表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても【Web版】(書籍版タイトル:幾億もの剣戟が黎明を告げる)  作者: 御鷹穂積
グレイプニル・リストレイント

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/307

99◇嵐風

 



 試合前に学舎へと戻ってきた第六位《劫風》コスモクロアは事の経緯を聞くや否や殺意を漲らせた。

「……パパラチア家め。最早捨て置けん。こうなれば力づくで全て吐かせる他ないようだな……!」

 赫怒を露わにロータスを探しに向かおうとする彼女を、執務室の全員で押さえる。

「ええいなんだ貴様ら! 私の邪魔をするな! まんまと出し抜かれた責任をとろうというのだ、止めてくれるな!」 

 じたばた暴れる彼女の力は凄まじかった。魔力強化を施した様子は無いから、身体を鍛えているのだろう。それにしても大した出力だ。

 このまま押さえつけておくのは無理。

「コスモクロア先輩」

「なんだ!?」

「今先輩が出ていっても、事態は好転しません」

「そんなことは無い! 私の威信に懸けて奴を叩きのめし、謝罪させてみせる!」

 尾のように結われた翡翠の髪を振り乱し、コスモクロアは叫ぶ。

「ですから、それが不要だと言っているんです」

「不要? ……説明しろヤクモ。どういうことだ」

 疑問を持たせることで、怒りに割いていた感情が僅かに緩む。

「ラピスから、克己の機会を奪わないんでほしんです」

「克己、だと」

「彼女はパパラチアに縛られて生きてきました。その鎖を、なんとか千切ろうと立ち上がっている。ここで誰かが外側から事態を収束させたら、意味が無い。他人が突き破った壁の穴をもぐって、成長出来ますか。自分自身で挑戦し、時に拳を傷つけ、時に立ち尽くし、苦悩した末に乗り越える。突き抜ける。それなしに、人は前進出来ません」

「…………」

「僕らは仲間だ。背中を押すのはいい、求められれば手を貸しましょう。でも、道を作ってはいけないんだ。切り開くのは、彼女自身でなければならないんです」

 コスモクロアは、それを黙って聞いていた。

 やがて、納得したように一つ頷く。

「貴様の言う通りだ。私は自身の不甲斐なさが許せず、奴に無礼を働くところだった。感謝するぞ、ヤクモ。止めてくれて助かったよ」

 一同がほっとしたような声を出す。

「いえ」

「ラピスとイルミナに任せればいい話なのだったな。何故ならば、奴らは勝つ」

「はい」

 コスモクロアは吹っ切るように笑うと、それからヤクモの肩を叩いた。

「そもそも奴らを気にしている場合ではない。私の敵は、余所見して勝てる程やわではないようだからな」

 ラピス達の試合の前に、ヤクモとコスモクロアの試合があるのだった。

 彼女はしっかりと、ヤクモ達をライバル認定している。

 なればこそ、先輩後輩など関係ない。

 こちらも対等な対戦相手として応える。

「正面から見据えたところで、勝てはしませんよ」

「言うじゃないか」

「言わずに実行出来る程、優れた人間じゃないだけです」

 ヤクモの言葉に、コスモクロアは嬉しそうに笑う。

「私も同じさ。勝つのは、私達だ」

 

 ◇


 そして、試合の時は来た。

 フィールドで二組の領域守護者訓練生が対峙する。

 学内ランク第六位《劫風》コスモクロア=ジェイド

 対

 学内ランク第四十位《白夜(ファイアスターター)》ヤクモ=トオミネ

 互いに《偽紅鏡グリマー》を展開する。

 兄妹はやはり、手を繋いで。

抜刀(イグナイト)――雪色夜切・赫焉」

 雪白の打刀と。

嵐を起こせ(イグナイト)――ビリジアン・ウィップ」

 翡翠の鞭。

 ヤクモの周囲で純白の粒子が舞い。

「向かい風に注意しろ。なにしろ私の風は、少しばかり鋭い」

 嵐が具現する。

 彼女を中心として、風が荒れ狂う。

 魔法だ。

 だが――。

『さすがに戦法が筒抜けですね』

 そう。

 ヤクモをただの夜鴉だと侮っていた者達も、これまでの戦いを通して実感したことだろう。

 彼らの刃は自分達に届くのだと。

 まともな強者なら、対策を講じる。

 どんなものにでも弱点はある。

 魔力の塊があれば、そこに綻びがあるように。

 彼女の風は渦を巻くように発生している。

 つまり、絶えず回転しているわけだ。

 言い換えれば、綻びが絶えず移動している(、、、、、、、、、)

 トルマリンのように意図的に綻びの位置を調整するのは難しいが、これならば彼の防壁以上の効果を発揮できる。

 なにせ動き回る綻びだ。捉えて斬るのは容易ではない。

 更には、嵐は一見して一つの魔法なのだが、その実違う。複数の『風』を重ね合わせるようにしてこの嵐は作られているのだ。

 たとえ斬っても、一番外側が弾けて消えるだけ。

 後には何重もの『風』が残る。

 そもそも、この風はヤクモの接近を許さなかった。

 凄まじい風圧。凄まじい向かい風。

「吹き飛ばされず、微塵に刻まれるなよ、ヤクモ」

 更には、風刃まで飛んでくる始末だ。

 身体が浮き上がる程の暴風では身体を思い通りに動かせない。

『……大雑把に見えて、抜け目がなさ過ぎます』

 彼女も風紀委の一員。トルマリンやスファレと同じ領域の強者。

 この程度、出来ない方がおかしいというもの。

 ヤクモは笑う。

 雪色夜切を構える。

「いざ、尋常に」

 雪の色をした、純白の粒子達に命令を与える。

 嵐の中に、少年は踏み込んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇書籍版②発売中!(オーバーラップ文庫)◇
i651406


◇書籍版①発売中(オーバーラップ文庫)◇
i631014


↓他連載作↓

◇勇者パーティを追い出された黒魔導士が魔王軍に入る話(書籍化&コミカライズ)◇
i434845

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ