文化祭準備編
志奈乃が転校してきてあっという間に一週間が経過し、クラスの話題は文化祭の話で持ちきりとなっていた。
飲食店をやるクラスは事前申請が必要になるため、僕らのクラスは喫茶店をやるということだけは一学期のうちに決まっていたが喫茶店の詳細の内容は先ほどのLHRで決定した。
「まさかメイド喫茶になるなんてびっくりだね」
「うんびっくりした」
LHRが終わり休み時間になると隣の席の潮が話しかけてくる。
メイド喫茶15票、男装喫茶9票、純喫茶11票でメイド喫茶になった。志奈乃がクラスに入ったことによって女子が18人男子が17人になったので、男子が不利だったはずだが予想以上に男子の結束は高かったようだ。
「光ちゃんは純喫茶をやりたいって言っていたからかなりショック受けてそうだよね」
光の方を見ると岳と話していたが、岳のことをポコポコと叩いているのでよほど悔しかったのだろう。光は基本的には体育会系だが、実は喫茶店巡りが好きなので純喫茶をやりたかったのだろう。
「岳がいるから大丈夫だよ」
メイド喫茶だと寒いノリで男がメイド服来て接客をやる可能性もあるので絶対やりたくなかった。純喫茶は接客担当になると大変そうなので光には悪いが僕は男装喫茶に票を入れていた。
そして僕以外にメイド喫茶に票を入れていない男子は間違いなく岳だ。光のために純喫茶に入れたはずなのでそれを言えば光の機嫌はすぐに治るだろう。
「そうだね。そういえば朔君はメニュー作成班になったんだよね」
「うん、料理できる人はほぼ強制だったからね。潮は服飾班だよね」
「うん、私も朔君か光ちゃんと一緒の班になりたかったけど服作れる人と服に詳しい人は強制的に服飾班だったから」
僕と志奈乃はメニュー作成班、潮は服飾班、岳と光は装飾班になった。
「うん、僕も仲が良い人が少ないからちょっと憂鬱なんだよね」
「仲良い人なら志奈乃ちゃんがいるじゃん」
眼鏡越しに見える潮の目は全く笑っていなかった。
「いや、志奈乃は他にも仲良い人がいるし、僕は一人みたいなものだよ」
志奈乃は転校してから1週間と思えないくらい皆と仲良くなっていた。
「うーん、そういう意味じゃないんだけど」
呆れた表情を見せ潮は軽くため息をついた。
*
放課後になり、それぞれの班に分かれて話し合いが始まった。
メニュー作成班はやることもそれほどなく、料理を作れる人限定だったので6人しかいないので教室の端の方で集まっていた。
「やっぱりメイド喫茶ならオムライスは絶対だよね」
「火使っちゃ駄目だからオムライスは無理だね」
「え?火使っちゃ駄目なの?じゃあ作れないじゃん」
「ホットプレートは使えるから一応できるけど相当料理上手な人じゃないとできないね」
文化祭委員の佐藤さんがいることもあり話し合いは僕を置き去りにして凄い速さで話が進んでいく。
「そもそも卵、魚、肉は食中毒恐いから駄目」
「焼いてるんだから大丈夫でしょ」
「そうだけど調理器具とか手や指からも移る可能性あるからできるだけ駄目」
「じゃあワッフルは?」
僕と同じく今まで会話に入ってこなかったギャルが突然会話に入ってきた。
丸居鈴。胸あたりまである茶髪をいつも綺麗に巻いているギャル。
2年生になり仲の良い友達とクラスが別になりクラスではつまらなそうにしていたが、誰とでも仲良くなれる志奈乃が来てからは楽しそうにしている。
お世辞にも頭が良いようには見えないが、実は成績優秀者の常連でいつも僕よりも上の方に名前が張り出されている。
「市販のワッフルにアイスとかチョコとか盛り合わせればそこそこ見た目もいいし料理できないやつでも簡単に作れるから良いんじゃない?こんな感じで」
丸居さんが見せてきたスマートフォンには綺麗に盛り付けられたデザートの写真が映し出されていた。ワッフルの上にアイスが盛り付けられており、皿にはチョコペンで『お疲れさん』と書かれていた。
「これ、丸居さんが作ったの?」
僕がこの会議で発した第一声は只の驚きの声だった。
「うん、彼氏がTOEICで高得点とった時に作ったやつ。妹にこういうのはよく作るから得意なの。チョコペンで文字書けるしメイド喫茶としても良いんじゃない?」
「それいいかも。でも原価率結構高めだよね」
「いや、まとめて市販のワッフル買えばそんなに高くないよ。アイスも業務用の買えば安く済むし」
「確かにいいかもね。じゃあそれを軸にしてどんどん決めちゃおう」
丸居さんの活躍もありメニュー班はどこよりも早く話し合いが終わった。
「決まったって言ったら他のところの手伝い行かないといけないし決まって無いふりしよ。他の班が終わるまで適当に話して時間潰そう」
今まで仕切っていた文化祭委員の佐藤さんは人差し指に口を当て、笑顔でそう言った。
真面目そうに見える佐藤さんも僕と同じで本当はサボりたかったらしい。
女子ばかりで志奈乃以外仲の良い人もいないから目をつぶって休んでいようかな。
そういえば志奈乃は一言も話してなかったがどこにいたんだろう。
「意外と早く終わったね!」
僕の後ろから声が聞こえたと思ったら志奈乃は僕の両肩に手を回した。
「志奈乃いたんだ。全然喋ってなかったから気づかなかった」
「朔ちゃんだけには言われたくない」
首に軽く手を掛けられてぶんぶんと振られる。
「二人ともほんとに仲いいね。付き合ってんの?」
丸居さんは一切遠慮なく楽しそうに僕たちに聞く。
「いや、付き合ってないよ」
「あー潮と付き合ってるって噂になってたもんね。じゃあ志奈乃はセ◯レとか?」
他の班は話し合いが続いているので気づいていないが、デリカシーゼロの丸居さんの発言にメニュー作成班の空気は凍り付いた。




