女子会
今回は朔が出てこないので潮沙羅視点になります。
「おまたせ、待った?」
「ううん、今きたとこ。部活お疲れ様」
お母さんの店に行ってから数日が経ち、今日は光ちゃんとお昼ご飯を食べる約束をしていた。
光ちゃんは部活帰りなのでジャージだが可愛い子は何を着ても可愛く見える。
「うん、ありがと。今日はそっちなんだね」
光ちゃんがいう『そっち』というのは恐らく服装や髪型のことだろう。
学校で会う時は地味な赤ぶちの眼鏡、目の高さまである前髪、そして耳を完璧に隠した髪型。
だが今日は眼鏡を外し、ポニーテールで耳には4つのピアスをしている。
「土曜日だし学校から2駅離れてるから」
「そっか。まあ同級生に会ってもその格好じゃ誰も気づかないだろうから大丈夫だね。行き先決めてなかったけどスタボでいい?」
「うん」
スターボックス。意識高い系の人や女子高生御用達のカフェ。
スタボに着き、二人とも呪文の様な注文をして席についてフラペチーノを飲む。
「せっかくの休みなのにデートとかしなくていいの?」
「別に休みの度に遊んでる訳じゃないからね。学校でも会ってるからすこしくらい会わない日があってもいいよ」
光ちゃんはドライというべきなのか、意外と自分の時間を大切にしている。
「そういうものなの?私は朔君と毎日でも会いたい……」
「バイトも一緒なんだからほぼ毎日会ってるんじゃないの?」
「たしかに結構会ってるけど今日とかみたいにバイトが休みの日は会えないし。でもお母さんとは会ってくれたし、これからは休みの日とか家に来てくれやすくなるかも」
「え?朔が挨拶に行ったの?」
光ちゃんはびっくりしてまじまじとこちらを見る。
「ううん、私がフルールに連れていったの」
「え…フルールって沙羅のお母さんの店だよね?なんで連れて行ったの?」
「朔君のスリーサイズを測りたかったから」
「ごめん、いくら私でも全然理解できない。ちゃんと説明して」
それから、朔君のスリーサイズを測るためにお母さんの服屋に行ったことを詳しく話した。
「流石に朔に同情する」
「むぅ…いきなりお母さんの店に連れていったのは悪いと思ったけどどうしても朔君に女装させたいんだもん」
「なんでそんなに女装させたいの?バイトで見てるんでしょ?」
「朔君にも言ったけど色々な朔夜ちゃんを見たいの」
訝しげな顔で何かを考えて、言いづらそうに口を開く。
「沙羅って朔が好きなんじゃなくて朔の女装した姿が好きなの?」
「そんなわけないよ。もちろん女装した姿も好きだけど。いつもどおりの朔君が好きだよ」
「え、そうなの?じゃあ別に女装させなくていいじゃん」
正論といえば正論だがそういう話ではない。
「ギャップというか色々な朔君を見たいの。朔夜ちゃんの時の朔君は照れてて可愛いし、その朔君を学校でも見てみたい」
「うーん、ちょっとヒクけど何となくわかった。でも、その朔の違った一面みたいな姿を他の女子にも見られて良いの?」
「は?嫌だけど?」
「沙羅、目が恐いよ。見せたくないなら文化祭で女装させなければいいじゃん」
「でも、見たいし……」
「面倒くさ」
「面倒くさくないよ。光ちゃんだって穂高君の色々な顔見たいでしょ?」
「まあ、それは少しわかるけど…それにしても沙羅って朔の話になるとちょっと恐いというか重いよね」
「別に重くない……」
「だっていきなり何も言わずにお母さんの店に連れて行って朔を紹介したんでしょ?朔からしたらいきなり友達のお母さんと会うってびっくりするでしょ。スリーサイズを測るっていう地獄みたいな理由で彼女でもない人のお母さんに会うってきついよ」
光ちゃんの呆れた顔と正論が胸に突き刺さる。
「別に親に紹介したかった訳じゃないの。単に朔君のスリーサイズが知りたかったから測れる場所に行っただけで…」
「それ性別逆だったら変態だよね」
「そうかもしれないけど…それに本当は家に連れてきたかったけど放課後に来るにはちょっと遠いし…」
「どっちにしても朔からしたら緊張するでしょ。いきなり家に呼ばれるのと母親の店に行くのは同じくらい緊張するんじゃない?」
「光ちゃんだって穂高君とお家デートとかするでしょ?それと同じ!」
「いや、私の場合は小学生の時から岳の両親と面識もあるし岳の家にも普通に遊びに行ってたから。なにより私は岳と付き合っているし」
「ずるい」
「いや、何もずるくないよ」
「付き合ってるのもずるいけど、好きな人と小学生の時から一緒っていうのが羨ましい」
「別に普通でしょ。たまたま小学生の時から仲が良かった人と今も付き合ってるだけだよ。沙羅だって小学生の時に好きな人くらいいたでしょ?」
「いないよ。初等部から中等部まで女子校だったから」
「ああ、そういえばそうだったね」
「だから光ちゃんと志奈乃ちゃんが羨ましいの」
「 私と岳はともかく、しなは片想いだから微妙じゃない?」
「微妙じゃないよ。やっぱり幼馴染みだから距離も近いし朔君と仲が良くて羨ましいよ」
「朔は気づいてないし全然脈無さそうだけど」
「そんなの志奈乃ちゃんが告白したら意識しちゃうかも知れないじゃん」
「うーん、朔って単純だからそれはあるかも…そんな恐い顔しないで。かもしれないってだけだから」
遠くの窓越しに見えた私の顔は確かに般若のような顔をしていた。
「とにかく、私はしなとも沙羅とも友達だからどっちかに肩入れはできないけど頑張って。沙羅はしなのことを羨ましいって言ってたけどしなだって沙羅のことを羨ましがってると思うよ」
「え、どういうこと?」
「だってしなが転校してくるまでの高校での朔の事をしなはみれてないけど沙羅はたくさん見てきたでしょ?」
「たしかにそうだね」
「だからそんなに悲観しなくていいと思うよ」
肩入れしないとは言いつつもいつも励ましてくれる光ちゃんは本当に優しい。口は少し悪いけどいつも誰かのことを親身になって考えている。
「うん、ありがと」
「うん、あと朔が女装してるっていうのを知ってるのは私を除くと沙羅だけだろうし、それも沙羅にしかない特権じゃん」
「女装は志奈乃ちゃんも知ってる……」
「えっ?」
「しかも私は何ヵ月も朔君の女装を見破れなかったのに志奈乃ちゃんは一回店にきただけでわかってた」
「やば…」
危険を感じたのか半分ほど残っていたフラペチーノを全て飲み干した。
「飲み終わったし今日はもう帰ろうか!」
鞄を持ってそそくさと逃げようとする光ちゃんの腕を掴み立たせない様にする。
「昨日バイト代入ったから、一杯奢らせてよ。私は飲み終わってないからもう少し話したいし」
「は、はい」
それから2時間以上、恋ばなという名の愚痴を光ちゃんに吐き続けた。




