69.戦いの終わりと再会
(フェリシアside)
長らく足止めされていた町から出発し、目的である北の山脈麓の町近くまで〖飛行〗でやってきた私と冒険者三人組が見たものは、漆黒のドラゴンと巨人が戦っている姿でした。
遠目でもわかります。あのドラゴンはアテナで間違いありません。戦っている巨人は謎ですが、町であのように大暴れするだなんて許せません。今すぐ向かってどちらも討伐しなければ!
「あれってアテナ姉さんだよな? 巨人から町を護ってるのか?」
「あんな怖そうな巨人と戦うなんて、さっすがアテナ姉さんね」
「うむ。我らが命の恩人は困っている人を見過ごせない御仁である」
アテナが巨人から町を護っている? 侵略しているのではなくて? 見ているだけでは判断できません。行ってみましょう。
真相を確かめるため、私たちは麓の町に向かって〖飛行〗を再開しました。
◇◇◇
(アテナside)
『種族半妖って何なの? 適合者とか言ってたけど、そんなに凄い事なの?』
「貴方には事の重大性がわからないのですか? 例えばゴブリンに代表される異種族姦で種を増やす魔物は人間の母体からゴブリンしか産まれない。それは半ではなく純粋な魔物です。それに対してユナは半妖、今のところ見た目は人間ですが、成長すればもっと魔物に近づくかもしれません。ユナを実験台に研究を続ければ、私の悲願が叶うかもしれないのですよ!」
ソーマは余程嬉しかったのか、珍しく歓喜を含む声音で捲し立てる。
お前の悲願とか知るか! ユナを実験台になんてさせるわけねーだろ!
「――はっ……? この私がこんなところで……」
聞いているだけで気分が悪くなる話しを遮り、首を狙った〖爪撃〗を繰り出す。私の爪がソーマの首をはね、生首が地面に転がった。
思った以上に脆い。合体が解ければこんなもんか。防御力の低さは後衛職の悲しき宿命ね。MPが切れれば呆気ないものだわ。
【経験値を6120取得しました】
【宵闇よいやみ幼竜はLV42からLV48に上がりました】
【通常スキル〖飛行LV7〗が〖飛行LV8〗に上がりました】
【通常スキル〖爪撃LV8〗が〖爪撃LV9〗に上がりました】
【通常スキル〖真空斬LV6〗が〖真空斬LV7〗に上がりました】
【耐性スキル〖魔法耐性LV5〗が〖魔法耐性LV6〗に上がりました】
【称号スキル〖縁覚界LV――〗を取得しました】
【スキルポイントを取得しました】
大量経験値ゲットーッ!
そして〖縁覚界LV――〗の称号スキルまで取得しちゃった。十界称号スキルを巡るバトルに完全に巻き込まれちゃったな。二つ持ってる私が一歩リードか?
いやいや、スキルを殺して奪い取るとか、そんな殺伐バトルロイヤルに積極的に参加する気はさらさらないよ。でも、強くなる事には血が滾るっていうか、ワクワクする自分がいるのも確かなんだ。これが〖修羅界LV――〗の効果なのか? 自分を見失わないようにしなくちゃ。
『やりましたな主様』
『ありがとうギン爺、貴方には助けられたわ』
合体ソーマには一人じゃ勝てなかったと思う。ギン爺には本当に助けられたわ。
「ソーマを倒してくれてありがとうアテナ師匠……」
ギン爺と喜びを分かち合っていると、ユナが私の足に抱きついてお礼を述べてきた。
『ううん、ソーマは倒せたけどみんなのアンデッド化を治す事はできなかった。貴方のお爺ちゃんも護れなかったわ……』
「お爺ちゃんなら……」
ユナが顔を向けた方を見ると、コノハナサクヤヒメとツララがテルメンを連れ、こちらに向かっているところだった。
「やりんしたねアテナさん。お見事でありんす」
「付近のアンデッドを倒してその子の祖父を連れてきんした」
テルメンも無事だったのね……でも、さすがにアンデッドのままか、どうにかできないのかな?
『コノハナサクヤヒメ、神である貴方なら、みんなを人間に戻せないかしら?』
「ごめんなんし。力を失ったわちきではできんせん」
「無茶を言わねえでおくんなんしアテナ、今の姫様は普通の人間と大差ありんせん」
やっぱダメか、ですよねー。さて、どうしたもんか……。
今後どうするか悩んでいると、遠くから誰かが叫ぶ声が聞こえてきた。
あれ? 何か聞き覚えのある声だな。
その声は徐々に大きくなり、やがてハッキリと聞こえてくる。
「やっと見つけましたよアテナ!」
上空から聞こえてきた声の主は、聖女に覚醒したフェリシアだった。
えっ、ここまで追ってきたのフェリシア! ってか、何でテーブル持って空飛んでんの? そんで、何でそのテーブルに冒険者三人組が乗ってんのよ!
「アテナ、貴方何をしたのです? 町は荒れ果てアンデッドだらけじゃないですか? 父だけでなく、この町まで滅ぼすなんて許せません!」
『違うよフェリシア! そんな事してない!』
「問答無用! 父の仇、討たせてもらいます! 〖脳天割り〗!」
フェリシアは〖飛行〗の速度を上げて接近し、天高く掲げた杖を振り下ろしてくる。それを爪で受けるが、爪に罅が入ってしまった。
くぅ、なんて強烈な打撃……私も強くなったけど、それはフェリシアも同じって事か……。
「待ってくれフェリシアさん! アテナ姉さんはそんな事しねえって!」
「そうだよ! たぶんアテナ姉さんは町を護るために戦ったんだよ!」
「うむ。そうですなアテナ姉さん?」
襲いかかってくるフェリシアを冒険者三人組が止めに入る。
『あんた達、私を庇ってくれるの? そうだよ。私は町を襲ってない。全部ソーマって薬師がやったの。私はそいつと戦っただけよ!』
「やっぱりな。思った通りだぜ」
「まずは話しを聞いてからでもいいんじゃないかなフェリシアさん? アテナ姉さんは変わってないよ」
「うむ、我らは知能のない魔物とは違う。戦うのは対話してからでも遅くないですぞ」
「……確かに、いきなり襲いかかるのは間違いでした。アテナ、何があったのか説明してください」
おおおっ! 暴走列車みたいだったフェリシアを止めたわ! 凄いじゃないの冒険者三人組!




