051 覇海のイオシウス(3)
「よいぞ、やってみせい!」
すだれを通り抜けて入ってくる、爽やかな風。
遠く波の音が静かに聞こえる、そんな時間。
翌朝、島屋敷の厨房。石の調理台の上に集められた大量の海産物を前に、わたしは首を傾げ、
「あの、つまり、わたしたちにお料理の仕方を教えて欲しいわけですか?」
厨房にはナノ先生やイーリアレの他にもう一人。ええ、フハハさんは見事に出ていかなかったのです。
「余は省みている……」
自称太陽さんは神妙な様子で俯き、
「余は怠った。余が与える肉は最上のもので無ければいかん。頂点、それが当然。それが必然である。取り込んだ構成要素によって肉の質が変わるのは道理。一見無駄に見える工程が、強き肉を作るための選別として実に効率的であることよ。この知恵、見事である! めっちゃ広めるがよいぞ!」
「はあ……」
ぶわっと両手を広げてフハハなフハハさんに、わたしはふんわり納得。
要はフハハさんもお料理を認めてくださったのですね。それはタイヘンありがたいことです。何にせよ、朝食は作らなければならないのです。
わたしは用意された海産物の種類を確認し、頭の中で献立を組み上げました。本当はわたしもシオノーおばあさんの巻きに挑戦してみたかったのですが、今日は手軽なものの方がよさそうです。
「えーと、ではまず刃物を使ってのお魚の捌き方ですが……」
「それだけではあるまい!」
まずは包丁、とわたしが右手にはがね石を作り出すと、フハハさんがわたしをフハハと止めました。
「そなたの織り成す石ははがねだけではあるまい! 出してみせい!」
「う、え、えーと、ですね……」
わたしは悩みました。六種の石を作れることをフハハさんに言ってしまっていいものかどうか、リルウーダさまに判断を仰ぐのを忘れていたのです。
しかし、見抜かれたものは仕方ありません。わたしは他五種の石を作り、調理台の上に並べました。すると、
「ほう、六種! しかしまだだ! それだけではあるまい!」
「ううっ……!」
目線で指示を仰ぐと、ナノ先生は一瞬迷ったあと、緊張した面持ちで首を縦に。
わたしは心を決めて目を閉じ、胸の前に石を作り出しました。それは紫色に光る小さな石。
極紫の命石。
わたしが石を作り目を開くと、
「極紫……」
無表情。
棒立ちで拳を握り締め、ただ紫の石を見つめているフハハさん。
「パリスナめ。よもや、このことを余に黙っていようとは……」
フハハさんの体表をパリパリと走る、か細い紫電。恐ろしいほどの威圧感。わたしはその圧に体がすくみ、思わず紫の石を消去してしまいました。
「イオシウスよ、どうか気をお静めください!」
庇うように前に出るナノ先生に、フハハさんは目もくれず、
「娘よ、スライナを救ったのは貴様だな?」
「え、は、ひゃい!」
静かな勢いに負け、わたしはついうっかり答えてしまいました。パリパリと電流を発するフハハさんの姿に、わたしはビクビク脅えながら、
「あ、あの、スライナさんをご存知なのですか……?」
「当然であろう。あの時、余波に割って入ったのは他でもない、余だ」
全てを見通すような真紅の瞳に射すくめられ、完全に動けなくなってしまったゼフィリア女性陣。そんなわたしたちを前に、フハハさんはそのお口を小さく開き、
「娘よ、肉を接ぐために用いたのは気込め石だな?」
「は、はい、肉の組成を気込め石で一度情報化し、再構築しました」
「極紫に任せたのは高速演算と複数同時作成指示か」
「はい、その通りです」
「操作法は随意式ではないな。論理式に反復算法を仕込んだか」
「自律式のものです。周囲の三次元座標を現在進行形で読み取らせます」
「同期法だな」
「はい、わたしの作る石は全てこの石と連結された状態で起動します」
フハハさんの質問に一つずつ、わたしははっきり回答してしまいます。
背中を伝う冷たい汗。かたかたと震え始めた両の膝。
極紫の命石を作り出したのは他でもないフハハさん本人。フハハさんを決して侮ってはならない、リルウーダさまはそうおっしゃっていました。
フハハさんは今まで会った誰よりも、わたしのことを理解している。それはもしかしたら、わたし以上に。
息が詰まりそうな空気。厨房を支配するフハハさんの存在感。静寂だけが流れていく、張り詰めた時間。
やがて、金色の髪から弾けた小さな火花を最後に、フハハさんの発光が収まり、
「フハハハハハッ!」
フハハさんは突然笑い出しました。そして、ぶわっと両手を広げたフハハポーズで、
「娘よ、そなたの練磨の技を認めよう! 許す! 献上せい!」
その笑い声で、島屋敷の空気がぱっと晴れました。わたしはナノ先生と目を合わせ、ほっとひと安心。
後ろに立っていたイーリアレは、いつも通りの無表情で、
「よくわかりませんが、とてもおなかがすきました……」
「どうした、娘よ! まだだ、まだ足りんぞ!」
「アー、ソノ、モードーデモ、イーンジャナイカト……」
「いかんぞ、練磨の娘よ! この世にどうでもよいことなど何一つとして存在せんのだ!」
「ソーデスネー……」
そんな訳で、お昼過ぎの島屋敷。
おいしそうな香りが立ち込める厨房にて。
調理台の上には所狭しと並べられたお料理の数々。フハハさんは包丁片手にフハハ笑いでフハハ調理。その横で、わたしはよく分からない石を作り続けています。
わたしは宙に浮いた石板の上に座り、どうしてこうなったと首を傾げました。
最初はフハハさんがお料理に使うための石を作っていたはずが、いつのまにか用途のよく分からない石を無理やり作らされることになり、既にお脳はパンク寸前。
包むと中身の鮮度が固定される風呂敷だとか。粘土のように自由に形を変えられる火だとか。霧のように散布した水分を固定して器を作れ、だとか。
その注文の非常識っぷりがどんどん加速し、わたしは頭がおかしくなりそうなのです。人の言う、「石作りは疲れる」という感覚がやっと分かったような気がします。
わたしは課題で出された石をやっとの思いで作り上げ、調理台の上に置き、
「仕上がりました……」
「こちらもだ! 許す! 堪能せい!」
げっそりとしたわたしの前にズラーッと並べられるフハハさんの見事なお料理。その行き先は勿論イーリアレの胃袋。フハハさんが作り、イーリアレが食べる。完全な流れ作業。
そう、フハハさんがお料理を始めてから半日、お屋敷の立場があっさり逆転してしまったのです。
フハハさんはわたしの伝えたお料理を既に殆ど習得し、最早完全に爆走状態。そのウデマエの上がりっぷりには舌を巻くばかり。
ていうか、おかしいのです。
気込め石を使っていないはずなのに、フハハさんの捌いたお魚には小骨が一つもないのです。食べていて不快に感じることがない、それどころか純粋な肉のうまあじだけが口の中に残るのです。
手の温度が食材に移らないよう細心の注意を払い、且つその扱い方を間違えない。迅速さと繊細さを併せ持つ、丁寧な作業。自分の肉と食材の肉を十全に制御し、活かしている証明。
やはり三千年は伊達ではない、ということなのでしょうか……。
「しかし、やはりゼフィリアよ。相変わらず面白い技術を出してくるわ」
トトトと気持ちのよい音を立てながら、フハハさんが包丁を操っていると、
「現在、島主代理を務めておりますヘクティナレイアが広めました。デイローネ様の孫に当たる娘です」
「デイローネ。そうか、あのアーティナの童の孫か。時が経つのはまこと速いものよな」
フハハさんに答えたのは、午前のお勤めを終えたナノ先生。ナノ先生は銀色のまつ毛を悲しげに伏せ、
「イオシウス、千年公は……」
「承知しておる、ナノちゃんよ。ここ数百年で余に意見したのはあの男のみ。忘れる筈がなかろう」
フハハさんはその口元に愉快そうな笑みを浮かべ、
「足元の陸を疎かにしてはならん。島を食わせるのが第一、新たな創意は大地が育むもの。柔軟な思考を以て事に備えねば、成せるものも成せなくなろう。人にそう説くくせ、自分のことには頑固でな。ああ、パリスナめも似た様なところがある」
次のお魚を手に取り、捌き、わたしが作った水込め石を纏って出汁を作り始めました。
「奴め、この楽しみを知らずに逝ってしまうとは……。勿体ないことだ」
「うっ!」
フハハさんの言うひいお爺さまのことで思い当たることがあり、わたしは石板から板間に滑り落ちてしまいました。
「姫様、どうなさいました?」
不思議そうなお顔をするナノ先生に、わたしはふらふら目線を泳がせながら、
「いえー、その……。実はですね、ひいお爺さまに、お食事をふるまってしまったことがありまして……」
「ほう……?」
カミングアウトしたわたしを、ナノ先生はゆらりと見下ろし、
「姫様が、千年公に食事を? 人類史上、最も弱い肉のあなたが、公に?」
ふええええ!! ナノ先生から今まで感じたことのない圧がががが!! ナノ先生の背後が陽炎のようにゆらめいてえええ!!
「あ、でもその揚げ魚を作ったのはソーナお兄さんです!」
「ノイソーナの料理、ですか。それならば、まあ……」
一応納得してくれたのか、ふしゅーとしぼんでいくナノ先生。
責任回避できなければ他人を巻き込むまで! 事実! 事実ですので! わたくし土下座の準備は常におっけーですので!
「そうか。プロメナは知ったのだな」
お料理を続けながら、フハハさんは静かな調子で、
「自身の血筋が啓いた技を口に出来たのだ。望外の喜びであったろう」
そう言って、フハハさんは嬉しそうに笑いました。その赤い瞳から不意に零れる、小さな雫。頬を流れる、一筋の涙。
「プロメナよ。この悦びを囲みながら、今一度、そなたと酒を酌み交わしたかった。しかし、それももう、叶わぬな……」
「イオシウス……」
フハハさんの涙を前に、ナノ先生は感じ入ったように姿勢を正しました。ちな、わたしは反省しつつ石作りを続行中。
お料理の音だけが静かに響く、島屋敷の厨房。
調理台に用意された材料が全てお料理に姿を変えた頃、わたしはようやく課題を仕上げ、
「フハハさん、仕上がりました」
「うむ、即時起動せよ」
「え、ここでですか?」
「そうだ、あちらに向けてな」
「あっち?」
と、わたしはナノ先生の方を向き、思わず石を起動して……、
「姫様。これは……?」
「ああああああれ?!」
厨房の空気がかちんと固まってしまいました。比喩ではありません。目や口は動かせますが、首から下が全く動かなくなってしまったのです。
わたしが今作ったのは、気体に変質するはがね石。はがね石はこの世界の人間の肉に干渉出来る、唯一の石。厨房に散ったはがね成分が、わたしたちの動きを縫い留めてしまったのだと思います。
「余の目を誤魔化せると思うたか、ナノちゃんよ……」
「イオシウス……!」
拘束された空気の中、パリッと紫電を放ちながらゆうゆうと動くフハハさん。その姿に、わたしは息を飲みました。
やはり何か思うところがあったのでしょうか。極紫の命石は、女性であるわたしが作ってはいけないものだったのでしょうか。
厨房を包む強烈な気配。わたしたちの緊張が最高潮に達した、その時、
「ナノちゃんよ! そなた、疲れておるな!?」
「は?」
途端に白けた空気の中、フハハさんはぶわりと両腕を広げ、
「筋肉とは、光り輝く太陽である! 遍く命は余に照らされ、眩しく輝かねばならん! そなた等が輝けぬというのなら、それは余の落ち度と言うもの! 弱きを生かさずして、何が強者か!」
そして何処までもセクシーな手付きでスタイリッシュにお箸を構え、
「そしてそう! 今は昼時である! 遠慮はいらんぞ、ナノちゃんよ! 絶対の太陽である余が、至高の食を与えてくれよう!」
「結構です、イオシウスよ。結構です」
毅然と断るナノ先生に、フハハさんはジリジリお料理を近付け、
「フハハハハハッ! 昔を思い出すではないか! ナノちゃんよ! 在りし日の幼いそなたに、よくこうして魚をくれてやったものよ!」
「そのような事実はございません。一切ございません」
フハハさんはナノ先生を顎クイし、あくまで平静を装うそのお口に……、
「姫様、石の消去を。姫さ……」
「ほわあああ! しゅしゅしゅみませんナノ先生いい!」
「出来る! やってみせい!」
「うう、やってみます。やってみますけど……」
「やってみる、のではない! やるのだ!」
翌日、お昼前の島屋敷。
雲一つない青空の下。修練場の中空に浮かぶのは、色取り取りの石の数々。わたしはフハハさんの指示のもと、今日も訳の分からない石作りを続けています。
室内での石の起動は先日のような事件を引き起こす可能性があるので、ヤヴァそうな時は修練場に出るよう、ナノ先生にきつく、きつーく言われたのです。
「さっすが海のお爺ちゃん、言ってることヤバイわー。全ッ然分っかんねー」
「分かんないねえ」
縁側に座り、わたしたちを見学しているのはゼフィリアの臨時教員ことディラさんとシシーさん。島屋敷に戻ったお二人はフハハさんと速攻で打ち解けてしまったのです。ヌゥーッ、素晴らしい社交性!
そんなお二人に五海候との関わり方について聞いてみたのですが、
『水と着物を与えたら、あとは放っときなさい。そのうち勝手に海に向かうでしょう』
と教えられて育ったので、その通りにしていた、とのこと。
ナノ先生のおっしゃった、「島の教育は正しい」というのは確かにその通り。必要以上に知らなければ近付きませんし、禁を犯しようもないのです。
それはともかく……、
「ふぎ、ふぐぐぐぐ……」
わたしは胸の前で両手を構え、気合を入れて石を作り上げました。そしてかなめ石を使い、出来上がった二つの石を浮遊操作。修練場の中央に立つフハハさんに、その石を提出します。
「ふむ、並列思考での石作りに慣れてきたようだな。よし、次だ」
「あの、フハハしゃん。しょろしょろ休憩を……」
「娘よ、次だ」
「しょ、しょんな……」
フハハさんの有無を言わせぬ要求に、わたしは流石にもう無理勘弁と、
「あの、フハハさん。これは本当に必要なものなのでしょうか?」
「必要だ」
「さっきのはお料理に使えるものだと思いますが、今作った石はその、どういう用途で……」
「必要だ」
「ううっ、分かりました……」
キパッと言い切るフハハな物言いに、わたしはしょぼくれつつも頷きました。
肉の弱いわたしが超強生命体であるフハハさんに何かを与えられるだなんて、それはそれはタイヘン名誉なことなのです。ですがその、いい加減満足してくれてもいいんじゃないかなー、と思ったり思わなかったり。
そんな感じでわたしがこの激務から逃れる術を考えていると、フハハさんは宙に浮く石を検めながら、
「娘よ、そなたの個に関わる情報を改ざんするような方法は取ってはならぬ」
「はえ?」
「聞こえなかったのか。そなた自身の限界を超えるような指示を、極紫に出させてはいかんと言ったのだ」
相も変わらずな話題の飛びっぷりに、わたしはしばらく困惑し、
「ええと、それはつまりわたし自身の人格操作、ということでしょうか」
「そうだ。個とは自然に成り立つもの。不用意にその在り方を変えようとすれば、そなたの記憶や思考を侵害してしまう恐れがある。そなたが今極紫を使えているのも、無意識に仕込んだ優先順位が抑制機能として働いておるに過ぎん」
「ほええ……」
「同期させているのは記憶と情報演算、論理的思考を行う部位のようだが、感情を司る部位は独立させたままでよい。その繋がりには既に無理が生じている。極紫を使っている間、そなたの感情が希薄になるのはそのためであろう。ものを見、聞き、感じる時、その感情が働かねば情報に印象が伴わん。批評的に取り込めなかった記憶は精度が落ちる。処理効率は二の次。娘よ、質だ」
「ふええ……」
そうでした。かなめ石こと極紫の命石は操作の石。
そして、フハハさんが言っているのは、わたし自身の選択が生命維持に直結しないよう、わたしという個を脅かさないよう、無意識に設けた安全弁。
石作りは曖昧なもの。
かなめ石は最初から「そういうもの」として作ったので考えたこともありませんでしたが、わたし自身かなり曖昧な設定でこの石を作ってしまったことを思い知らされたのです。
フハハさんは添削するように一つ一つ石を確かめながら、
「同様に、肉体の非随意機能に干渉能力を紐付けてはならん」
「それは、わたしの身体を操作、いえ、変質させてはいけないということでしょうか?」
「そなたの肉を繕う技、あれはあくまで末端、表面的な部位構成のみに絞ったからこそ実現できたもの」
「はい、いえ、それでは……!」
それでは、極紫の力でわたしの肉の状態を操作すれば、わたしの肉も強くなるのでしょうか?
すると、フハハさんはわたしの考えを見透かしたかのように、
「ならん」
「え?」
「ならん、と言ったのだ。そも、極紫の力自体は微弱なもの、ただの干渉能力に過ぎん」
「でも、フハハさん」
「娘よ、前提を忘れるな」
わたしはひとまず落ち着き、その工程を仮想計測。
自分の肉の情報を書き換える、操作するとして、どのように? わたしはスライナさんの肉を接ぐために、その肉体の情報を気込め石に取得させました。
わたしが強い肉になるためには、強い肉になった時のわたし自身の組成情報が必要になる筈。これはおそらく、ただ「肉が強く」と願っただけでは実現しない、想定できない解。
「人一人の情報を気込め石で表記したとして、それでも人に成り得ないと?」
「人間とは言葉だけの存在でも、肉だけの存在でもない。全てを構築するには因子が足りぬ。そう、観測者が必要なのだ。それを以てしても叶うとは限らん」
「なる、ほど……」
個はあくまで個。
その枠組みを組み替えるような行いは、個であることを歪ませるだけ。
「なるほど……」
わたしはフハハさんの言う通り、目の前の作業に意識を切り替えました。
これは得難い機会。フハハさんが陸にいるうちに、フハハさんから盗めるうちに、わたしは極紫の命石について出来る限りのことを知るべきなのです。
思い返す限り、フハハさんの言っていることに間違いはありませんでした。いえ、フハハさんの存在自体は色々間違っているように思えますが、フハハさんが必要だと言うのならば、この作業はきっと必要なことなのです。
わたしは胸の前で両手を構え直し、
「はい、フハハさん。今この時に集中します」
「よいぞ、練磨の娘よ。よい面構えだ。そして、ふむ、今この時と言えば……」
引き続き厳しい目付きで石を眺めていたフハハさんは、その表情をフハハと変え、
「そう、またしても昼時である!」
言うや否や、縁側を埋め尽くすお料理の数々。筋肉。豪華絢爛なお食事に秒で囲まれたディラさんシシーさんはハイタッチして喜びまくり、
「さっすが海のお爺ちゃん、ヤッバイわー! ありがとー、いっただっきまーす!」
「わあ、巻きがこんなに沢山。あたしお酒持ってく……、ありがとう海のお爺ちゃん」
「フハハハハハッ!」
フハハさんはシシーさんの要求を瞬時に叶え、お酒を用意。筋肉。そして、お二人は感謝の言葉と共に昼食に突撃。
その悶絶羨ましいお食事風景を前に、わたしは胸の前で両手を構え、心の中で自分に言い聞かせました。
いけません、今この時は石作りに集中すべきなのです。そう、集中。しゅうちゅう。しゅうちゅちゅちゅちゅちゅ……。
雑念を遠ざけたわたしの眼前、フハハさんが情熱的なステップで踏み込み、ぶわりと両腕を広げ、
「さあ、食らうがよい! これでそなたも今日から強者! 絶対の太陽である余が、至高の明日を約束しよう!」
何故か肌蹴る上半身。剥き出しになる艶かしい胸板。フハハさんはその腰をめちゃんこ滑らかにシェイクさせ、素晴らしくセクシーに両腕を上げ、
「開花せい! 許す!」
ゼフィリア領の島屋敷。
お昼時の修練場。
わたしはくわっと目を見開き、
「ちょっと黙っててください!」




