50 最愛の人
綺麗な花を摘み集めて花束にすると、ミランダはルシアンと共にスコーピオに乗って高い崖の上に飛んだ。
そこは竜族の森を一望できる特等席のような場所で、風に揺れる草と野花の中で墓石は太陽を明るく反射していた。
「竜王ジェラルド・ドラゴニア ここに眠る……」
墓石を読みながら、ミランダはルシアンとアルルから、そしてガレナ王から聞いていた豪快で威厳ある先代竜王がここに眠っているのだと、感慨深く刻まれた名を見つめた。
ミランダが立ち呆けている間にルシアンは花を供え、酒瓶を置き、さらには懐から葉巻を取り出すと、指先の小さな雷で火を付けた。ふう、と煙を吐くルシアンにミランダは驚いた。
「ルシアン様が葉巻を?」
「俺は吸わないが先代が好きだったから、いつも花と一緒に酒と葉巻を供えるのだ」
酒瓶の横に置いた小さなグラスにしゃがんで酒を注ぎながら、ルシアンは呟いた。
「ガレナ王の言う通り、女性が大好きだったからな。ミランダが墓参りに来てくれて喜んでいるに違いない」
「あの、先代の竜王様はご結婚はされなかったのですか?」
「ああ。一生独身だった。恋人は沢山いたが」
「何故でしょう。つがいの儀式をしなかったのですか?」
ミランダの質問に、ルシアンは立ち上がって墓石を見つめたまま答えた。
「先代には恋した人間の女性がいた。それは大恋愛だったのだと、俺は何度も聞かされた。だが、その女性はつがいの儀式を挙げる前に事故で亡くなったらしい」
「えっ……」
「竜王といえど、魂の失くなった人間を蘇らせることはできない。それから先代は恋人は作っても、結婚をすることはなかったのだ」
絶句したままのミランダをルシアンは見下ろした。
「よほど愛していたのだろうな。その女性を」
「そ、そんな……」
ワナワナと唇が震えて、ミランダは涙が溢れた。先代竜王の計り知れない悲しみに同調して、涙が止まらなかった。
ルシアンはミランダを抱き寄せて頭にキスをした。
「だからもし俺が最愛の人を見つけた時には……絶対に手放すなと先代に念を押されていた。覇気のない子どもだった俺を随分案じていたから、ミランダの姿を見て安心しているはずだ」
ミランダは泣きながら何度も頷いた。
「私、またここにお参りに来てもいいですか? 私はルシアン様がどれだけ逞しく立派な竜王様になられたか、先代竜王様にご報告をしたいです」
ルシアンは照れて頷いた。
「勿論だ。いつでもここに連れて来るよ」
晴れ渡る空から爽やかな風が吹いて、固く抱き合う二人を優しく包んでいた。
第二章 おわり
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