恋ばな
潮と話しているといつの間にか、服屋に着いていた。
白を基調とした外観。外からでも鏡張りになっていて、入る前から店の中が見える。
「中々1人で服屋に入れないから朔夜ちゃんがいて助かるよ」
「えっ普段はどうしてるの?」
「すぐ入ってすぐ買って帰るか、ネットで買ってるかな。お店の人に話しかけられるのが苦手で。服を見るのは好きだから気にしないようにしたいんだけどね」
「あーわかるかも」
僕は服に興味が無く、安い服屋でしか服を買わない。
安いチェーン店の服屋は店内が広いことが多く、あまり店員に話しかけられないので好きだ。
だが、試着やジーパンの裾直しをする時は話さないといけないのでその時は少しだけ嫌な思いをする。
メンズのジーパンを試着するときに必ず間違ってませんかと聞かれるのは毎回嫌気が差す。
服屋に入ると今どきの邦楽がBGMとして流れ、店員からのいらっしゃいませという声が聞こえてくる。
しばらく二人で色々見ていたが、僕らが話しかけられたくないタイプだと察してくれたのか、店員さんはこちらに話しかけてこない。
「これとかどう?」
僕が潮に手渡したのは白のワンピース。男はこういうのが好きだと聞いたことがある。僕も結構好きなので、間違いはないはずだ。
「あーたしかに男の子は好きそう。でもこういうのってあんまり似合わないんだよね。背も大きいし」
潮は苦笑いしながら、ワンピースを体に合わせて僕に見せる。
たしかに潮は今の格好の方が可愛いかもしれない。
「うーん、難しいね」
正直に言うと潮の言う通り、今の格好の方が似合う。
僕は今の潮の格好のままで良いと思うが、潮はそれでは納得しないだろう。
「どうしようかな」
「じゃあ私が今着てる服みたいなのは?」
僕が着ているのはフレアスリーブの半袖シャツと白のプリーツスカート。
僕が似合っているなら同じくらいの潮も似合うはずだ。
「いいかも、あんまりそういうのは着たことないけど」
それから1時間程、色々試着して買い物が終わった。
「ありがとう、朔夜ちゃんのおかげで全然悩まずに買えたよ」
「そっか良かったね」
潮は嬉しそうに袋を持ちながら話している。僕からすれば結構悩んでいたと思うが潮からすると1時間は早いらしい。
「これからどうしよっか?」
岳と遊ぶ時はだいたい家でゲームかストリートバスケしかしない。
そのせいで、まだ帰るには少し早いが何をするか全く思いつかない。
「スタボ行く?」
スターボックス。僕は行ったことはないが、意識高い系の人や女子高生御用達のカフェだ。
特に行く場所も思い付かないので潮の案にのらせてもらおう。
「うん、そうしようか」
「キャラメルチョコチップクリームフラペチーノのトール1つ」
呪文?スターボックスに着き、潮はメニューを指差しながら注文しているが書いている物と言ったことが違うような気がする。
「はい、キャラメルチョコチップクリームフラペチーノのトールですね」
どうやら合っていたらしい。
店員さんは当然のように注文の確認をする。
姉さんの店にこんなメニューがなくて助かった。こんな注文をされても僕が店員だったら繰り返すことはできない。
僕には呪文を詠唱しているようにしか聞こえなかった。
「お、同じやつもう1つ」
メニューが多すぎてどれを頼めば良いかわからず、味の想像どころか大きさすらもわからないものを頼んでしまった。
「はい、キャラメルチョコチップクリームフラペチーノのトールですね」
「潮ちゃんってここ良く来るの?」
「うん、たまに来るよ。バイトまで時間ある時とか」
この注文だけで心が折れそうになる。なぜ潮は服屋は苦手なのにこの店は平気なんだ。
キャラメルなんとかを受け取り、空いていた席に適当に座る。
「そういえば潮ちゃんの所も、テストあったんだよね?どうだったの?」
「今まで一番良かったよ」
潮のテストが高かったのは知っていたけどやはり今までで一番良かったのか。
学校で聞いたときは答えをはぐらかされたが今は教えてくれるかもしれない。
「凄いね。めちゃめちゃ勉強したとか?」
「うん、何かやってないと落ち着かなかったから、ずっと勉強してたの」
潮は何かを言いづらそうにフラペチーノを飲み始めた。
「え、何かあったの?」
「前に勉強会するって言ってたでしょ?その時に色々あって」
「色々?」
心当たりはある。おそらく僕が潮に岳の前でポニーテールをしないでほしいと言ったことだろう。
「うん、月見くんって女たらしかも」
前言撤回。そんなことをした心当たりは全く無い。
僕の周りの女子は潮と光しかいない。
女たらしとは対極の存在といってもいいはずだ。
「え、その月見君って人は何をしたの?」
「ピアスの穴多すぎてちょっとひいた?って聞いたら潮は潮だから関係ないって言ってくれたの。急に言われてそんな返しできないよね?口説き文句だよね?」
「ピアスの穴が多くても中身は変わらないから関係無いってことじゃないかな?」
自分で言っていて思ったが、それは口説いているということになる気がする。
「やっぱり口説いてるよね?」
どうやら潮も僕と同意見らしい。
「しかも、他の男の子に私のポニーテールを見せたくないって言ってたの。これって告白みたいなものだよね!?」
「そうかも……」
客観的に見るともう告白にしか見えない。
「すごく嬉しかったんだけど、ちゃんと考えると、他の女の子にも言ってたらどうしようって……」
潮の表情が曇り、飲み物を握る手に力がこもっているのがわかる。
「絶対言ってないよ…と思うよ」
潮の表情に動揺して、本音が漏れてしまった。前から思っていたが普段がおとなしいので、怒るとかなり恐い。
「えっ何でそんなことわかるの?」
「だって月見君は女の子の友達が潮ちゃんともう1人しかいないって前に言ってたでしょ?それなら大丈夫じゃない?」
自分で言っていて悲しくなるが、女たらしという汚名を返上するためには仕方がない。
「今はそうかもしれないけど、突然ぽっと出の女に取られるかもしれない。あんなこと言われたら誰でも好きになっちゃう。しかも月見君は押しに弱そうだし」
「あはは…」
僕にはもう何も言い返せなかった。
*
しばらくどうでもいい話をしていると潮が何かを思い出したかのようにフラペチーノを置いて前のめりに僕の方を見た。
「そういえば、前につき合っている人はいないって言ってたけど好きな人はいないの?」
「い、いないよ」
「その反応は絶対いるよね。教えて」
こういう時は誰かをイメージしてその人のことについて話すと矛盾がなくなると聞いたことがある。男というなら岳か自分自信をイメージすれば良いが流石に気持ち悪いのでやめておこう。
「普段は優しいけど意外と怒ったり照れたりする人かな」
別に潮をイメージした訳ではない。
「おー、その人の写真とかないの?見てみたい!」
「いや、無いかな。同じグループにはいるけど二人で遊ぶ程じゃないし」
4人で撮った写真はあるが、潮に見せるわけにはいかない。そもそも別に潮をイメージしたわけではない。
「そっかぁ。今度写真撮ったら見せてね」
「うん、わかった」
「でも、ちょっと意外かも。朔夜ちゃんって可愛いし優しいから彼氏いそうなのに、その人に一途なんだね」
「別にそういう訳じゃないよ。そもそもその子のことも本当に好きかわからない。今まで人のことを好きだと思ったことがないから」
彼女が欲しいとはずっと思っていた。でも、本当に心から人を好きになったことはない。
「でも、その人は違うんだよね」
潮は興味津々と言わんばかりに僕のことを見つめる。
「うん、その人のことが気になってる。でも、そのきっかけが友達からその子が僕のことを好きだと言う噂を聞いたからなの」
正確に言えば潮本人から聞いたが少しだけぼかして話した。
僕のことを気になっていると潮から言われた後から潮のことを意識し始めた。
そんな不純なことで恋と言っていいはずがない。
「そんなのただのきっかけだから関係無いよ。重要なのはその人のことが気になるってことだけじゃない?」
「そういうものなの?」
「うん、好きになる理由なんてどうでもいいよ。しかも初恋ってことだよね。応援するよ!」
お互いにお互いの応援をするという訳のわからないことになってしまったが相談したおかげで僕の中で何かが吹っ切れた気がした。
「うん、ありがとう潮ちゃん。私も頑張ることにするよ」
お読み頂きありがとうございます!
更新が遅れてすみません。
次回からはもう少し投稿頻度が増えると思います!




