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いつものみんなと

 四月も中旬を迎えようとしていたうららかな日。

 俺は明日香、サクラ、琴美、拓海さん、由梨ちゃん、プリムラちゃん、そして猫の小雪と一緒に自宅から片道三十分ほどの場所にある桜の木が沢山植えられている丘へとやって来ていた。


「さすがにちょっと寂しい感じだね……」


 小高い丘の上にある一番大きな桜の木の下で桜を見上げた拓海さんが、小さくそう言う声が聞こえた。


「そうですね。今年は暖かくなるのが早くて開花も早かったみたいですし、散るのも早いんでしょうね」


 俺は拓海さんの呟きに答えながら、同じく桜の木を見上げる。

 さっきも言った様に、今年は桜の開花がかなり早かった。なので俺が見上げている桜の木以外もほとんどがその花を散らしていて、ほぼ葉桜になっていた。

 しかし、これはこれで風情がある様にも見える。何よりいいのは、桜が満開の時の様に周りにお花見を楽しんでいる人達が居ない事だ。

 まあ、そういう楽しげな雰囲気はいいと思うんだけど、個人的にはそういう騒がしいのは好きじゃない。だから今回の花見は、俺にとっては都合のいい雰囲気と言えるだろう。


「ほらほら! 涼太君も拓海君も、せっかく来たんだから花見を楽しもうよ!」


 少し感傷的センチメンタルになっている俺と拓海さんに向かい、サクラがいつもの元気な明るい声を掛けてくる。


「サクラたいちょ――コホン……サクラ先輩。涼太さんと拓海さんは今、散り行く花を見てその情緒にひたっているんですから、邪魔をしちゃいけませんよ」

「何言ってんのプリムラ~。花見はね、楽しく騒いでこそ花見なんだよ?」


 胸を張ってもっともらしい事を言うサクラだが、まあ、そういう考えも間違ってはいないと思う。

 サクラの言葉にそれなりの共感を覚えつつ、再び桜の木を見上げる。

 昔から人は美しい花が短い期間で花を咲かせて散って行く様を眺め、それを人の命のはななさに例える事があったというけど、俺もそういう見方には共感を覚える。

 今でこそ人生八十年なんて言われたりもしてるけど、もっと昔の時代は違う。

 日本人がここまで長寿になったのはそんなに昔の話ではなく、人生五十年なんて言われていた時代ですら、一般人は三十歳ちょっとが平均寿命と言われていたくらいだ。

 それに縄文時代に至っては、男女共に十四歳から十五歳が平均寿命だと言われているくらいだ。それを考えると、日本人てのはよく生き延びる事ができたなと、つくづくそう思う。

 もちろん、その時代の色々な事情でそうなっていたんだろうけど、昔の人々が花の儚さを人生に例えたのもよく分かる話だ。まあ、こうして長生きができる様になった今でさえ、命の儚さの本質は何も変わらないのかもしれないと俺は思う。

 俺だってもしかしたら、明日病気で死んでいるかもしれない。事故にって死ぬ可能性だってある。それを考えれば、本当に人間てのはいつ散ってもおかしくはない花と同じ気がする。

 だからこそ人は、サクラの様に生きている今を楽しく過ごそうとするのかもしれない。


「もう……サクラ先輩はいつもどこでも楽しそうじゃないですか……」


 能天気なサクラに向かい、プリムラちゃんは大きな溜息を吐きながら呆れ顔でそう言う。


「いいじゃないですか、プリムラちゃん。私もみんなが楽しそうにしているのを見るのが好きですし」

「まあ、由梨さんがそう言うのならいいですけど……」

「そうそう! 由梨ちゃんの言う様に、みんなでパーッと騒ごうよ!」


 今回のお花見を提案した由梨ちゃんのお許しが出たからか、サクラは更にテンションを上げる。この調子だと静かな雰囲気での花見にはなりそうもない。

 でもまあ、主催者である由梨ちゃんがああ言っているんだから、俺も今日はその線で楽しむとしよう。


「でもサクラ。楽しむのはいいけど、羽目を外し過ぎない様にな?」

「分かってるってー。涼太君は本当に心配性なんだから」


 サクラはそう言って俺の背中をバンバンと平手で叩く。


「痛い! 痛いって!」

「ふふっ。サクラさんは相変らずみたいだね」


 サクラから逃れる様に少し距離を取ると、近くに居た琴美が楽しそうに微笑みながらそう言った。

 こうして人間にふんしているサクラに琴美が会うのは数回程度だが、やはりサクラのインパクトは相当に強いらしく、琴美の中のでのサクラは、いつも元気で明るい可愛いお姉さん――と言ったイメージらしい。

 関わる機会や時間が少ないとそう思うのかもしれないけど、実際に相手をするとそんなに生易しい相手ではない。悪い奴ではないけど。


「あれは元気って言うより、騒がしいだけだと思うけどな」


 俺のそんな言葉に対し、琴美は『そんな事を言ったらサクラさんが可哀相だよ』と言ってくすくすと小さく笑った。

 そんな琴美を見ている俺としては、花をでるよりも琴美の笑顔を見ていたい気分だ。


「アレアレ~? 涼太君どうしたの~? 琴美ちゃんの顔をじっと見つめちゃって~」

「じ、じっとなんて見てねーよ!!」


 サクラからの言葉に動揺し、思わず裏返った声でそう答えてしまった。

 するとそんな俺の慌てぶりを見て、琴美以外の全員が笑い声を上げた。


「ほ、ほらっ! みんな笑ってないでお花見を始めよう!」


 その雰囲気に耐え切れなくなった俺は無理やりにでもこの流れを変えようと取り出したレジャーシートを敷き、そこに持って来ていたお弁当などを次々と置いて行った。


「もおー♪ 照れなくてもいいのにっ♪」


 そんな事を言いながら、サクラも手荷物をシートの上に置いてお花見の準備を始める。

 すると他のみんなもそれに釣られる様にして次々と手荷物から色々な物を取り出し始めた。


「――それでは、これよりお花見を始めたいと思います!」


 しばらくして準備が整ったところで、今回のお花見の立案者である由梨ちゃんがお花見の開始を高らかに宣言した。普段はどちらかと言うと引っ込み思案な由梨ちゃんが、なぜ突然お花見をしようと言い出したのかは分からない。

 でも、とりあえず分からない事は後回しにして、今はみんなで一緒にお花見を楽しむのがいいだろう。それが由梨ちゃんや明日香、そしてみんなの大切な思い出になるんだから。

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