76
数週間が経った。コラリーとフルールに頼んだ用事も順調に進んでいる。新聞に日食の日時が記載された。やっぱり日付に間違いはない。天文学師が不吉だとか記事に書いているけど、私にとっては不吉どころじゃない。月日が経つのは早いわ。私がギロチンにかけられて処刑された日が目前に迫っている。何も心配することはないわ。私を取り巻く環境は大きく変わっている。
もう以前の私はいないのよ。階段でクリスティーヌを突き落とすようなこともしていない。あれは、お母さまの形見の首飾りを取り返したくて手を伸ばした拍子に、クリスティーヌ自らがわざと階段を落ちたことによる冤罪よ。今回はあんな取り戻し方はしない。
夕食のときに私はトパーズの首飾りをした。とても目立つもの、お父さまが質問しないはずがない。
「アミシア、今日は着飾って美しいな。なにかいいことでもあったのか?」
金遣いが荒いとはもう言われなくなった今だからこそできる、贅沢。
「ええ。宝石商が私にプレゼントして下さったの。似合うかしら」
「おお、よく似合ってるよ」
「でもねお父さま。今は誕生石を身に着けるのが流行っているらしいの。私の誕生石はルビーなの。それで、ルビーの首飾りを注文したかったんだけどね。でも、私にはどうしてもルビーを買う気になれなくて。お父さまなら分かるでしょう?」
「母さんのか」
お父さまははじめてお母さまのルビーの首飾りのことを口にした。そして、それを今所持しているクリスティーヌに冷ややかな視線を送る。クリスティーヌが冷や汗をかいている。
「購入をためらっていると、宝石商が店で一番いいトパーズをくれたんです。クリスティーヌ。あなたの誕生石はトパーズなんでしょう? あなたも誕生石の宝石を持っているならつけた方がいいわよ? 貴族の間で大流行しているから」
クリスティーヌがまさかって顔している。お父さまが暗い顔をする。
「ああ、お父さまごめんなさい。私ったら。ねえ、クリスティーヌ。お父さまがいないときに話しましょうか。私のトパーズをあげるわ」
「首飾りをですか? 私のルビーの首飾りと交換したいってことですか? お姉さま」
あらあら。私は首飾りなんて一言も言ってないのに。素直な子ね?
「そんなこと一言も言ってないわよ。二人で着飾りましょう?」
姉妹で逆の誕生石を身に着けて滑稽だと一緒に笑われる? 嫌でしょうね。それか嘘をつく? クリスティーヌなら誕生日を偽ってでもルビーの首飾りを身に着けるでしょうね? この挑発。あんたは絶対乗ってくる!




