襖を閉めよう
ふすまはきちんと閉めないと怒られるから気をつけなさい、というのは屋敷の主であった曽祖父の言葉。誰に怒られるのかは今でもよくわからないままです。
私の一族の本家は、蔵がある広く古い日本家屋に住んでおり、正月や盆には親戚が一同に会したものでした。親父らは挨拶で大変だったようですが、子供らは久しぶりに合う歳の近い従兄弟に会って遊んだり、屋敷を探検するのを楽しみにしていたものです。
この屋敷では、ふすまが勝手に閉まるという不思議がありました。理由があって開けている分には問題ないのですが、閉め忘れやきちんと閉まっていない状態だと、誰もいないときにいつのまにか閉まっていたり、人がいても、目を離したときにぴしゃんとふすまが閉まってしまうのです。
私と従兄弟達で面白がって襖を開けてまわって遊んだりもしました。暫くして屋敷を回ると、いつまにかふすまは閉まっているのです。
ふすまを閉めるものの正体を確かめようと見張っていたこともありました。いつも、うとうとしたり気がそれた瞬間に、ふすまが閉まってしまいました。
あるとき、いつものように従兄弟と一緒に屋敷を探検がてら、ふすまを片っ端から開けてまわって遊んでいたら、怒声が響きました。
「ふすまはきちんと閉めんかっ」
低く野太い男の声でしたが、見回しても大人は周りにいません。一番年下の従兄弟は泣き出してしまいました。大人たちの集まった広間に駆け込むと、年上の親戚らは、お前らも怒られたかと笑っておりました。あれから、私も従兄弟達もふすまはきちんと閉めるようになりました。
昨年、屋敷は取り壊されてなくなっているのですが、代わりに、三年前に新築したばかりの私の家で、ドアがきちんと閉まっていないと勝手に閉じるようになりました。
子供らには、ドアはきちんと閉めないと怒られるぞと言い聞かせています。
「閉める」がよいのか「閉じる」がよいのかですごく悩んだ




