遊園地
今日は岳達と遊園地に行く日。
服を着替えてリビングに向かうと母さんだけではなく、なぜか姉さんが家にいた。
「なんでいるの?」
「別にいてもいいでしょ。今日は定休日だし」
姉さんはソファーに座りながら眠そうにあくびをしている。まだ朝の8時なので無理も無い。社会人の貴重な休みにしてはかなり早い。
「別にいいけどこんな早くにどうしたの」
「あんたをからかうために来たに決まってるでしょ」
「そんなことだろうと思った」
僕が姉さんに呆れていると朝ごはんを机に並べ終えた母さんが僕達の方に来た。
「朝ごはんできたからさっさと食べちゃって。からかうって何かあったの?」
家事をしていたはずなのに僕と姉さんの話はちゃんと聞いていたようだ。
「今日はデートなの」
「え、そうなの?」
今年で50歳の母さんは年甲斐もなく、恋ばなが大好きだ。
「デートじゃないって。岳と光もいるんだし」
「光ちゃん達って付き合ってるんでしょ?ならダブルデートじゃん」
姉さんも追い討ちをかけるように余計なことを言う。
「どんな子なの?」
「勉強会で家に来たんでしょ?お母さんは見てないの?」
「えー、あの時にいたの?見逃しちゃった」
「あの時は僕の部屋でやったからね」
「まだ夏休みあるんだし、また勉強会で連れてきなさいよ。どうせ宿題もたいして終わってないでしょ」
「もう半分以上終わってるし、順調だよ」
「あんた夏休み始まって2、3日経ったくらいの時もそんなこと言ってなかった?」
僕は毎回夏休み開始の1、2日で半分以上終わらせる。そして残り半分はずっとやらずに夏休み2日前に焦ってやる。
「スタートダッシュとラストスパートが得意だからいいんだって」
「計画性ないわね」
「そういえば朔乃は何で朔の恋愛に詳しいの」
「朔から恋愛相談を受けてるからね」
自分から相談したことなど一度もない。そもそも姉さんのせいで話がややこしくなったと言ってもいい。
「嘘つかないで」
「はいはい。本当のことを言うと、私の店のバイトの女の子なの」
「へぇそんな偶然もあるのね。今度朔乃の店いこうかしら。朔の女装も見たいし」
「絶対来ないで」
母親に自分の女装姿を見られるなんて拷問にも程がある。
「じゃあ家に連れてきなさい」
「はあ、わかったよ。今度ね」
いいように言いくるめられた気がしてならない。僕は姉さんと母さんに口では絶対に勝てない。
「約束よ。それよりも、あんたその格好でデートに行くの?普通っていうか、やる気ないわね。もうちょっと服装と髪何とかしなさいよ」
「髪はこれからやるって」
「どうせたかが知れてるから私がやってあげるわ」
それから半ば無理やりに僕の部屋に行き、姉さんに髪をセットしてもらった。
こんなことは言いたくないが自分でやるよりも数段格好良くなっている。
「ほら、どう?」
「まあ、たしかに良いけど」
「でしょ」
満足げにどや顔をしているが、せっかく格好良くしてくれたので今日だけは突っ込まないでおくことにする。
「そういえばちょっと話があるんだけど」
「何よ、あらたまって」
本当は電話で言おうと思ってたので直接話せて良かった。
「今日、潮に言う。多分バイトもやめることになると思う」
「あら、ついに?」
「うん」
「バイトをやめるのは別にいいわ。あんたと潮ちゃんが店で話しているのをもう少し見たかったけど、やっと潮ちゃんの恋が叶う訳だしね」
姉さんは嬉しそうに話しているが、おそらく勘違いをしている。僕が潮に伝えることは告白ではない。
「僕が告白するって勘違いしてない?」
「え、違うの?」
「潮に伝えるのは僕が朔夜だったってこと」
「は?なんでそんな余計なことするの?」
姉さんにだけは言われたくない。
元はと言えば姉さんが僕をバイトに誘ったからこんなややこしいことになったというのに。
「朔夜の状態で聞いちゃいけないことを聞いたから。嘘をついたまま、付き合い始める訳にはいかないよ」
「あんた、真面目すぎて面倒くさい。ばらすにしても付き合ってからにすればいいじゃん」
「それは駄目だよ。付き合えなくなったとしても、嫌われたとしても言わない訳にはいかない」
溜め息をつき下を向きながら考え事を始めた。
「はあ、わかった。まあバイトのことは心配しなくていいからちゃんと伝えてあげなさい」
「うん。わかった」
*
駅で光と岳と待ち合わせをして遊園地に向かったが待ち合わせ場所に潮はいなかった。
「沙羅遅いね。いつもは早すぎるくらいなのに」
確かにアルバイトで遅刻しているのは見たことがない。トラブルとか事故があったりしてなければいいけど。
「ごめん、遅くなっちゃって」
待ち合わせの時間から5分ほど遅れて潮が走ってこちらに向かって来た。
潮の服装は茶色のフレアスリーブの半袖シャツと白のプリーツスカートで僕と一緒に買ったものだ。
学校と違い眼鏡をかけておらず、アルバイトの時と違い髪をおろして耳を隠しているのでいつもと違う雰囲気に見える。
「全然大丈夫だよ」「ああ、じゃあ揃ったしいくか」
「う、うん」
やっぱり潮の様子がおかしい。
キョロキョロとしていてて僕と全く目を合わせようとしない。
そんなに遅刻したことが後ろめたいのだろうか。
「潮どうかした?」
「な、何でもないよ」
「よし、しばらく女子チームと男どもで別々に行動しよ」
「え?」「まじで?」
「光ちゃん?」
「沙羅いこう」
光の訳のわからない提案に全員困惑していると、光は有無を言わさずに潮と一緒に遊園地に入って行ってしまった。
とりあえず僕と岳もチケットを買って遊園地に入ったが、これからどうすれば良いのだろう。
「どうする?」
「男二人でジェットコースターとか乗ってもしょうもないしゲーセンコーナーでも行くか」
「うん」
折角の遊園地にも関わらず僕たち二人はゲームコーナーで時間を潰すことになった。
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