息子が産まれたら
私は小さい頃、女の子として育てられていました。
その理由は両親から、高校生の頃になって初めて教えてもらいました。
祖父が、昔、キノコ狩りで山に登った時、化け物に行き逢ったのだというのです。それは手足の長い猿のような化物で人語を話したそうです。
もうすぐ子供が産まれるから見逃してくれと祖父が頼むと、化物は子供は五歳くらいが食いごろだ、子供が五歳になったら寄こすなら見逃してやると言ったそうです。祖父は男の子だったらいいが、女の子ならだめだと言いはり納得させたのだそうです。
しかし、祖父と祖母の間には、娘、つまり私の母しか子供が産まれませんでした。
その後、猿の化物が現れることはなかったのですが、孫、つまり私が男だったことから、猿の化物が奪いにくることをとれて、私を女の子として育てたそうです。
父も母もそんな話を信じているわけではではありませんでしたが、祖父がすごい剣幕で話すので祖父の好きなようにさせていたのだそうです。
でも、私は祖父の話が本当なのではないかと思っています。幼稚園の頃、浮浪者のような格好の手足の長い大男に、突然に話しかけられたのを覚えているのです。
「おめ、男の子か」
「女だよ」
「残念残念。男の子の約束だがらの。また次までまづからの」
ああ、あれがそうだったんだなと思います。
もうじき、私の息子が生まれます。また同じ手が通じればよいのですが。




