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山の精

 夢を見るのです。山の中、大きな木のぽっかり空いたうろの中で、小学生の姿の妹が一人しゃがんで泣いているのです。

 私の地元は山形市の蔵王の麓の小さな集落になります。小学生のころ、家の裏山で妹と喧嘩して、妹を置いて一人で帰ってきたことがありました。家に帰ると、普段温厚な祖母から、山の精に攫われたらどうする、すぐに迎えに行けとひどい剣幕で叱られました。祖母はいつも私たちに言い聞かせていたんです。山に一人で入るな、山の精に攫われるぞ、と。私は、妹が攫われてしまうと思い、真っ青になって泣きながら妹の名前を呼び、妹を迎えにいったのでした。

 喧嘩した場所には妹はおらず、焦って周辺を探しました。妹はすぐに見つかりました。見たことのない大きなぶなの樹の根元に黙って座り込んでいたのです。妹の手を引き、家に連れ帰ってきて心底ほっとしたものです。

 それからです。夢を見るようなったのは。

 昨年、祖母が亡くなりました。私が見舞いに行ったとき、祖母は寝床でうわ言のように妹の名前を何度も呼んでいました。「ばあばが行くからの。もう寂しくないからの」と何度も繰り返していました。ただ、他の家族は祖母のそんな言葉は聞いたことがないそうです。

 祖母が亡くなった晩、祖母が妹の手を引いて山を歩いている姿を夢で見ました。その後、あの夢は見ていません。

 妹とは、先日も会いましたが実家で元気にしております。今度、結婚するそうです。

「山の精にさらわれるぞ」と祖母に怒られて妹を探しに行ったことは実際あった話。山の精と取り替え子の組み合わせでもう少し膨らませた話を書いてみたいです。

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