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たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても【Web版】(書籍版タイトル:幾億もの剣戟が黎明を告げる)  作者: 御鷹穂積
オールドプロミス→ニュークローズ

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236◇取引

 



 アカツキを倒す方法は、二つ。

 魔法に頼らず勝つか、『吸収』出来ないタイミングで魔法を打ち込むか。

 剣から魔法を『吸収』するならば、やりようはあるだろう。この場合、規模の大きい魔法は好ましくない。

 今しがた人類最強の魔法にさえ対処出来ると判明したばかりだ。

 狙いが大雑把なものでは効かない。

 魔法に頼らない、つまり剣技など『吸収』の余地がない部分で活路を見出すという選択も……困難だろう。

 それも、先程までの戦闘で証明されている。

 だからといって諦めはしない。

 兄妹もグラヴェル組も、すぐにでも飛び出す準備があった。

 だが動けない。

 アカツキの持ちかけた取引は《アヴァロン》に向けてのもの。

 拉致目的の襲撃者というだけではなく、交換条件を提示した。

 それも、あらゆる都市が望む膨大な魔力。

「取引、か」

「悪くない条件だろう。どのみち誓約による加護も期限切れが近いんだ。新しい生贄を立てるにも、適格者は簡単に見つかるものじゃない」

「生贄ではない」

 ハッキリと、アークトゥルスは否定する。

「生贄だなどと思ったことは、ない」

 アカツキは何を思ったか、笑みを消して謝罪した。

「そうか。済まない、部外者が口を出すべきではなかったな」

 謝罪には応えず、アークトゥルスは言う。

「貴様の持ちかけた取引だが、致命的な問題がある」

 青年は否定せず、言葉を待つように沈黙。

「朋友同士の口約束にさえ必要なものが、欠けておる」

 当然の答えと言えた。

 どうしようもなく、信頼が欠けている。

 条件なんてものは、口の上ではいくらでも良いものを提示出来よう。

 守る保証が無ければ、そんなものは無意味だ。

 ましてや、アカツキ達は騎士を殺している。協力的でなかったという理由で。死体を利用し、都市に侵入した。

 ヤマトの血が流れる者同士ということでヤクモ達に友好的だからといって、信用は出来ない。

「取引をするつもりがないなら、最初から奪っている。そう思わないか」

「奪えないが故に、取引を持ちかけた。違うか?」

「一体と一組だから勘違いしてるのかもしれないが、うちはもう少し規模が大きい集団だよ」

「人材不足が深刻だな」

「少数精鋭なんだ。くだんの乙女なら、加えるに相応しい。あ、ヤクモとそこの子もな」

 規模も目的も構成も不明な集団。

 ただ、力があるのは事実だろう。

「話にならん」

「貴方はそう言うだろうな。だがどうだろう、騎士の中の騎士。貴方の下にいる、普通の騎士達はどう思うか」

 アカツキも一蹴されるのは分かっていた筈だ。

 それでも口にしたのは、《カナン》の者にでもアークトゥルスにでもなく、《アヴァロン》の騎士達に問いかける為。

 ヤクモと同じくアークトゥルスの魔法を見ていた騎士達。

 その中にはペリノアやパーシヴァルもいる。彼らのパートナーも到着していたのか、既に武器の姿となっている。

「既に聞いているよ。困っているんだろう? オレの足元に解決策が収まっている。水なんて魔法で生み出せばいいだろう? 使える者がいないなら、そのあたりも手を貸そう。《騎士王》の伝説も永遠じゃない。いい加減、未来は自分達で選ぶ時じゃないか」

『……あいつ実は性格超悪いんじゃないですか、最悪ですよ』

 住民の避難は完了し、そこにいるのは騎士達のみ。

 アカツキがアークトゥルスの魔法に対応出来るのは見た通りだ。

 だがあれほどの高魔力を瞬間的に『吸収』し、出力を調整しながら並行して『放出』するとなると思考力への負担は凄まじいものになるだろう。

 実際、防いだ後の彼には疲労が見えた。

 彼の動きは化物染みているが、天性のものは感じない。つまりヤクモと同じく、途方もない努力の末に獲得した能力なのだ。

 理屈の通じない超常の力ではないから、限界が存在する。

 多くとも数回程さばき切れればいい方か。

 取引を持ちかけるのは、それも理由だろう。

 アークトゥルスは街を破壊されない為にも無闇に攻撃出来ない。

 アカツキは街を無視して魔法を連発されれば限界を越えてしまうから強硬策に出られない。

 いわば取引は妥協点。

 しかし当事者である騎士達はそこまで冷静に考えられるだろうか。

 ものが在るのは大きい。

 口だけならば話にもならないが、こうして実際に魔石を用意されてしまった。

 元がアークトゥルスの魔力というのもよくない。

 これだけのことが出来る魔力がありながら、アークトゥルスはしなかったととられかねない。

 実際、ペリノア達は一度、アークトゥルスの剣を向けている。

 謀反というよりは意思確認の為の襲撃ではあったが、一度根付いた不信感を消すのは難しい。

 ペリノア組とパーシヴァル組、他数組の騎士達が上がってくる。

「ヤクモ」

「はい」

 ペリノアに呼ばれる。

 その目を見て、確信した。

「力を借りたい」

「もちろんです」

 アカツキが俯きがちに苦笑し、空いた手で傷ついていない方の頬を掻く。

 失敗を悟ったのだ。

「少しは掻き乱せると思ったんだが、想定よりも結束が強いな」

 騎士達は選んだのだ。

 いや、惑わされなかったというべきか。

「貴様ら」

 アークトゥルスが複雑そうな顔をしている。

「アークトゥルス様、我らが隙きを作ります」

 判断も速い。

 アカツキの剣が触れなければ『吸収』出来ないならば、触れさせなければいい。

 その隙きを作ると、ペリノアは言っている。

「……そうか。では、任せるぞ」

「はっ」

「……上手くいかないものだな」

 残念そうな嘆息のあと、アカツキは周囲を見回す。

「オレ達はただ、彼女の言うように平和的な解決を望んでいるというのに」

 ずずず、と土塊内部の魔力が彼の剣に吸い上げられる。

「でもまぁ、仕方がない。最初に言ったように、邪魔をするなら排除する」

 



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