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023 男の戦い

 その獣は、シグドゥと呼ばれているそうです。


 たどたどしい言葉で、イーリアレが教えてくれました。


 その怪獣、海獣?は、移動するだけで近くの島が削られてしまうくらい、大きな獣。


 この世界の男性は女性よりもずっと強い。強いのですが、そんな男性でもシグドゥは倒せない。シグドゥは殺せない。だから男たちはその命を懸けて、シグドゥの進路を変えるのです。


 シグドゥは夜動く。


 だから男の人は夜通し起きて、海を見張る。それがこの世界の男性の役目。


 男は海に向かい、シグドゥと戦う。シグドゥと戦って、そして死ぬ。


 それがこの世界の真実。


 この世界の男性はみな、生まれついての不夜番。


 年齢に関係なく、海に向かうようになった男の人は、ある日突然夜眠らなくなるのだそうです。日が落ちると浜辺で海を見張り、日が昇ると家族のため海に出て魚を獲る。そして夜に備え、昼は眠る。


 それがこの世界の、海に向かうようになった男性の一日。


 夜、海に向かう男に声をかけてはいけない。

 夜、海に向かう男を追いかけてはいけない。

 男は陸で死なず、海で死ぬ。


 シグドゥと男の戦いは一対一。


 被害を最小に抑えるため身に付いたこの世界の男性の知恵なのかもしれません。男の人たちはその順番を本能で悟るのだとか。


 島を守るために、わたしたちの生活を守るために。

 一人一人、男たちは戦って死んでいく。


 ひいお爺さまは自分の順番を悟ったのです。

 だから海に出て、帰ってこなかったのです。


 そして次に、のほほんさんのお父さん。


 スライナさん。


 あの人が浜辺で作っていた砂の形。

 仲良く並ぶ、二つの女性の形。

 あれはきっと奥さんとのほほんさんの形。


 寄せては返す、静かな波。

 海は全てをさらっていく。


 砂で作られた家族の形も。

 のほほんさんのお父さん自身も。


 そしていずれは、島で生まれ育った全ての男たちの命をも。


『あんまりいい歌じゃないね。人に聴かれないようにするんだよ……』


 シオノーおばあさんがそう言った理由。

 シオノーおばあさんの涙の理由。


『くだけてく、くだけてく。なみのまにまに、なみのまにまに』


 イーリアレが紡いだ彼女の言葉。彼女の歌。


『おちていく、おちていく。みなそこへ……』



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凸凹探索者夫婦のまったり引退ファンタジー!
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