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十四狩目 瘴魔(パライヤール)ゲッチュ!

絶賛スランプ中です。

浮上の足がかりに……なったらいいなぁ……。

 研修用寄宿舎に一泊後、どこ経由でバレたかしらないけれど、アストラのおっさんから長逗留するならここに下宿しとけ、とのありがたいお言葉メッセージと一緒に届いた紹介状と、抜けきらない日本人気質で用意した「つまらないものですが」を携え、向かった先は魔道具(マジックアイテム)の販売とメンテナンスの店だった。

 商店としてはオーソドックスな間取りの三階建て、床面積にはそれなりに余裕があって、でも、何つーか、こう、全体的にやる気がないっつーか、商売っ気? 何それ食えんの美味しいの? な雰囲気が、頑固一徹職人気質な職人がやってる下町の零細工場っぽくて、個人的には非常に高感度の高い店でした。

 だが、何より重要なのは。

 あのね、店主さんがモーガンさんだった。自由人(フリーマン)な方の。

 モーガンさんですよモーガンさん! 人生酸いも甘いも苦いも辛いも噛み分けたインテリ系ナイスシルバー、アカデミー俳優で猟奇殺人事件を追うベテラン刑事、某国初の黒人大統領、引退した工作員まで何でもござれのモーガンさんとか、ちょっと何これ私死ぬの? 死ぬ前のご褒美なの? いやもうマジで心筋ばっくばくでしたわ。

 まあ、それはともかく、紹介状のお陰でモーガンさん、もといウェルロッドさんの店の屋根裏をロハで借りれるようになったのはいいけど、寝床用意しとけばあとは勝手に生き抜くから放っとけって、確かに否定はせんけどアストラのおっさんェ……。

 とまあ、そんなこんなはあるものの、リーデト暮らしは順調そのものでございます。

 朝起きて飯食って旧ナートゥム潜って戦鎚で瘴魔(パライヤール)の頭部を戦鎚ウォーハンマーで叩いて潰して死体焼いて血晶玉(けっしょうぎょく)の原石回収して下宿戻って飯食って寝て(三日リピート二日休み)と、朝起きて牛乳飲んで飯食って牛乳飲んで体操して出撃して飯食って牛乳飲んで出撃して飯食って牛乳飲んで出撃してシャワー浴びて寝て(以下エンドレス)たら、金柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章受章の世界最強の戦車撃破王になってたスツーカの魔王様か、塀の中のミナサマのよーに、規則正しい生活してます。清く正しく美しく!

 で、三サイクルを二回回した辺りで、研修の時お世話になった殲祓者(エクスオルキスタ)のクランから、一狩り行こうぜと声をかけられ、ご一緒するようになりました。

 お陰様で、なりたて初心者殲祓者(エクスオルキスタ)単独ぼっち狩りでは、入場規制される狩り場まで行けるようになりました。

やったねカレルレンちゃん獲物が増えるよ!

 スカーフかマフラーか区別の難しい、ダイナミック臭漂う長めの布で口元を覆う息苦しさにも慣れ、瘴魔パライヤールを誘き出すための撒き餌を辺りにブチ撒け、引っかかってのこのこ出てきた瘴魔パライヤールの頭部を片っ端からぶっ潰すだけの簡単なお仕事にもすっかり慣れましたとも。

 なお、撒き餌は鮮度が一番なので、輜重隊とは別口に、ホーラから週一のペースで送られてきます。

 ホーラには、やんごとないお家に時折発生する、『異常なまでに良心と罪悪感の欠如した、他者に対して共感というものをおよそ持たず、呼吸するように嘘をつき、自らの行動に全く責任を取らないにも関わらず、表面的には魅力的み見える』、いわゆる精神病質者サイコパスの、ナチュラルボーン犯罪者を終生収容する施設がある、らしい。

 まあ、あくまで「らしい」という話であって、公的に存在は認められていないエリア51的なものなのだろうけど、とりあえずその、あるかどうかは玉虫色な施設のご協力のお陰で、新鮮フレッシュな撒き餌に困ることはないんだとか。

 え? 撒き餌どんなんだって? とりあえず鉄っぽくて生臭くて黒みを帯びた赤い液体ですが何か。

 試験管サイズの陶器の瓶に、厳重に密封されていて、瘴魔パライヤールをおびき寄せたい地点ポイントで地面に叩きつけて一気に集めるか、瓶の蓋にちょっとだけ穴明けてヘンゼルとグレーテル的にトレインするか、使い方色々で非常にお手頃なんだよキャシー! ワァーオ、素敵ねマイケル! ってなもんです。

 ただ、最近、正直コレジャナイ感がねぇー……。

 確かに、瘴魔パライヤールは巨体だし、巨体故のパワーも、巨体に見合わぬ俊敏性も、アホのような肉体の再生能力もある。

それは十二分に脅威と言えるけれど、それを生かすだけの頭脳が、知恵がない。

 本能のまま、ただ一直線にこっちに向かって突っ込んでくるだけだから、動きが予測できる。

でもって予測がまず外れない。

 外れても、あくまで「外れた場合どう動くか」の予測の範囲から出ないので、ヌーの大群レベルで押し寄せてくるようなことにでもならなければ、どうにかできてしまえる。

 まあ、大軍が凸してきても、Ⅱ種パダチ級ならテルミット焼夷弾(魔法)どーん、である程度は間引きできるかもしれないけど。

 それは置いといて、つまりどういうことかって言うと、


「正直、こう作業になっちゃうと、色々問題かなーって思うんですけど、そこのとこどう思いますウェルロッドさん?」


 店の奥、キッチン兼リビング兼ダイニングで、薬品焼けなのか何なのか、元が木材だったとは思えない名状しがたき混沌のマーブル模様を描くテーブルにつき、対面のウェルロッドさんに、つい愚痴る。

 テーブルには、厚切りベーコンとゴーダチーズっぽいハードチーズのスライスを、固く焼きしめた全粒粉パンに挟み、インベントリに山ほど余ってる自家製豆乳と、企業コラボの粉チー&荒挽きの黒コショウでクロックムッシュもどきに仕上げたやつと、ひよこ豆と残り物の根菜、塩ブタのトマトスープ、作り置きのカリフラワーとセロリのカレー風味ピクルス、コーヒーが並んでいるが、これらは休養日限定で飯係やってる私の、いわば定番メニューだ。

 ちなみに塩ブタは、肉二:脂身八のウクライナのサーロ的な代物なので、ほんのちょっとしか使っていないけど、塩気とうま味がしっかり出るので、なかなかに便利だったりする。

 何だかんだで下宿代ロハにしてもらってるし、休養日ならそんくらいやってもいいかなー、ってことで、休養日は朝晩飯作ってます。

インベントリの大量の食品アイテムの消費にもなるしね。焼け石に水でも。

 水が貴重品だから、なるべく水使わないようにしてるけど、安心して飲める水が蛇口から出る日本って、マジ水の国だったんだなー。


「まあ、しばらくは必要な作業だと思って割り切ることだね。作業を的確に行えると認められれば、潜る深度も上がる。つまらん作業だが、必要な作業だぞ?」


 普段は物分かりのいい子供が、妙にゴネてるときの大人の口ぶりで、老眼鏡越しに一瞥されてしまえば、ですよねー、と肩をすくめるより他になく、ナイフで切り分けたクロックムッシュもどきにかぶりつく。

 牛乳と卵で作りたいとこだけど、リーデトじゃあ生鮮食品の保存は難しいから、脱脂粉乳的粉末ミルクと乾燥全卵だしねえ……。

 この粉末ミルクと乾燥全卵、正直あんま美味くない、っつーかぶっちゃけマズい。牛乳と卵の風味が完全に殺されてる感じがもうね、英国面を感じさせるレベル。

 新鮮な牛乳と卵に思いを馳せつつ、黙々と朝食を摂る。

これと言って会話が弾むことはないけど、聞けばそれなりに答えてくれるし、やたら話しかけてこられるよりはいいかな、って思ってる。

 で、そのウェルロッドさんは、食事が済めばさっさと工房に引きこもり、目下手掛けている魔道具マジックアイテムの実験だか調整だかにかかりきりになるので、下宿始めてから一ヶ月近く経っても、会話の時間は一時間もない。二千一年スペーストラベルもビックリだわ。

 まあ、私自身もそう喋る方じゃないんで、楽っちゃ楽だけど、頑張って鍛えたコミュニケーション能力が劣化しかねないのは問題かな?

やだ、私のコミュニケーション能力低過ぎ……? とかなったらどうしよう。

 なお、常日頃から内部魔力オドがんがん回してるので、食べても食べても片っぱしから消費する、大昔のアメ車以上の燃費の悪さを誇るワタクシメの、朝食のクロックムッシュもどきは食パンで一斤分相当だったりするけど、殲祓者(エクスオルキスタ)の食糧の配給は結構多めなんで、ウェルロッドさんの家計を圧迫することはない。

まあ、小腹空いても、インベントリの食品アイテムがあるし。

 そうそう、インベントリと言えば、リーデトに入ってから、接続が切れたことがないんですよこれが。

しょっちゅう断線してたのが嘘みたいに絶好調で、それが気になってしかたがない。

外部魔力マナの濃度と言い、魔境とは言いえてホント妙だこと。

 朝飯が済んだら、協会(ギルド)に持ってった血晶玉(けっしょうぎょく)の原石の買い取り金受け取りに行くくらいしか、やることがない。

 とにかく全力で何もせず、ひたすらぼひゃーっと過ごすことが第一だから、ワーカホリックの元日本人には少々ツラァ……なんですね。

 成人された方々には酒場や娼館ってお楽しみがあるけど、中身アラサーでも見た目中学生の行くとこじゃないし、そもそも娼館行ってどうするって話しだし。

風呂屋があるけど、貴重な水を大量に使う風呂屋は営業時間限られてるからなー……。

 ま、いつも通り協会ギルドで買い取り金受け取って、屋根裏部屋で内部魔力オドの循環鍛練かねー。

内部魔力オドは鍛えれば鍛えるだけ、質も量も上がるしね。

 ごちそうさま、と手を合わせたら、食器を流し台に運び、中和剤ぶっこんで口に入れなければセーフ、なレベルにまで浄化された雨水を利用した生活用水で、食器を洗う。

うっすら中和剤色してるけど、気にしたら負けだ。

 洗った食器を拭いて食器棚に戻し、ゆっくりと食後のコーヒー(正確にはコーヒーに砂糖と豆乳ぶっ込んだコーヒー豆乳だけど)を味わう。

 あー、もっと深いとこに潜れるようになりたいわぁー。そんで、もっともっと強くなって、あのスカした面に一発キメて、ブチ殺してさし上げられるようになりたいわぁー。

 ……人はきっとこの感情を、さついと呼ぶのでせうね。ふふ。

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