２４６◇兵器

　ところどころ錆びているが、全体的には光沢がある。

　滑らかとはいえない動きだが、速い。

　生き物とは思えないが、魔力炉は搭載されている。

　人で言うところの頭部はまるで箱のようで、何かの死体にはとても見えない。

　ランタンの魔法の詳細は不明だが、屍を生きているかのように偽装していたのは確かだ。　

　それとは別の魔法、だろうか。

　あるいは目の前の存在にも、『生きている』という状態があるのか。

　一つだけ、連想するものがあった。

　模擬太陽や《タワー》などの遺失技術(ロストテクノロジー)。

　現代技術での製造、建造が出来ない、だが確実に過去の人類によって生み出されたもの。

　ランタンの言葉とも一致する。

「名称は色々とあったようだが、私は古風なこの呼び方が好きだ。いや……それを言うならどの呼び方も古風になるか。ともかく私は、これをゴーレムと呼んでいる」

　頭部には、瞳に相当する部分もあった。

　赤く明滅するそれが、ラブラドライトを捉える。

「本来この機体は、暗中での戦闘を想定して創られたものだ。なぁ人間、貴様ら人類の生き汚さは凄まじいのだぞ。夜を生きる為に同胞を犠牲にするくらいだ。そんな生き物が、敵を犠牲にしないとでも思えるか？」

　本来(、、)。

　ランタンの言葉と合わせると、目の前の何かはかつて、闇の中で魔人と戦った？

　つまりそれは、闇の中で魔力炉を稼働させたということで。

　だが今は、模擬太陽の光で魔力炉が活性化している。

　背筋を何かが駆け抜ける。

　とても冷たい何かの正体は、嫌悪。

「人間の魔力炉を使っているのか」

「魔人の魔力炉が使われていたのだ、かつて」

　ランタンが最初に使わなかったのも頷ける。

　かつて同胞の魔力炉を摘出なりして、同胞狩りに使用された人類の。

　人類の、『兵器』とでも呼ぶべきもの。

　あまりに忌まわしい。

　人魔双方にとって。

「我々の目的の一つを明かそう。こういった、人類の罪の回収だ。そうでなくとも、人類の手に余るあらゆるものの回収、保護」

「自分達で再利用するなら、罪はそちらにも生じる」

「そうだな。では罰するか？」

　魔力炉の活性化が異常だ。

　魔力炉自体の性能というより、兵器の機能だろうか。

　気づけば眼前に拳が迫っていた。

　咄嗟に展開した盾状の防壁は紙程も役立たず破られ、衝撃がラブラドライトを襲った。