お堂の怪
山形の実家の近くには古いお堂がありました。何を祀ったものかはわかりませんが、お堂の前を通るたびに祖母から「山の神様さあいさづすろ」と言われていたものです。
小学生のとき、遊んだ帰りにいつも通りお堂に向かってあいさつすると、お堂から声が聞こえました。
「ああ」とか「おお」とかそんな声でした。怖くなり走って家まで帰り祖母にその話をすると、祖母は私の肩を掴み言いました。
「絶対お堂さ近づぐんでねぞ、数日待でばいなぐなっがら」
あれほど怖い祖母の表情を見ることは後にも先にもありませんでした。
お堂の周りにはいつの間にか注連縄が張られ、大人の見張りが立ち、子供達は絶対に近づくなと言いつけられました。
近所の子供達に、年上のガキ大将がいました。彼は勇気試しにお堂の声の主に会いに行こうとみんなに提案しました。彼は絶対に中に人がいるのだと主張し、私も実はそうかもしれないと思いました。
夜中にこっそり集まり、大人の見張りがたばこを買いに行く隙をついてお堂の前にたどり着きました。皆でお堂に声をかけると、やはり「ああ」とか「おお」という声が聞こえました。
皆すっかり怖気付いていましたが、ガキ大将だけは平気な様子で「お堂の中ば見せでけろ」とお堂の扉の近くで、話しかけました。お堂の中の何かは「ああ」と答えました。そして、ばたんと扉が空き、ガキ大将は一瞬で中に引きずりこまれました。はっきりとは見えなかったのですが、皺皺の細長い腕のようなものが見えた気がします。
中からは、ばたばたする音と、人が呻く声が聞こえました。私たちは悲鳴をあげて逃げ出しました。
すぐに大人たちが集まりお堂を開けましたが中には誰もおりませんでした。彼は結局見つかっていません。
今でもあのお堂は地元に残っているはずです。
うちの祖母は実際、よくわからないお堂の前で山の神様にあいさつしなさいって言ってましたね




