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七狩目 愛と青春の旅立ち

 ハァー♪ スキースへスキースへと草木もなびくよ♪ ハ、アリャアリャアリャサ♪

ねんがんの自由傭兵協会所属票をてにいれたぞ! なツァスタバさんじゅっさい改め、カレルレン=ナガンさんじゅっさいです。

 かくかくしかじかまるまるうまうまの諸事情から、ツァスタバってのが適当に思いついた偽名とゆーのがバレたんですが、おっさんたち最初から偽名だな、と思ってたそうです。

 流石にマジモンの名無しの権兵衛だったとは思わなかったサコーの父ちゃんから、それじゃあ俺からの独立祝いだ、と名前を頂戴してしまいました。

これでサコーの父ちゃん、リアル父ちゃんです。名付け親的な意味で。

 別にツァスタバのまんまでもよかったんだけど、折角なので有難く頂戴することにしたのが、カレルレン=ナガン。

 カレルレンってのは、サコーの父ちゃんの故郷に伝わるお伽話の、夜の精霊の名前だそうで、良い子には楽しく美しい夢、悪い子にはぞっとするような恐ろしい夢を運ぶ眠りの化身であり、夜の間に死んだ人間の魂を冥府に運ぶ魂の運び手……って、え? それって死神じゃね?

 そうそう、こっちにもあの世とかの概念はあるようで、冥府に運ばれた魂は生前に犯した罪の重軽に応じた罰を、冥府にある浄罪の荒野で受ける、ってことになってるそーですが、生まれてこの方教会に足を運んだことのない身なんで、こーいうのは昔教わったものっそくざっくりした話しか知りません。

 ちなみに、別の地方だとカレルレンは、浄罪の荒野を、無数の銛先をくくりつけた鉄鎖を牽く、炎吐く鋼のひづめ悍馬かんばで駆け回り、罪人をグチョッっと挽くだけの簡単なお仕事をしていらっしゃる、冥府の刑吏なんだそうな。

公平無慈悲ながら見目だけ・・は大層麗しいらしらしいんで、まあいいかな、と。

 んで、ナガンは、ウィル・オ・ザ・ワイクスを、ドライゼのおっさんと立ち上げた人の名前なんだと。

親も子もなく天涯孤独、好きに生きて、自分の人生に満足して死んだ御仁の名前を、屋号として頂戴したわけです。

そんな人の名前、屋号でも貰っちゃっていいのかなぁ、と思ったけど、ドライゼのおっさんには一応OK貰ってたとかで、遠慮なく頂きました。

 前の名前――ええと何だっけ。ヴェールヌイとかヴェノムスネークとかそんな感じだったと思うけど、あれはもう返してしまったものなので、私だけのオンリーワンなカレルレン=ナガンの名前は、大事にしようと思います。

この大事な名前、サコーの父ちゃんとかおっさんたち未満の連中には、簡単に呼ばせねえですよ? 

 それはそれとして、準備含めて三か月の単独仕事の評価はギリ良で、優はいただけなかったものの、可じゃないから恥ずかしくないもん! と言っておこう。

 一晩経って血抜きの済んだ、手配書回ってそうな冒険者崩れの首と海鼠にした御者持って帰って、ベルトの裏側に隠してた羊皮紙と御者を引き渡したり、喧嘩売ってきたアホのところに特製☆御者の活造り袋詰め~あい剥ぎした指示書を添えて~をデリバリーしたり、技術協力の御姉様方のとこにミニブーケと焼き菓子持ってお礼に行ったら、ひん剥かれてガッツリ女装させられたりしたけど、私は元気です。

 依頼主にも高い評価を頂戴して、ホクホクねぐらに戻った翌日、おっさんたちから独立の合格判定とを頂戴し、意気揚々といざギルド! と乗り込もうとしたんだけど、結局その日は独り立ち祝いのどんちゃん騒ぎに突入してしまいまして。

つか、あれ絶対、独立祝い口実だったよね? だって肴と飯モノ作ってたの、祝われるはずの私だったし。

肉酒肉肉酒肉とか、おっさんらどんだけ肉食なの。草食系男子は生き残れないってか。

 じゃなくて。ここ二年で背も伸び、体もしっかりできてきたお陰か、二年前のようにウイスキー一杯でデデーン、アウトー! にもならず、よく食べよく飲みよく笑い、独り立ちを認めてもらった翌朝、二日酔いの青い顔を見かねたサコーの父ちゃんに付き添われ、首袋ひっ提げてギルドに向かったのですよ。

潰れなくなっても、さすがにボトル三本のワインはまだキツかった模様。うぬぅ。

 ギルドについてからも、サコーの父ちゃんには世話になりっぱでホント申し訳なかった。

ウィル・オ・ザ・ワイクスのおっさんたちからの推薦状なんてサプライズまで用意して下さいまして、お陰で三階級特進ですよ、のっけから。

 鶏の腹の中の卵ルブルムはないな、とは思ってたけど、ケツに殻ついたヒヨコフラーウゥス鶏冠の出来かけウィリディスも飛び越えてケツの青いガキカエルラってもうね、ぶっちゃけありえなーい、と言いたいとこですが、ガチ即戦力勢だもんね私。

自分で言うのもアレだけど、下準備した上でなら、偵察、潜入、奇襲、撹乱、暗殺までできちゃう一人特殊部隊ワンマンスペシャルフォースだもん。

 でもってサコーの父ちゃんがそっと差し出した推薦状、仕事し過ぎ。

内容は、八つの時の、『ドキッ☆変態だらけの人身売買大会ぶっ潰しスペシャル!』とか、今回の、『はじめてのミッション! 感動! 独立試験スペシャル!』の簡単な評価だよ、とサコーの父ちゃんは言ってたけど……内容めっちゃ気になるわー。

 それはいいとして、登録だけど、結構面白かった。

登録証? 身分証? って言うの? ドライゼのおっさんが国境越えの時に見せてた、ドッグタグみたいなやつ、登録する前は灰色の、素焼の陶器みたいにザラっとした質感なんだけど、認証? するのに血垂らしたら、一滴なのにサーッと広がって浸透して、金属のトゥルットゥルな質感になってんの。

なにこれ超凄い。

 血を使うのは、内部魔力の波長パターンを登録するためなんだとか。

あー、やっぱ内部魔力と血って密接な関係だったか。ある程度予想はしてたけど、これでまた色々とできることが増えそう。ぐふふ。

 タグは三枚一組で、一枚はギルドで保管され、残り二枚はドッグタグと同じ、死亡報告用と遺体判別用を兼ねた身分証だと予想されます。

五体満足のきれいな死体が残りにくい稼業だしね。

 そんなこんなでカレルレン=ナガンとして登録も無事に済み、首の換金手続きにかかる二日を利用して、物理的な独り立ちに向けた準備も進めた。

なし崩し的にウィル・オ・ザ・ワイクスの面子にカウントされんじゃね? な予感があったからね。

 そこで目を付けたのが、商都スキース。

副王都から馬車で五日ほどの、ほどよい遠方にあるスキースは、北のヴェルパ、東のレリンクォルから人と物とが流れ込む都市まちだけあって、厄介事メシのタネにはそれなりに事欠かなさそうな気配があるのが、大層魅力的だ。

 あ、ヴェルパってのは、ここヴェルヴェリア大陸最大の産鉄国で、全体的に標高が高く、土地もどっちかって言うと痩せてるから農耕牧畜にあんまり向かんのだとか。

その穴埋めなのか、鉄に始まり金銀銅にごく少量ながら白金プラチナが、沿岸では琥珀と翡翠も採れる……って資源チートかよ。

 ミスリルとかオリハルコンとかアダマンチウムとかヒヒイロカネとかアボイタカラとかのファンタジー金属は、東の大陸でしか産出しない上に、採掘・加工可能なのは岩人族ドワーフだけらしい。

認識票に使ってる金属も、岩人族ドワーフ謹製の謎金属なんだそうな。

 そう、岩人族ドワーフ。生まれ変わったんだか乗っ取ったんだか微妙だけど、こう・・なって四年目にして、やっとこさファンタジーを実感しました。

魔法? 確かに凄いし便利だけど、内部魔力ガン回せば大概先手取って即殺できるから、練習は欠かしてないけど殆ど使ってませんが、何か。

 ちなみに、商売でこっちに来たてた岩人族ドワーフを見たことがあるアストラのおっさんによると、身長は高くても百四十メルそこそこながら、男女ともはち切れんばかりにムッキムキと逞しいワガママボディに、お髭もっさりの指輪系正統派らしい。やだ素敵。

 そんな素敵種族の住む東の大陸は、荒涼とした岩山と砂漠が半々で、岩人族ドワーフが住んでるのは岩山らしい。んで、砂漠のオアシスには森人族エルフが住んでるそうだけど、砂漠に住んでんのに何故に人族なのか。解せぬ。

 あと、北の大陸には獣人族ライカンがいるそうだけど、こちらも聞いたことはあってもお目にかかったことはない。残念。

 言語習得のため会ったことがあるアストラのおっさんによると、人+ケモミミ+尻尾とゆーよーなヌルいもんではなく、二足歩行で普人族ヒュームっぽい骨格になった動物、とゆーのが一番近いらしい。

男より女の方がより普人族ヒュームっぽいそうだけど、行けるもんなら是非北の大陸に行ってみたいもんである。

 まあそれはさておいて。

そんなこんなでワタクシ、カレルレン=ナガン十歳は、ヴェルヴェリア自由傭兵協会所属の自由傭兵として、胸一杯に夢と希望を詰め込んで、血沸き肉躍り骨軋む、素晴らしき未来への第一歩を踏み出しました。

 ……乗合馬車の振動でケツ痛いけど、とりあえず、スキースついたら下宿の安いとこ探そ。

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