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服装

「いいよ」

「じゃあバイト終わったら遊びに行こ」


カランカラン


ドアベルが鳴り会話が遮られる。


「あ、お客さん来たね。私が行くよ」


潮が接客をしに行ったのを見計らって、先程まで盗み聞きしていた姉さんがこちらにきた。


「朔夜、服はどうするの」

「あ」


僕は初めてこの店に来たとき以外は、潮にばれないように誠也兄の車の中で着替えてからこの店に入っている。

そのため私服は普通に男の格好だ。


今日の服装は半袖の白Tシャツに黒のシャツとジーパン。

どこにでもいる普通の男子高校生の服装。この格好でも女の子だと間違えられてナンパされたことはあるが、流石に女の子にはバレる気がする。

いくら僕が女の子に見えて、かつらを被っているとしても全身メンズの服を着ていたら潮は不振がるだろう


まさか今来ているこのフリフリな服で遊びに行くわけにはいかないし断るしかないだろう。一回は行くと言ったのに断るのはかなり気が引ける。


「仕方がないから買って来てあげる」


「え、いいの?何でもいいからお願い」


「わかった、何でもいいのね」


「誠也、5時までには戻るからそれまでよろしくね」


姉さんは大きな声で、遠くで調理の仕込みをしていた誠也兄に話しかけた。


「は?どこいくんだ?」


姉さんは誠也兄の話を一切聴かず、店から出て行った。


「あいつ2時間もどこに行ったんだ?」


「いや、実は…」


それから僕は姉さんに服を買いに行って貰ったことを説明したが、誠也兄は納得ができないと言わんばかりに怪訝な表情をしていた。


「何かあった時用に、車の中に朔夜用の服が何着かあった気がするが」


「あれ、じゃあ必要ないじゃん」


「だよな。まあ、あいつのことだから単純にお前の服を選びたかっただけだろ。客も少ないし好きにやらせてやれ」


それだけ言って、投げやりだが優しい誠也兄は自分の仕事に戻っていった。


それから2時間ほど姉さんは帰って来なかった。





「ただいまー」


「お帰りなさい。朔乃さんどこ行ってたんですか?」


「ちょっと買い出しにね」


「お客さんもいないしちょっと早いけど、二人とも上がっちゃっていいわよ。もうすぐ夜シフトの人も来るし」


「ありがとうございます」


「更衣室狭いから朔夜は事務室で着替えな」


更衣室は二人同時に着替えられるくらいには広いらしいが、一緒に着替える訳にはいかないので良いアシストだ。


「わかった」


事務室に姉さんと一緒に向かい、買ってきて貰った服を袋から出す。


「姉さん、誠也兄から聞いたけど車の中に服あったの?」


「あるけど、せっかくのデートなんだから気合いいれないと」


その気持ちはわかるが女装に気合いをいれても意味がない。それに、潮からすればデートなどとは思ってもいないだろう。


姉さんが買ってきた服は脇がスースーしそうな黒い服と長いスカート。僕の足はこんなに長くないが大丈夫なのだろうか。


「服の説明してあげるから、着替えながら完璧に覚えなさい。フレアスリーブの半袖シャツは涼しさを感じさせるため。白のプリーツスカートは体型を隠すためと、朔は165センチくらいあって女の子にしては身長が高いからそれを生かすために選んだの。もし何か言われたら最近太ったからこういう服が好きって言えばだいたい誤魔化せるわ。靴は抜け感を出すためにおしゃれサンダルにしたわ。本当は高めのヒールの方が合うんだけど馴れてないと危ないからね」


フレア?プリーツ?全く聞いたことがない単語が次々と流れていく。

姉さんの言ったことの半分も覚えられている自信がない。


事務室で着替え終わり、部屋を出ると同じタイミングで更衣室から潮が出てきた。


「あら。そのキャスケット可愛いわね」


「ありがとうございます、この前買ったんですよ」


キャスケット?何のことだ。潮の帽子を見て言っていたので多分それのことだろう。


「じゃあ、行こっか」


「うん。朔乃さん、お先に失礼します」


潮は帽子を外し、軽く会釈をした。

この姿の潮を初めて見たときは少し怖いイメージがあったが礼儀正しく、普通に優しい女の子だ。やっぱりどんな格好でも学校の時の潮と本質は変わらない。


「ええ、お疲れ様」


裏口から店を出て、潮の好きな服屋に行くことになった。


「朔夜ちゃんの私服って初めて見たかも。似合ってて可愛いね」


僕はよくわからなかったが、どうやら姉さんのファッションセンスは良いらしい。


久しぶりに潮の私服姿を見たが、今日はタイト気味のデニムにシンプルな茶色のトップスを合わせている。

学校の時とは違い黒い帽子を被っているが、耳は髪の毛で隠さずに両耳合わせてピアスを4つしている。


大人っぽくて相変わらず高校生には見えない。元から潮は僕と同じくらいの身長だが、今は5センチくらいある靴をはいているので170センチ近くあるように見える。


余程イケメンかナルシストな男以外には声もかけられないようなオーラがある。


「潮ちゃんの私服は格好いいね」


「ありがと。でも、それが問題なの!」


「えっ、良いとおもうけど駄目なの?」


似合っていて格好良いのに何か悪いところがあるのだろうか。


「学校の時とは雰囲気が全然ちがうからびっくりさせるかなって。それに…」


僕は何回か潮の私服をみているので今さら驚かないが、いきなりこの状態で来たら岳はびっくりするかもしれない。


「それに?」


「格好良いより可愛いと思われたい」


「可愛いよ」


小さい声でぶつぶつと言う潮は堪らなく可愛い。可愛すぎて思わず声に出してしまった。


「いや、朔夜ちゃんにじゃなくて月見君に言って貰いたくて」


潮の目標は既に達成されているが、潮が気づいでなければ言われていないのと同じだ。


「うーん、そのままでも可愛いって言われそうだけどね。あ、だから服を買いに行くの?」


潮と遊ぶ時は格好いいではなく可愛いと言うことにしよう。


「うん、バイト代入ったから色々揃えようかなって」


「なるほど。でもあんまり服のことわからないから、私と一緒でもあんまり参考にならないと思うよ?」


「そんなことないよ、朔夜ちゃんの私服可愛いし。それに、彼氏いないって言ってたけど絶対モテるよね。今までたくさん告白されてきたでしょ?」


「うーん、まあ」


たしかにそこそこ告白されたことはある。男にな…


「男の子の好きな服装とか知らないかな?」


服のことは全然分からないが男の好みだったらわかる。今はこんな格好をしているから説得力がないが普通に僕は男だ。

男が好きな服というなら、僕が好きな服を選べばいいだけのことだ。


「それならわかるかも」


「本当?じゃあ色々教えて!」


話しているとあっという間に服屋に到着した。


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