文化祭準備編2
「鈴ってホントにデリカシーないよね。朔ちゃんとうちがそんなことしてるわけないでしょ」
志奈乃は心底呆れながら丸居さんの方を見ている。
「いやー、志奈乃のそういう話って意外と聞いてなかったから言いづらい関係なのかなって」
「違うしもし本当にそうだったらどうしてたの。みんなもびっくりしてたし」
たしかに僕と何の関係もなかったから良かったものの、本当にそういう関係だったらどうするつもりだったのだろう。
「私は別に気にしないけど。珍しくもないでしょ」
「「いや珍しいよ」」
僕と志奈乃は条件反射で否定する。同じ学校にいるのに僕と丸居さんは生きている世界が違いすぎる。少なくとも話を聞いていたメニュー班は僕たちと同じリアクションをしていたので僕と志奈乃がおかしかったと言う訳ではないだろう
「そもそもうちは一回も…」
ぼそっととんでもないことが聞こえたが、ギリギリの所で丸居さんが志奈乃の口を塞いだ。
「あーごめんごめん。志奈乃はモテるんだからそんなこと言ったらすぐ噂になっちゃうよ」
「噂になったら鈴のせいだからね」
「ごめんって。でもそんなに仲良いのに何もないとは思わなかったんだって。月見ってこんな可愛い子が近くにいるのになんで手出さないの?」
「なんでって……いくら可愛くても、付き合ってもいない友達とできないよ。相手に失礼だし」
「純粋だねー。そういえば志奈乃と何も無いのはわかったけど潮とは付き合ってんの?」
僕が朔夜だとバレていなかった頃に、潮は僕と付き合っているのかを他の女子に聞かれた時に含みを持たせて答えていると聞いたことがある。
メニュー班が全員聞いている状態で、嘘偽りなく付き合っていないというと、潮が嘘つき呼ばわりされてしまうかもしれない。
「うーん、どうかな。あんまりそういうのは言わないようにしてるから」
「志奈乃とははっきり付き合ってないって言ったのに?」
「あっ」
志奈乃に再会した時も言われたが僕は絶望的に嘘を付くのが苦手らしい。思わず右手で口を抑えたが誰が見てももう遅い。そもそも付き合っていると勘違いされた方がいいのか、事実通りに付き合っていないと思われても問題がないのかすら僕にはよくわからなかった。
「うーんなんとなくわかったかな。志奈乃ちょっと耳かして」
「え、何?」
僕が、一人で混乱していると丸居さんは志奈乃の耳元で何かをささやいていて、志奈乃は相槌を打っていた。
丸居さんが数十秒感の間一方的に小声で話していると志奈乃の顔がどんどん紅くなっていった。
「鈴、何言ってんの?」
「あんたがデリカシーないって言うから耳元でアドバイスしてあげたのに」
「状況とか関係なく、言ってることにデリカシーが無いの。とにかくそんな事しないから」
「えーそのくらいしないと気づかれないよ」
「いいの。うちはうちのペースでいくから」
「はいはい、これ以上は私も何も言わないよ。さっきからあっちの視線も恐いしね」
恐る恐る潮の方を見ると無表情でこちらを見ていた。
*
「朔君、駅までだけど一緒に帰ろ」
「う、うん」
メニュー班はかなり前から終わっていたが、空気を読んで他の班が終わるまで待っていたのでほぼ3班同時に終わった。
潮とは方向が違うので駅までしか一緒に帰れないが二人で帰るのも夏休みが明けてからは増えた気がする。
「メニュー班は順調?楽しそうだったけど」
先ほど見た潮はこちらを睨んでいたが今はいつもの穏やかな潮に戻っていた。
「うん、丸居さんとか委員長が意見出してくれたから早く終わったよ。誰でも簡単に作れそうなメニューだけになったし」
「それはいいね。料理できる人で可愛い人が全員調理の方に行ったら勿体ないもんね」
潮が言った通り 、せっかくのメイド喫茶なのだから可愛い人が接客できた方が客は来るだろう。
特に1日目は一般開放日なのでかなり集客が見込める。
「たしかに丸居さんとか志奈乃は可愛いし、接客できた方が絶対いいよね」
「そうだね。全員料理ができるメニュー班は可愛い人ばっかりだったもんね」
気のせいかもしれないが先ほどと同じ雰囲気を潮から感じる。恐いが原因もわからないので聞くしかない。
「潮、何か怒ってる?」
「別に怒ってないよ」
「そ、そっか」
「でもメニュー班で可愛いっていうならもう一人忘れてるよね?」
「え?誰?」
志奈乃や丸居さんと肩を並べるほど可愛い人は他にはいない気がする。
「朔夜ちゃんだよ」
「え?」
何故、僕の女装姿の時の名前を今呼ぶのだろう。
「これで朔夜ちゃんも調理じゃなくて接客できるね」
僕が困惑して足を止めていると潮も足を止めてこちらを見る。振り向き様に見えたその笑顔で潮が朔夜ちゃんと言った理由がわかってしまった。




