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たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても【Web版】(書籍版タイトル:幾億もの剣戟が黎明を告げる)  作者: 御鷹穂積
オールドプロミス→ニュークローズ

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243/307

243◇相対

 



 アカツキの『吸収』は魔法を魔力として吸収するもの。

 武器も赫焉もそこには含まれない。

 彼の剣に触れても問題ないわけだ。

 だが彼の剣技は優れている。

 剣戟に持ち込んだとして勝利は難しい。

 そうしてヤクモが考えたのが、刃に纏わせた『両断』の上に刃を纏わせるという方法。

 無闇に『両断』を消費することを防ぐだけでなく、アカツキの警戒心を煽ることも出来る。

 警戒し、対応を考える程に、思考に費やす時間がアークトゥルスの扶けとなる。

 切り合いだけが戦いではない。

「強かだな。思っていたよりもずっと」

 感心するような声。

「じゃあこうしよう」

 アカツキは先程まで直接アークトゥルスを止めようとしていた。

 だがそれはヤクモが邪魔した。

 アカツキは一瞬で方針転換。

 アークトゥルスに自分を止めさせることを選んだ。

「……!」

 ヤクモは咄嗟に飛び出そうとするが、妹の制止が入る。

『数が多すぎます!』

 ヤクモに斬られることを想定してか、彼の剣から迸る魔力は無数に枝分かれしている。

 広範囲に撃ち込まれる無数の魔力攻撃全てを防ぐことは、ヤクモにも出来ない。

 それが兄妹を狙ったものであれば、まだ全力で回避を選べばいい。

 だが自分達は今空中におり。

 アカツキは魔力を眼下に向けて放出しようとしている。

「死んだ騎士はしょうがない。では、まだ生きている騎士達は?」

 それは、アークトゥルスに投げかけた言葉。

「貴様」

「罵る時間はないだろう」

 魔力が放たれる。

 無色透明の、殺傷力を持った雨が降る。

 とうに理解していたことだが、アカツキにとって敵の命を散らすことに迷いは無いのだ。

 殺したいわけではない。ただ必要に迫られれば殺す。

 ヤクモは彼本人に。

 アークトゥルスは。

 天と地との間、雨を食い止められる位置に飛んでいく。

 皿のように魔力防壁を展開し、魔力攻撃の全てを受け止める。

「残念だな、ヤクモ。お前が折角時間を稼いだのに、《騎士王》がそれをふいにした」

 アークトゥルス本人の膨大な魔力ゆえに、彼女にしか防げない。

 防ぐ為にも多くの魔力を割く必要がある為、戦域を封鎖する為の防壁展開が遅れる。

「人々を守った」

「都市を守るのを優先すべきだろう。下にいるのは戦士、死ぬのも職務の内なのだから」

「思ってもないことを言うんだね」

「思ってもいないこと?」

「都市を守るのを優先するのが正しいなら、ヤマトを捨てるのも正しいってことになる」

 それだって、都市存続の為の行為なのだから。

「……あぁ、そのことか」

 アカツキは一瞬視線を落としたが、それだけ。

「そうかもしれないな」

 微笑みだけで真意を隠す。

『彼が持ってたあーちゃん王の魔力を感じません』

 『吸収』使用条件にもよるが、これでおそらく『両断』を吸収出来るだろう。

 とはいえ、常時『吸収』を展開しておくことは出来ない筈だ。

 アークトゥルスの魔力が無いのだから、彼は自前の魔力で全てを賄う必要がある。

 彼が『吸収』を展開していないタイミングで『両断』を発動する。

 こちらが『両断』を晒している状態で『吸収』を展開する。

 互いの思惑はそんなところだろう。

 こうなると、互いの戦闘能力のぶつかりあいだ。

 アカツキの能力はだが、ヤクモを上回って――。

『兄さんならできます』

 心からの信頼の言葉。

 冷静な思考だけでは出てこない言葉。

 それが、不思議なことに力を与えてくれる。

「あぁ」

 頷き、アカツキに向かう。

「仕切り直しだな、ヤクモ」




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