きゅうりの足
お母さんは家の裏によく生ごみをまいている。そこはゆるい下り坂になっていて、草がぼうぼう、冬にはそりですべって遊ぶ場所。その先は森だ。生ごみから勝手に、かぼちゃやきゅうりやスイカが生えてきて、お母さんが育てている。
今のびているみどりのつたは、きゅうり。夏休みの研究で、観察することにした。
黄色い星の形の花が咲いた。かわいい。花の根元には、膨らみがあって、これがきゅうりになる。四つの出っぱりがあって、形が少し悪いみたいだ。
花が枯れると、膨らみはぐんぐん大きくなる。大きいきゅうりはおいしくないとお母さんは言うけれど、きっとおいしいと思う。
四つの出っぱりは細長く伸びてきて、数日で、足になった。黄緑色、はだ色かな。きゅうりに足がはえてきた。
きゅうりは歩く練習をしているみたい。ぱたぱたと足が動くのはすごくかわいい。たぶん一秒間に10回くらい動いているんじゃないかな。
お母さんは生ゴミに農薬や化学肥料が混じっていたせいじゃないかと言う。
おばあちゃんは、昔、山で、足が生えたアケビをみたことがあるって。山の神のお使いなのだという。
きゅうりに窪みができて、顔みたいになってきた。
そろそろ食べないとどっか行っちまうぞ、食べると寿命がのびるんじゃと婆ちゃんは言う。食べるのはかわいそうでやだな。
朝起きたら、きゅうりはいなくなっていた。蔦が切れて歩いていったんだと思う。動物に食べられたりしないかな。観察はこれでおしまい。
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長期出張から帰ってきて、わが子の夏休みの日記を読んだら、だいたいこんな感じの内容が書いてあった。きゅうりがなくなったのは今日のこと。興奮して、きゅうりがいなくなったとか言っていたのは、この妄想遊びのことだったのだな。
そういや今晩、酒のつまみに母が出してくれたのは、育ち過ぎた大きいきゅうりの浅漬けだったな。なんだかお腹が痛いような。




