんの声が聞こえてきた。
私が返事を返すと、扉がゆっくりと開いて、真剣な顔をしたシヴァくんが部屋に入ってくる。
「シヴァくん、どうしたの?」
たぶん明日の事だろう、と予想はついているものの、私は念のため尋ねてみた。
「はい。……明日はもう、契約終了の日なので。その前にどうしてもお話して、許可を戴いておきたい事がありますので、お邪魔しました」
「許可? 私の?」
何だろう?
私は首を傾げた。
「……クレハ様。俺は、貴女と錬金術が好きです。フレンさんやギンファちゃん、イリスさんにも親しみを感じていますし、コタや動物達も好きです。ここでの生活が、とても気に入っています」
「……シヴァくん?」
まさか、故郷に帰らないと言うつもりなんだろうか?
でも、故郷ではご両親がきっと、シヴァくんの帰りを待ってるのに。
けれどそう思う反面、それを嬉しいと思う気持ちも確かにあって、私はそんな自分を嫌悪した。
こんなふうに、喜んではいけないのに。
しかし次にシヴァくんから発せられた言葉は、私の想像とは少し違うものだった。
「だから、クレハ様。明日、俺は故郷へと帰りますが、いずれ成人し一人立ちしたその時には、またここへ帰って来てもよろしいでしょうか? どうか、その許可を下さい」
「え……」
成人して、一人立ち。
つまり、明日になったら故郷へ帰り、その後の日々をご家族と過ごして、やがて成人し大人になったらここに戻って、錬金術士として生活するって事……?
ここには、シヴァくん用に揃えた錬金術の器具がある。
中には重量があるものもあるから、とてもその全部を故郷へ持っていくのは無理だろう。
故郷で新しく買う事も、少しずつ私が送る事もできる。
けど……シヴァくんは、故郷の親元で錬金術士を生業にするんじゃなく、戻ってきてくれる事を選んだ、って……思っていいんだろうか。
……成人したら一人立ちする、っていう事なら、別に、止めなくても、構わないよね……?
子は、巣立つものだし……。
「……クレハ様? ……駄目でしょうか……?」
不安げなシヴァくんの声が聞こえ、私は思考に沈んでいた意識を引き戻された。
「あっ……ううん! 駄目じゃないよ! シヴァくんがそうしたいと思ってくれるなら、そうしていいよ? ……シヴァくんにまた会えるなら、私も嬉しいし……!!」
そう言うと、シヴァくんはみるみるうちに顔を輝かせた。
この一年毎日一緒にいたけど、ここまで嬉しそうに笑うのは、初めて見る。
「ありがとうございます、クレハ様。成人したら、俺は必ずこの家に帰って来ます。数年後、必ずまたお会いしましょう。約束です」
「う、うん! わかった、約束ね!!」
「はい。……本当に、ありがとうございます。……この約束と、クレハ様との思い出があれば、たとえこの先何度、似た日常が繰り返されても、俺は、耐えていけます……」
「えっ? ……何? シヴァくん?」
最後のほうは小さな声で呟かれ、私は聞き取れずに聞き返した。
「……いいえ、何でもありません。夜分に失礼しました、クレハ様。おやすみなさいませ」
「え……うん? ……おやすみなさい、シヴァくん」
私が返事を返すと、シヴァくんはペコリと頭を下げ、部屋を出て行った。
……シヴァくん、最後は、何を言ったんだろう?
私は首を傾げながら、ベッドにもぐり込んだ。
避暑中のコタとイリスの話を書いて欲しいとご要望を戴いたので、私の頭の中でだけ展開されていたそれを書く事にしました。
それに伴い、今まで各場面で、同じく私の頭の中だけで展開されていた各キャラ視点の話を書こうと思うのですが、時系列の問題もあってここに次話投稿として書くと読みづらいかと思われます。
ので、短編集を立ち上げるか、活動報告に書くかのどちらかになると思います。
尚、この"各キャラ視点の話"は、人気の高いラクロのものもあるので、需要はあるかと思われます(笑)




