第68話「一触即発」
「落ち着けって。俺にそういう趣味はない」
「本当でしょうか……?」
陽の言葉に対し、真凛は訝しむように白い目で陽の顔を見上げる。
どうやら陽の言葉を全然信じていないようだ。
そんな真凛を煽った張本人――素っ気ない表情で陽たちを見つめている佳純は、今まで見たことがない真凛の表情を見て内心ではとても焦っていた。
(何、あの表情……! 蔑むように見せて、実は親しい相手にしか見せない表情じゃない! あんな表情木下君にさえしたことがないでしょ……! 後、顔! 顔近すぎ! そんな近付く必要ないでしょ!?)
そう心の中で叫ぶ佳純だが、下手に割り込むことはせずグッと我慢をしていた。
陽が真凛の好意に気が付いていない以上、この蔑むような目も真凛に嫌がられているとしか捉えないはず。
だからここは下手に刺激して真凛が照れたりするようなかわいい様子を見せてしまわないように、あえて割り込むことはやめていた。
しかし、そう思って見逃した数秒間で真凛がグイグイと顔を陽に近寄らせるので、佳純の中では沸々と怒りが沸きあがってくる。
「――そういえば、凪沙はどうしたんだ? 一緒に来るはずだよな? まさか、逃げたのか?」
佳純が怒りを抑えながら陽たちを見つめていると、陽は視線を真凛から外して車内へと向け始めた。
そしてあからさまに話を逸らした陽の胸元を、まだ納得していない真凛がクイクイと引っ張り始める。
「話を誤魔化さないでください」
「いや、もうよくないか?」
しつこい真凛に対し、陽は嫌そうな表情を浮かべてしまった。
陽はグイグイとこられることを嫌い、こういった話題でしつこく聞かれることを嫌う。
だから今も機嫌が悪くなっているのだ。
――しかし、佳純は知っていた。
陽が話を誤魔化そうとする時は、自分に都合が悪い内容の話だということを。
「ごめんなさい……」
陽が嫌そうにしたことで、真凛はシュンと落ちこんでしまった。
やりすぎたと気が付いたようだ。
「いや、別に怒っているわけじゃないから落ち込むなよ……」
落ち込んだ真凛を前にし、陽は優しい声を出して気遣うそぶりを見せる。
それが佳純には面白くなく、陽たちの間をわざと通り抜けてある人物の元へと向かった。
その人物は、陽と真凛の会話など気にならないとでも言うかのように席に座って窓から景色を眺めている。
「――久しぶりね、その恰好はどういうつもり?」
そう佳純が声を掛けると、普段とは違う女の子らしい恰好で、スカートまで履いている人物の顔が佳純へと向いた。
「やぁ、君開口一番で僕にまで喧嘩を売るなんて、あの時から全然成長してないじゃないか」
席に座っていた人物――完全にプライベートの恰好でいる凪沙は、意味ありげな目を向けてそう答えた。







