第47話「本丸を落とすには外堀を埋めよ」
「――だから、そういうのはやめろって」
佳純に手を引っ張られた陽はストッキングに触れるギリギリでバッと手を払う。
それにより佳純は不服そうに陽の顔を再度見つめた。
「好きなくせに」
「だから人を変態呼ばわりするな」
「別に、誰も変態とは言ってない。ただ、陽は昔から足が好きだったと言ってる」
陽に拒絶された佳純は不服そうに唇を尖らせ、拗ねたような声でそう言ってきた。
「勝手に人を足フェチにするな」
「でも、中学の頃よく私の足をチラ見してた」
「…………そんなことはない」
「間! 今の間! 絶対に自覚ある!」
陽が返事をするのに数秒かかったことにより、佳純はここぞとばかりにツッコミを入れてくる。
陽はそんな佳純から目を背け、素っ気ない声を意識しながら口を開いた。
「気のせいだ」
「むぅ……!」
どこまでも取り合おうとしない陽。
自分の行動を受け入れてくれない陽に対し、不満を抱き続けている佳純は頬を膨らませた。
そして、やけになったように腰を浮かせてストッキングを脱ぎ始める。
陽はそんな佳純のことを思わず見つめてしまった。
佳純は陽の視線が自分に向いてることに気が付いていながらも、わざとそこには触れずストッキングを脱ぎ続ける。
数秒後、佳純の白くて綺麗な足が全てあらわになった。
佳純はストッキングを脱ぎ終わるとそれを丁寧に畳み、床へと置く。
そして――ジト目で、陽の顔を見上げてきた。
「えっち」
そう責めてきた佳純に対し、陽は不服そうに口を開く。
「おかしくないか……? お前が勝手に脱ぎ始めたんだろ……?」
「目を逸らせばいいのにジッと見てた。なんだかんだ言ってやっぱり陽はむっつり」
「……下ろすぞ?」
指摘をされた陽は誤魔化すように佳純の足の下に腕を入れ、佳純の体を持ち上げようと力を入れた。
すると、佳純は下ろされないようにガバッと陽の首に腕を回して抱き着き、慌てたように口を開く。
「都合が悪くなったらそうやって実力行使に出るのずるいと思うの!」
「お前が人を茶化すばかりするからだ……!」
「ちょっ! だめ! だめだってば! 落ちる! 本当に落ちちゃう!」
佳純は落ちると騒ぐものの、実際に陽が下ろそうとしているのはベッドの上である。
大袈裟に言えば陽がやめると思っているのか、それとも体勢が不安定になっていて背後の状況がわからないのか――。
とりあえず、陽は気にせずそのままベッドに寝かせることにした。
しかし――。
「おい、放せよ……」
佳純をベッドに寝かせたものの、肝心の佳純が手を放さないので陽は佳純から離れられなくなってしまった。
「……にやっ」
そして佳純はといえば、思いも寄らぬチャンスが到来してニヤケ顔を浮かべる。
その表情を見た陽は寒気が走り慌てて佳純から離れようとするものの、細身からは考えられない力で首を固定されていて離れられなかった。
「お前、何を考えているんだ……?」
佳純が何かを狙っているのは間違いないので、陽はそれが何かを聞き出そうとする。
そんな陽に対し、佳純はニヤけた顔のまま口を開いた。
「ねぇ陽、既成事実って言葉知ってる?」
「……いや、冗談だろ……?」
佳純がわざわざ言葉にした理由を察した陽は、ダラダラと冷や汗をかき始める。
しかし、佳純の考えていることは陽が想像したこととは完全に別方向だった。
「ちなみに、こういう言葉もあるわ。本丸を落とすには外堀を埋めよってね。気付いてた? さっき、おばさん家に帰ってきたみたいよ」
陽の母親は佳純を陽に会わせた後ちょっと買い物に出てくると言って出掛けてしまった。
陽は気が付かなかったが、どうやら母親は既に帰ってきているらしい。
佳純は耳もいいので玄関のドアや鍵が開く音などで気が付いたのだろう。
しかし、ここで二人にとって大切なのは、先程陽の母親が帰ってきたということだった。
佳純が言いたいことがなんなのかを理解した陽は、この体勢がいかにまずいかを察した。
「おい、それはさすがにまずいって……!」
「ふふ、いじわるするからこうなるのよ」
焦る陽に対し、佳純は勝ち誇った笑みを浮かべる。
直後――陽と佳純の耳に、ガチャッという音が聞こえてきた。
その音に反応して音がしたほうを陽が見ると、ゆっくりと陽の部屋のドアが開き始める。
そして、この場にいなかった女性が姿を見せた。
「佳純ちゃん、陽、ケーキ買ってきた――あら、まぁ……!」
中に入ってきた女性――陽の母親は、ベッドの上で薄着となったお気に入りの女の子が息子に押し倒されている姿を前にし、とても嬉しそうに目を輝かせるのだった。
(いや、もう……勘弁してくれ……)
最近短くてごめんなさい……!







