十五狩目 新米殲祓者(エクスオルキスタ)の不完全燃焼な闘争本能
えー、たいっっっっへん長らくお待たせしました。
行き詰まってたのをどうにか別のを書き散らして引っ張り上げ、やっとこさここまで書けました。
後から書き足していくことになりますので、とりあえずこれで。
今日も今日とて、鉞ならぬ戦鎚担いでカレルレンさんじゅういっさい、憎いあん畜生に全力バスケ(世紀末スポーツアクション的な意味で)叩き込む明日を夢見て走る今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。
最近すっかり吹き荒ぶ風とか弔いの鐘が似合う系女子ですが、まだ純粋無添加百%無改造ボディなので、そのうち改造せなあかん義務感に駆られています。
ヘンゼルとグレーテルが撒いた目印はパンのくずですが、今私が狩場にまとめてトレインするために捲いているのは、製造場所にプルーンとレバーを差し入れしたくなるくらいお世話になってる、鉄錆臭い魔法の液体。
ありがとう、いい薬です。
居候させてもらってる殲祓者のクランが、先週から恒例の長休みに入ったんで、ここ最近は単独狩りしてますけど、この作業ゲー感はほんと、どげんかせんといかん思います。
やっぱ、緊張感とか必要だと思うんですよ。
殺すか殺されるか、一挙手一投足に神経使って、相手の動きを観察して、次の一撃を予測しながらの殺し合いって、すごく大事だと思うんですよね。
まあ、作業ゲーもいい練習っちゃいい練習なんだけどね? ウェルロッドさんも基本の作業は大事だって言ってたし、あくまでひとつの作業として、殺すという明確な意思を持たず、一種の反射、あるいは反応にまで殺すという作業を高める、そういう練習にはもってこいではあるんだけど。
あるんだけど。
でもやっぱり、どうしても、こう、魂の精度がね。
鈍ると思うんですよ。
ま、それはそれとして、今は狩りに集中しよう。
最近では単独狩りでもⅡ種兵級なら一ダース余裕だし、この分なら単独でももうちょい深いとこまで潜れそうな気はする。
が、気を付けよう、マッチ一本火事のもと、油断大敵、慢心しません勝つまでは。
勝てると奢った瞬間に、敗北フラグが建つのだよ。
とりあえず、お世話になってるクランの皆さんが帰ってきたら、相談しようそうしよう。
その前に、協会のビズリーさんと、下宿先のウェルロッドさんに相談するのが先か。
あん人らはその辺の判断シビアだから、ムリならムリってすっぱり断言してくれるはず。
特にビズリーさん、紳士な物腰で言うこと結構キッツイのよね。だがそれがいい。第一シリーズスタイルの露口ボイスでやんわり罵倒とか、ご褒美以外何者でもないと思います。
それはともかく、ビズリーさんもウェルロッドさんも、個人的な感情差っ引いて、あくまで部外者として冷静に見てどうか、ってのを提示するだけで、その助言を無視して深部に特攻しようとする奴を止めたりはしない、と思う。
求められたのはあくまで客観的な証言を提示することであって、いい考えがある司令官を止めるこっちゃない、とシビアな線引きがある気がする。
そもそも、仕事と私情をきっちり区別するのは、基本中の基本だからね。
その辺の区切りをきっちりしないと、ずるずるべったりの狎れ合いと甘えでグダグダになって、最後は掴み合いの罵り合いで仲間割れ、となりかねないし。
その点、居候先のクランには、ドライゼのおっさんとこのクラン――ウィル・オ・ザ・ワイクスとよく似た、心地のいい突き放し感と距離感がある。
個性を喪失していない独立した個が、あくまで個を維持し独立した存在のまま、達成するべき課題を共有する集団として動く心地よさは、べったりと狎れ合った甘ったれ集団じゃ味わえない。
まあ、狎れ合いが悪い悪くないじゃなく、あくまで好き嫌いの話で、更に私にゃ無理ってだけ。
いやね、市川鷹の前世のファースト職場がね……営業二課でえっらい修羅場があって、そん時の姫たん親衛隊と女性社員の構造がね……対岸の火事でも正直ビビりましたわ。
まあ一番ビビったのは、二十歳過ぎてんのに一人称がマジで「姫」だったことだけどな! もう色々通り越してマウス男な水木顔で「フハッ」ってなったのを覚えてる。
顛末見届けないで辞職しちゃったけど、社内でも親の七光りと顔以外取柄がないことで有名なお坊ちゃまどもと、余りに仕事できないんでとうとう仕事回されなくなった脳味噌お花畑の末路なんて、たかが知れてるしね。
ま、そんなこたぁどーでもいいんだ。
単独狩り用の屠殺所に使ってる空き地へと、崩れやすい石垣の上を全力疾走しながら、ふと、居候先のクランリーダーの、ほんのりラッキー・ルチアーノ似な厳つい顔を思い出す。
他の皆様も、程よく厳つくムサい面揃った男所帯なもんだから、コーザ・ノストラ感がすごいんだよねー、居候先のクラン。
三つ揃いの背広とボルサリーノ着せてシカゴの街角に立たせたら、一気に禁酒法時代にプレイバック間違いナシだと思う。
葉巻くわえてトンプソン持たせたらもう完璧。
あのおっさんたち、何してんだろ。
今頃ホーラで馴染みの娼婦とよろしくやってるか、賭場で有り金溶かしてるんだろーなー。
リーデトの娼館は、ヴェルパとウェントス、クラーマトの共同出資、経営は傭兵協会と”大母”の共同経営っつー半分以上公営の娼館なんで、安心安全に遊べるのが売り。
娼婦は全員、本来なら刑場直行死刑まっしぐらの矯正・更生不可能な重犯罪者で、リーデトの娼館に沈むか処刑台に立つか選ばせた結果、ここに来た連中なんで、他所の娼館じゃできないようなアレなプレイもOKらしい。
アレなプレイってナンですかね、カレルレンさんじゅういっさいだからわかんなーい。
皮一枚で首が繋がってるけど、結局はリーデトで死んでくのが前提っていうから、さすが異世界、人権紙風船やな!
店の遣り手婆に忘八、娼婦以外の女性従業員やらは、引退した殲祓者を雇用してるんで、足抜け対策もバッチリ。
リーデトの住人の六割は、引退した殲祓者ってのも、都市伝説じゃなさそうだ。
じゃ、なくて。お仕事お仕事。はいはい集中集中。
撒き餌に釣られてきたのは、Ⅱ種兵級とⅡ種車級の小規模な群れ。
んー、基本に則って、小回り利いて動きの素早い兵級を先に潰して、それからノロマの車級だな。
兵級は小さめのセントバーナードくらいのが五体、車級は大きめのロバくらいのが二体と、ちょっと少な目。
居候先のクランと共同で狩る時は、大体二桁単位で釣ってくるけど、単独狩りならこんなもんだろ。
ついでに言うと、兵級も車級も、ヌタウナギとウーパールーパーがものすごく失敗した感じに混ざっちゃった上に無頭蓋症じみて平たい頭部に、クマムシとイモムシとアメフラシとナメクジをあかん感じに混ぜた胴を持ち、小指の先ほどのサブイボで埋め尽くされた、溺死した低温火傷のハツカネズミ(無毛)の皮膚を貼り付けたような、キモさ爆発の外見でいらっしゃいます。
神話生物さんのがまだマイルドじゃね?
SAN値減るなー、と思いつつ足を進めれば、屠殺所が見えてきた。
頭部ブッ潰しからのヒンドゥー式火葬と灰漁りまで一括でやってる空き地は、粗悪なレンガよろしく、焼かれひび割れ、煤けた表面に薄ら積もった灰と淀んだ空が静かな岡感を醸し出し、一気にホラゲ―度が上昇する。
まあ、実際やってることはホラゲーと大差ないけどな!
石垣から、小石ひとつ崩さないように体重の分散と移動に神経を回しつつ跳び下り、正面から迎え撃つ位置を選び、背中に背負った真っ赤なギターならぬ戦鎚を手に取る。
軽く膝を曲げ、心持腰を落とし気味に、内部魔力を回して身体能力を底上げする。
戦鎚の柄を握り込めば、革手袋の指がきゅっと鳴く。
ずっしりと重量のある打撃武器も、コツ覚えると結構取り回し楽なんだよねー。
それなりの腕力は必要だけど、その「それなり」をクリアしてれば、後は速度と方向のコントロールの精密さと機でどーにかなるし。
まあ、あれだ。ここぞって機に、打ち込むべき一撃を打ち込むべき一点に繰り出せるよう、必要な重量を必要な速さと方向に動かすってヤツ?
重量のある武器に限ったことじゃないけど、これを認識してるのとしてないのとじゃ、雲泥の差があると思うのですよ。ええ。
呼吸を鎮め、殺意なき殺害のための意識に向けて、思考を切り替える。
打つべき部位は頭部、左右の目と推定されるポイントを結んだ線を底辺とした二等辺直角形、その頂点を一撃で破壊する。
注意するべきは、兵級の動きの速さ。
最初の一体の撃破から、最長でも一時間以内に群れを仕留め、速やかに焼却。
焼却剤は最低でも一体につき一本、可能であれば二本を用いる。
手順及び備品確認終了。
作業――開始。
腰椎、腹筋、股関節、膝、足首の連動を意識しつつ、気持ち靴底で地面を擦るような円の動きと遠心力を利用して戦鎚を振る。
柄に添えた手で、正面から飛び込んできた兵級の頭頂部の一点へと、振り上げた戦鎚の重量が落下するよう方向を与える。
ぶよんとした脂肪と厚みのあるイカの軟骨の層を同時に叩き潰すような、何とも不愉快な感触と共に、妙に平たい頭部が潰れ、口と鼻を覆う布がなければリバース待ったなしの、膿んだような饐えたような悪臭がむわりと立ち上った。
一体目の頭部を潰した落下の運動を、下肢から伝わる円の動きを加えて加速させ、手首を返し、左から近付いてきた二体目の頭頂部に叩き込む。
重量任せに圧し掛かってくる車級そのものを、兵級の突進に対する遮蔽物に利用しつつ、戦鎚の重量、遠心力、円運動のエネルギーが、機械式時計の歯車の様に複雑に作用し合うのを意識しながら、三度、四度、五度と戦鎚を振るう。
頭部を潰された兵級を巻き込んでの、車級二体のすっとろい圧しかかりを半歩で躱し、地面すれすれにまで下がった頭部へ戦鎚を叩き込む。
ぴくりとも動かなくなった合計七体のⅡ種に、ウエストポーチから取り出した焼却剤九本をまんべんなく浴びせた上に、一緒に取り出した錫の小箱のマッチを擦って放り投げれば、轟、と音を立て、硫黄が燃えるような青白い炎が七体を押し包む。
肺か、それに類する器官に残った空気が押し出され、悍ましい悲鳴じみた音を響かせ始めた辺りで、切り替えた意識が素に戻り始める。
灰になるまで、あと十分は確実にかかるので、自然鎮火するまでは、仕事の後の一服タイムだ。
鼻から口を覆う布をずらし、細巻きの葉巻に似せて仕上げた中和剤をくわえて、マッチを擦る。
マッチの燃える瞬間のつんとした匂い、火にあぶられた葉がちりちりと焦げる音、鼻腔の異臭を洗い流す、スパイシーな甘い香りに、殺害のための意識が緩やかにと引いていく。
明日は休養日だし、今日は午後にも一回狩り行っとこっかなー。
見上げた空は、相変わらずのっぺりと煤けている。
今日も、夢や希望や明日ってものを、ものの見事に感じさせない、閉塞感溢れるリーデト日和でございます。




