遊園地3
「実は……潮のアルバイト先の店長は僕の姉さんで、朔夜は僕なんだ」
逃げ場の無い観覧車で遂に伝えてしまった。
殴られるかもしれない。
絶交されるかもしれない。
2度と話しかけてくれないかもしれない。
何よりも潮を泣かせてしまうかもしれない。
それでも、朔夜が僕だったと言わなければ潮との関係を前に進めることはできない。
潮が傷ついてしまうことは分かっているのに伝えてしまったのは結局自分本意の考えなのだろう。
「うん……」
「えっ?」
僕の予想とは裏腹に全く違う返答がきた。何よりも潮の顔が、僕に言われる前から知っていたと物語っている。
「知ってたの?」
「うん。今日の朝、朔乃さんが電話で教えてくれたの」
アルバイトに穴をあけることになるかもしれないので、けじめをつける意味で姉さんには潮に言うことを事前に伝えた。
だが、姉さんが僕よりも先にばらしてしまうとは夢にも思っていなかった。
思いもよらないところで、潮が待ち合わせに遅れたことと僕と目を合わせなかったことの答え合わせをされた気がした。
「朔乃さんからすごく謝られた。私の好きな人が月見君だってすぐ分かって、協力するために月見君をバイトに入れたけど、私を傷つける結果になってごめんなさいって。興味本意で私の気持ちを弄んでごめんなさいって何度も言われたの」
「そっか…」
僕が潮との関係にけじめを付けたかったのと同じで、全ての元凶である姉さんも自分の口で伝えなければいけないと思ったのだろう。
「僕がこんなことを言う資格は無いけど姉さんのことは許してあげてほしい。恋愛系の話が好きだからいきすぎただけで潮のことは本当に傷つける気はなかったと思う」
「うん、わかってるよ。朔乃さんのことは大好きだからこれからもバイトは続けるし、別に怒ってないよ」
姉さんがしたことは100%悪いのに潮は本当に優しい。むしろ優しすぎて罪悪感がどんどん膨れていく。
「ありがとう」
「それに怒るとか許すとかよりも、恥ずかしい感情が勝ったというか……」
「恥ずかしい?」
「だって知らないうちに月見君に告白したみたいになっていたし…それに好きな人の女装に気付けなかったって最低だよね。女の子にしか見えなかったけど、改めて言われてみればどうみても月見君なのに」
どうみても僕なのに女の子にしか見えなかったというのは男としてかなり傷付くが文句は言えない。
「名前も名字も変えていたし、気付けないのは普通だと思うよ。化粧もウィッグもしていたし。それに僕の話をされたのも、照れくさかったけど嬉しかった」
「そっか。それなら良かった」
「僕こそ本当にごめん。もっと早く潮に打ち明けておけばこんなことにはならなかったのに。女装していたし、バイト禁止だから言いづらくて」
潮の姿も全然違ったので最初は潮本人だという自信がなかったというのもあったが、それは言う必要はないだろう。
「それはそうだよね。私の姿も学校と全然違うし自信持てなかったんだよね。朔乃さんから聞いて、前に突然月見君が耳が見たいって言った理由がわかった」
潮には僕の考えていることなどバレバレだった。
「それよりも、照れくさいのはわかるけどなんで嬉しかったの?」
聞き流してくれたと思っていたがどうやら潮は逃がしてくれないらしい。
自ら選んだ観覧車がまるで僕を逃がさない檻に見えてきた。
「前から潮のことは友達として好きだったから」
遂に潮に言ってしまった。恋愛感情として意識し始めたのは僕への好意を知ってからだったが、友達として好きだったのは紛れもなくその前からだった。
告白ではないがほぼ告白しているようなものだ。
潮に朔夜が僕だと言えて舞い上がっていたのか口が滑ってしまった。
しかし、僕の気持ちとは裏腹に潮は声も出さずに涙を浮かべていた。
「友達として…………私今振られた?ちゃんと告白してもいないのに」
友達としてという余計すぎる一言のせいで誤解させてしまった。
無意識のうちに、持っていたティッシュで潮の涙を拭くと潮の顔が目の前にあった。
「いや、そう意味じゃない。むしろ……」
「むしろ?」
潮は泣き止み、数秒の間無言のまま見つめあった。
朔夜だったことも言えたし、もう潮に伝えない理由はどこにも存在しない。
「いや、なんでもない」
こんな絶好のチャンスで言いきれない、自身の度胸の無さに嫌気が差す。
「月見君、目閉じて」
「え?」
じとっとした目で潮は僕から視線を反らすことはなかった。
「色々あったけどこれでチャラにしよう。バイトとか学校で気まずくなりたくないし」
今まで朔夜だと騙していたことになのか、男らしくない僕に喝を入れるためなのかはわからないが、目を閉じろと言うことは、どちらにせよ僕を殴る気だろう。
だが、この一発でチャラにしてくれるならむしろ優しすぎるくらいだ。
平手でもグーパンでも覚悟はできている。
「わかった」
「うん、じゃあいくよ」
目を閉じ歯を食い縛り、打撃に備えると何かが頬に優しく触れた。
驚きのあまり、目を開けると目の前に真っ赤な潮の顔があった。
「今はこれで許してあげる。いつか続きを教えてくれると嬉しいかな、朔君」
「え、名前…それよりも今何したの?」
「ありがとうございましたー!」
僕が言いかけると、いつの間にか地上に付いていた観覧車のドアがキャストによって開かれた。
「化粧直してくるから待ってて」
それから潮は、僕の言ったことなど聞かずに女子トイレに行ってしまった。
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