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過ぎ行く季節

 ある夏休みの日。小学校の友達5人で、沢で遊ぼうと山に入った。小さな滝のようになった場所が僕らのお気に入りの場所だった。お菓子と水筒を持ってちょっとしたピクニック気分。初めから水着の奴もいた。しかし、大した距離でもないのにいつ迄経っても目的の場所に着かない。さすがにおかしいと思い始めた頃、友達の一人が言った。

「おれら、何かに化かされているんでないか。うちの婆ちゃん山で狸に化かされたことあるって言ってたぜ」

「こないださ、みんなで狸を追いかけたろ。あの狸じゃないか」

「それだ」

「すまなかった。もう狸をいじめたりしないから」

 皆で大声で狸に謝った。しかし一向に周りの気配は変わらない。くたくたになりながら座り込んでいると、日が沈み、夜になり、朝がきて、また夜がきて、朝になった。星が太陽がぐるぐると空を回っていく。

 だんだんと天体の動きは早くなり、それに応じて、周りの景色も変わっていった。夏から秋へ、冬へ、春へ、そしてまた夏がくる。

 こんなきれいなものが見られるなら、化かされるのも悪くないと、そう思った。

「ばかな狸だな。こんなの見せられても怖くもなんともないぞ」

「いいもの見せてもらって感謝しなきゃならないな」

 友人達ははしゃいでいた。

 だが、それがだんだんと早くなり、周りの友人達の体が大きくなり、そして、背が曲がっていく。

 自分の手を見てみると、祖父にそっくりの、細い皺皺の指が見えた。

 僕らはこうして老いて死んでいくのかと思うと、怖い、心底怖いと思った。

「悪かった。もうやめてくれっ」

 叫んだ。もう声が出なかった。意識が朦朧として、目も霞んできた。そのまま、意識を失った。

 目を開けると、山のふもとだった。皆いる。子供の姿だ。はっと自分の手を見ると、それはいつも通りの自分の手だった。

 家に帰ると、出発して一時間と経っておらず、心底ほっとした。

小松左京さんのホラー短編で「すぐそこ」が好きです。いつまで経ってもつかない、という話を書こうと思ったらこうなった。

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