人形拾った
私が小学生の頃の話。実家の裏の小さな川で遊んでいると、人形がぷかぷかと流れてきた。和服の女の子を象った手捻りの陶器製の人形だった。
実家は陶芸が盛んな土地で上流には窯場が幾つもあり、そこから流れてきたのだろうと思った。
これを持ち帰って家族に見せると、祖母がすごい剣幕で「川さ帰してこい」と言う。
祖母は普段は優しいのだが、迷信の類いにはうるさい人だった。
わたしは元の場所に返してくることを約束したが、誰にも内緒でこっそりと人形を机にしまったのだった。
その晩。
夜中に目が覚めた。部屋の中に何かが動く気配を感じた。同じ部屋に寝ている弟かと思ったが、弟は隣の布団ですうすうと寝息を立てている。
誰かが部屋の中を歩いていた。
身体を起こそうとしたが、ぴくりとも動かない。弟に声をかけようにも声が出ない。指先一つ動かない。
初めての金縛りだった。何が起こっているのかわからず気ばかり焦り、恐怖感が募っていく。
それはぐるぐると部屋の中を歩き回っていたが突然立ち止まる。私の机の前だ。引き出しをがたがたといじっている。
引き出しから何かを取り出すと、それはゆっくりと歩いて部屋を出て行った。
気づくと朝だった。嫌な夢を見たと思った。
机の引き出しを見てみると、あの人形がなくなっていた。
家族に聞いても誰も部屋に入ったりはしていないという。祖母からはこっぴどく叱られた。
ある年、盆に家族で墓参りに行ったとき、寺の敷地内の小さなお堂にあの人形とそっくりの人形がいくつも並んでいるのを見つけた。
この地方で幼く死んだ子供の供養に作る陶人形だと母が教えてくれた。
なぜそんな人形が川を流れていたのか、私の部屋にいたものがなんだったのかはいまだにわからない。




