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たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても【Web版】(書籍版タイトル:幾億もの剣戟が黎明を告げる)  作者: 御鷹穂積
デイブレイク・レイヴン/トライ

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283/307

283◇喪失

 


 

 アカツキとミヤビは同門だ。

 同じ剣士に師事した。

 ミヤビのパートナーはチヨ。

 アカツキのパートナーはオウマといった。

 彼は世界に正義があると信じていて、困っている人を見ると見捨てられなかった。

 故郷である《タカマガハラ》が魔人に襲われた時、多くの剣士が戦いで命を落とした。

 師とも他の弟子達ともはぐれ、アカツキとオウマはなんとか別の人類領域に辿り着いた。

 奇跡だと思った。故郷を失ったが、命が繋がったのだ。

 だがその都市は夜鴉に冷たかった。

 アカツキはなんとか二人分の魔力税を支払える魔力炉を持っていたが、とても戦闘に参加出来る程ではなかった。二人はしばらく低賃金の肉体労働に従事した。

 ある日、その都市も魔人に襲われた。

 思えばアカツキとオウマが餓死より前に徒歩で辿り着ける場所。

 その都市の戦士が投入されたが、戦況は芳しくないようだった。

 そしてアカツキとオウマに声が掛かった。

 アカツキは断った。魔力不足であるし、刀一振りで魔人に挑むのは自殺するようなもの。

 拒否権はなかった。

 壁の外に放り出された二人は生き残りの戦士達と協力し、死闘の末に魔人を討伐した。

 何十人死んだか分からない。

 そんな被害を出した魔人さえ、今思えば五級指定程度だろう。最も脅威度の低い個体。

 魔人にとどめを刺したのはアカツキペアだった。

 しかし、魔人は死の間際に残った魔力で風刃を繰り出したのだ。

 魔力防壁を張る余力などない。

 死を覚悟したアカツキはだが、怪我を負わなかった。

 人間形態に戻ったオウマが身代わりになってくれたから。

 アカツキは身体が斜めに断ち切られる寸前のオウマを抱きかかえ、叫んだ。

 誰か助けてくれ、と。

 オウマを治してくれ、と。

 自分達はヤマトだが、夜鴉だが、魔人討伐に協力した。大きく貢献した。『治癒』持ちの力を借りてもいい筈だ。

 同胞の遺体を運んでいた彼らは煩わしそうに視線を寄越したかと思うと、何やら目配せを交わし、そして嘲るように笑った。

「丁度いい、お前相棒と一緒に此処で死んどけよ」

「……は?」

 聞き間違いかと思った。

 違った。

「お前さ、自分が魔人倒したとか思ってる? こっちが何人犠牲払ったと思ってんだよ。お前は美味しいところ持っていっただけ。卑しい夜鴉らしいけどな」

「な、なにを……い、いやそれより、オウマを診て下さい! 『治癒』持ちの方がいるでしょう!」

「だからさ、死ねって言ってんの。このまま英雄気取られても面倒だし、サムライつっても大したこと無かったしな。そもそもお前拾った所為で魔人が来た可能性があんだろ」

 当時のアカツキは愚かで、オウマの人の良さに呆れながらもどこかで信じていた。人間同士じゃないか、助け合わなければ。共通の敵を持つ者同士、馴れ合いとはいかなくとも共に戦えば敬意は芽生えよう。困った時はお互い様だと。

 違った、のだ。

 どんどん体内の血を失っていく相棒を、馬鹿にするように、鬱陶しそうに、興味なさげに、人間共が見ている。

「僕らは確かにヤマトだ。でも、同じ人間じゃないですか」

 縋るようなアカツキの声は、嘲笑で踏み躙られた。

「くっ……あはは! 出来損ないとその《偽紅鏡グリマー》がなんだって? 人間? 烏滸がましいんだよ。向こうに戻ったらちゃんとみんなに伝えといてやる。夜鴉は欠片も役に立たず無駄死にしましたってよ」

「……ッ。ふざけるな」

「あ?」

 彼らは迷わず《偽紅鏡グリマー》を武器化、戦闘態勢をとった。脅しだ。それでもアカツキは動けなかった。恐ろしかったからではない。オウマを抱えて避けることなど出来なかったから。

「はっ、腰抜けが。そのまま欠陥品と一緒に朽ちていけよ」

 彼らはそう言い残し、昇降機で上がっていた。

 戻っては来なかった。

「あ、アカツキ……」

 喘鳴混じりの声。焦点の合っていない瞳が、それでもアカツキを見上げている。

「オウマ……」

「け、怪我、ないか」

「……! あ、あぁ。オレは大丈夫だよ」

 自分が死にかけている時に相棒の心配をするようなそんな善人に向かって、奴らは欠陥品と言った。

「よかった……。だ、誰か治癒、してくれてるのか」

「…………ッ」

 さっきまでの会話は、聞こえていなかったのか。意識が飛んでいたから?

「なんだか、温かくてさ」

「あぁ、みんなお前に感謝してる。英雄だって」

「はは……そっか。でも、勝ったのは、みんなが……」

「あぁ、そうだな。みんなで団結したから勝てた。人種なんて関係ない」

「……はは」

「なんだよ」

「今日のアカツキ、変だ」

「そうかな」

「すなお、だ」

「どこかの馬鹿に影響されたのかも」

「おれのこと」

「他に誰がいる?」

「ひどいな」

「元気になったら、好きなだけ言い返せよ」

「あかつき」

「あぁ」

「なんで、泣いてるんだ……?」

「泣いてなんかないさ」

「そっか」

「そうさ」

「あ……つき」

「あぁ」

 オウマが何を言おうとしたのか知る機会は、永遠に失われた。

 彼は事実に気付かず逝けただろうか。世界が信じたままの形をしていると勘違いしたまま死ねただろうか。そうであればいいと願う。

 恨みや怒りで魂を焦がすのは、生きた者だけでいい。

 アカツキはどうにか上に戻る方法はないかと別の昇降機まで歩いた。

 そこで出逢ったのが現パートナーのミミだった。

 彼は父の亡骸に縋り付きながら泣いていた。事情を聞くと、《導燈者イグナイター》である父が死に、残された自分は魔法を持たぬ《偽紅鏡グリマー》。利用価値はないと捨てられたらしい。

 故郷が滅びたかと思えば別の都市に行き着き、平穏を得たかと思えば相棒を失い、復讐を誓えば新たなる《偽紅鏡グリマー》に出逢う。

 絶望のどん底まで叩き落としながら、運命はアカツキに死を与えない。次なる道を示す。

 アカツキはミミを説得し、翌日に任務で降りてきた戦士達を殺した。

 お前らがヤマトを、《偽紅鏡グリマー》を下に見るなら好きにすればいい。

 だがこちらもただやられているばかりではない。

 アカツキとミミの復讐は《耀却夜行(グリームフォーラー)》の目に留まり、彼らは人間よりも余程二人を対等に大切に扱ってくれた。

 人だから正しいとか、偉いとか、生き残るべきとか、そんなものはない。

 

 ◇


「ヤマトは殺したくないんだ。どれだけ苦しい思いをして生きてきたか分かるから。どんなに苦しくても、誰も彼もが他人に優しくすることをやめられない人々だから」

 相対する姉弟子、ミヤビに言う。

「お前さんはヤマトを神聖視し過ぎなんだよ。普通の人間と変わらねぇ。魔力炉がクソだから見下されてるってだけだ。あたしはそれが気に食わねぇから変える」

「オレはそれが気に食わないから、差別するヤツは見つけ次第殺すんだ」

「……オウマは何故死んだ」

「それを言ったら、オレの味方になってくれるのかな」

「有り得ねぇな」

「悲しいよ」

 ――その時。

「おっと、お前の新しいお友達が二匹くだばったみたいだな」

「……ミヤビ姉さん。あなたを殺して、桃色の髪をした魔人も殺す。そしてランタン達を連れて帰る」

「そうか。じゃあ来い」

「いつまでも、格上のように振る舞うなよ」

「魔王の狗になったら強くなんのかよ」

「……ヤクモに恨まれてしまうな。師を殺すんだから」

「要らねぇ心配だな」




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