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 魔物出現の噂が貴族たちの間でも聞かれるようになったのは、騎士ディオン・ミレーとクリスティーヌの婚約が決まってから。どういうことなのかしらね?


「お父さま。また街道に出たらしいですね。下級のゴブリンばかりなのもおかしいと思いませんか?」


 私は馬車に揺られながら推論を述べる。


「ゴブリンは元々はそれほど統率力が高いとは言えないという新聞の社説を読みました。そのことから、人が通る街道だけをピンポイントで狙うのは無理があります。誰かが配置した、または街道に人間が通ることを教えたと思われます」


「アミシアは賢いなあ。聖女でもないのに、そんな難しいことを考える必要はないんだぞ?」


「いいえ。このブドウ園へと通じるこの街道も注意すべきだと思うんです」


「まあ、確かに。この道を通るのはいつものことだが気は進まないな」


 馬車の渋滞が起きていた。先頭の馬車がでこぼこ道のために横転事故を起こしていた。


「まあ、縁起が悪いことですね」


 クリスティーヌは、素知らぬ顔でつぶやく。


「お父さま。私の魔法には限度があります。ですが、ここは一つ――道に祠を建てましょう」


 ちょっと、待ってよ? 何を言い出すのよ急に。クリスティーヌが向かい合って座る私をせせら笑う。


「女神イシュリアは教会だけを聖域とはしません。偶像を崇めることも許して下さる。そして、祠を置くことで事故の頻度も下がるでしょう」


 事故の頻度が多いのは単純に道のせいよ。それこそ、土をならせば済む話なのに。


「それはいい。女神に土地を管理してもらうわけか」


 クリスティーヌの自己アピールをやめさせないと。


「私からも提案があります。馬車の渋滞は、迂回路が整備されていないから。この辺りには貧しい民がいます。土地を買い取り彼らに別の場所に移ってもらってはどうでしょう?  何軒か立ち退いてもらう形になりますが。彼らの生活を保障できるほどの金額を支払うのです。何人かは、私の馬屋で採用します」


「おお、貧しい民のことまで考えているのか。立ち退きは少々手荒だが。金遣いの荒かったお前ならではの提案でもあるな。土地の整備に投資してみるか。それから、祠も念のために建立しよう」


 お父さま、いくら自分の領地内だからって祠なんか建ててどうするのよ。もうっ。



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