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三狩目 禁じられてない遊び・惨

※※警告※※

この話には、特に男性に対して残酷な表現が含まれるます。ご注意ください。

 今回の“協力者”であるお貴族様と共に、護衛に化けたシグが人身売買会場であるヴィッラに入ったのは、オークション三日前のことである。

 どんな弱味を握られているのかは不明だが、お貴族様が至って従順なお陰で、その日のディナーの前にはヴィッラの構造と人員の配備、あわせて八割が丸裸になっていた。

 もっとも、それはシグのお貴族様の護衛に相応しい“それなりにお堅い格好”と、オークションに参加されるご夫人方が秋波を送ってくる程度に、遊び慣れた態度とそれなりのつらがあればこその話で、ローナーやアストラではこうはいかなかっただろう。

 特に、二階から上の人員配置と“特別なお部屋”についての情報は、少々色っぽ過ぎる客室付きメイドの多大なる協力によるところが大きい。

 シグが集めた情報は、魔道具を経由してアストラの手元に送られており、どこかの貴族にヴィッラ本来の使い方をされていた頃の図面と照らし合わせながら、ドライゼと突入計画を練り上げているはずだ。

 残り二割は地下室の構造と人員配置、当日の人員配置の情報だが、そのうち、地下室についての情報が手に入ったのは、翌日のことである。

 ここでは、参加者に事前に“商品”を見せ、参加者間での談合はなしあいをさせ、誰が何をどの程度の額で競り落とすかの調整をし、売れ残りや参加者間での軋轢が生じないよう、調整しているのだそうだ。

地下室は、仕入れた“商品”を管理するゲージであり、参加者のための陳列棚ショーケースという訳だ。

 あくまで表向きは護衛であるシグが、“商品”を見に地下室へ向かうお貴族様に同行しても、疑われることはなかった。

 白漆喰の壁と板張りの床、魔道具の明かりとで、明るく暖かみのある雰囲気を出そうとしてはいるが、外側・・から施錠された扉の内側、思い思いの格好で寛ぐことを強制されている“商品”の、卑屈さと媚びと怯えがブレンドされた表情が、演出の空々しさを引き立てているばかりであった。

 陳列された“商品”の中に、ツァスタバの姿はない。

エサとしての役目はしっかり果たしたとは聞いているが、それでは何故、“商品”の中に姿が見えないのか。

 お貴族様に、今回の“商品”はこれだけなのかを尋ねさせたところ、本物・・のオークションの熱気を肌で感じていただくための“とびきりの一点もの”がある、との回答があったので、おそらく、その“とびきりの一点もの”がツァスタバなのだろう。

オークションの大トリを飾るとは、なかなかどうして、大したものである。

 となると、オークション終盤、何事もなく順調に全てが進み、気が緩みだすあたりで騒ぎが持ち上がることが予想される。

 その辺りの予想も込みで、入手した情報を送れば、後はオークション当日を待つばかりである。

そもそも、突入計画と言っても、要は人身売買組織の構成員を片っ端からぶち殺すついでに、“大母ビッグマム”を怒らせた間抜けを片付けるだけの“簡単なお仕事”に、計画もへったくれもないのだが。

 全体的に満遍なく豊満なマダムと、そのご友人で満遍なくスリムなマダムをエスコートして、ヴィッラの庭などをそぞろ歩くついでに庭園の警備を確認したり、件の部屋付きメイドにちょっかいをかけるふりで当日の動向など聞き出したりと、前日まであれやこれやと働いた自分の勤勉さに感動しつつ、シグがオークション会場の大広間を後にしたのは、“とびきりの一点もの”の競りが始まる少し前である。

 大広間の、正面扉――ではなく、料理を運ぶ給事係用の扉の前に立つ警備に、ションベンだションベン、などと苦笑して扉を開けさせ外に出たシグが向かったのは、無論レストルームではない。

 例のメイドからの情報が正しければ、二階の奥、寄せ木細工の壁にある隠し扉から上がる三階の部屋で、オークションの主宰者が、ここまでの売り上げの勘定をしているのはずだ。

 隠し扉のある廊下へ向かおうとするシグに、二人一組で二階を巡回していた警備が、武器をちらつかせてくるが、シグとてここで退く訳にはいかない。


『キャアアアアアアッ!』


 階下から響いた、屠殺される豚の断末魔に似た悲鳴に、警備の意識が逸れた。

ほんの一瞬のことではあったが、シグにはそれだけで十分だった。

 だらしなく前を開けた上着ジャケットの裾がふわりと持ち上がり、元の位置に戻った時には、警備の二人組は、喉にぱっくりと開いた新しい口から、ひゅうひゅうと空気と血を吹き出しながら、いと高き世界へと旅立っていた。


「……ま、こっちも仕事なんでね」


 筋張った大きな手を軽く一振りし、握ったナイフの血を払う。

 シグの手の中にあるナイフは、全長二十五メルほどの小型のものだが、一般的に牛の舌形と言われる、菱形の一方を長くした槍の穂先に似た刀身と、細長い棒状の握り、環状の柄頭という、特徴的な造りをしている。

 昔、ナートゥム崩壊の正にその時、シグを含むウィル・オ・ザ・ワイクスの面々と居合わせた女冒険者が使っていたものだが、これが存外使いやすく、シグも以来、使うようになった。

 何でもその女冒険者の故郷の“裏仕事の専門家”が使っているナイフで、クナイというのだそうだ。

 そう言えば、とシグがふと視線を足元に落とす。

さっきの悲鳴は、ツァスタバが起こした“騒ぎ”の産物だろう。

 トラウザースのポケットから、加工時に出る、胡麻粒より小さな血晶玉を再利用した使い捨ての魔道具を起動させる。

目も眩むほどの閃光を、瞬きほどの一瞬だけ発生させるもので、こうした仕事の際に合図として使う他にも、目眩まし、目潰しにも使える優れものだ。

 合図を送ったところで、片手でナイフ――クナイをくるくると遊ばせながら、壁の隠し扉を開く。

開く手順も、あのメイドが言った通りであった。

 壁の後ろに現れた、狭く急な階段を半ばまで上った辺りで、シグの表情が厳しいものに変わる。

 上階から漂ってくる、鉄錆に似た、しかし生臭いそれには、覚えがある――血臭だ。

 足音と気配を消し、ゆっくりと階段を上ったシグの視界に飛び込んできたのは、何とも異様な光景であった。


「……まあ。覗きデバガメするくらいなら、堂々と交ざりに来たらいかが?」


 からかいを含んだ声は、確かに例の部屋付きメイドのものだが、お仕着せの上からでもメリハリの効いたラインが見て取れた体のラインを見せ付けるような、ぴったりと肌に沿う上下一繋ぎのレザーの服に、恐ろしくヒールの高い膝下までの革長靴ブーツ、革の長手袋ロンググローブを纏うその姿は、被虐嗜好者マゾヒストが踏んで下さいと足元に身を投げ出す女王様ミストレスのそれだ。

もし、その姿をツァスタバが目にしていたら、こう呟いたに違いない――どう見ても元祖スタイリッシュ痴女(もしくはドSビッチBBA)ですありがとうございました、と。

 それはともかくとして、それだけなら、部屋の主が少々特殊な嗜好を持っていて、その特殊な嗜好を満たすプレイの真っ最中、とも取れるが、女王様が手にしているのが乗馬鞭ではなく血塗れのナイフで、一糸も纏わず肥え膨れただらしない肉体を晒し、猫足に更紗張りの優雅な肘掛け椅子に縛り付けられた部屋の主人が、血塗れでううおお呻いている時点で、プレイではなく拷問と見るべきだろう。


「そいつは失礼。……で、プレイはいつまで? そちらさんに用があるんだがね」

「あらあら、ご主人様ったら大人気じゃない。妬けちゃうわ」


 シグへと振り返った顔は、確かにあの部屋付きメイドのそれだが、たっぷりと嗜虐を含んだ笑みは、死にかけの鼠をなぶる猫のそれだ。


「なに、仕事だよ。そちらさんに生きていて貰いたくないってお人がいるもんでね」

「そう? ならお譲りするわ。私の用はもう済んでるもの。それに」

「それに?」

「一思いに楽にしてもらった方が、ご主人様も嬉しいんじゃなくって?」

「……あー……確かに」


 椅子の肘掛けにくくりつけられた腕の先の滑らかな切断面と、脂肪と贅肉で膨れた腹が覆い被さる下腹部に源流を持つ赤い流れは、椅子と、縛り付けられた部屋の主の足を伝って落ち、絨毯の長い毛足は水に落ちた猫のようにべったりと寝そべっている。

 今すぐ手当てを施せば助からない傷ではないが、生憎とシグは、直に触れるのはいい女の肌だけと決めている。脂をまぶしたひきがえるに触るなど、白金貨を積まれても御免被る。

それに、このざまで長らえるより、一思いに楽にしてやることこそ、男としての情けだろう。

 男として含むもののあるシグの視線に、部屋付きメイド――いや、元部屋付きメイドと呼ぶべき女は、形の良い柳眉をひょいと持ち上げた。


「ちょっと、何よ。私の趣味じゃないわよ? こう言うご注文オーダーなんだから、仕方ないでしょ」

「……そりゃ、仕事ってんなら仕方ないな」


 誰をどれだけ怒らせれば、こんなえげつない“ご注文”が出てくるのか。

 桑原桑原、と呟くシグをよそに、血塗れのナイフをシグへと放り、足元の、中身を想像するだに恐ろしい象牙色の袋を拾い上げた女は、腰から太腿にかけての形のよさを見せびらかす優雅な歩みで、二階に続くのとはまた別の、壁に開いた出入口へと向かう。


「それじゃ、ご機嫌よう。色男さん」


 血の色の口紅ルージュに彩られた唇が艶やかな笑みを刻み、ひらりと片手を閃かせ、女は四角く切り取られた出入口に身を踊らせた。


「いい女なのにおっかないのか、おっかないからいい女なのか、それが問題だ。……そう思うだろ?」


 少しの間、気の利いた置き土産を手の中で遊ばせてから、女が消えた出入口に視線を向けたまま、シグはスナップを利かせて手首を一振りする。

ひゅん、と空気を裂く音に続いて、硬い殻の中に柔らかなものがみっしり詰まった何かを貫く湿っぽい音と、踏み潰される蛙の断末魔じみた音が続く。

 肘掛け椅子にくくりつけられたまま、ぐてりと弛緩した、弛みに弛んだ脂肪と贅肉の塊は、人の体はここまで醜悪になれるのかと、いっそ感動すら覚える程だが、シグは一瞥も与えず、もと来た方へと足を向ける。

 階段を下りた辺りで、三階から来たらしい足音がこちらに向かっているのが聞こえてきた。

手首を捻り、袖の内側に仕込んだクナイを手の中に滑り込ませたシグの頭からは、“特別な部屋”の蟇の死体の存在は消え失せている。


「仕事、仕事っと」


 廊下の角を曲がって現れた警備の喉笛をかっさばき、返す刃で盆の窪を一突きする一連の動作は、いっそ優雅なほどだ。

 口寂しさに、つい内ポケットに納めた紙巻のケース手が伸びる。

シガールームでガメてきたそれは、やけに甘ったるい香りがした。

 大広間はどうなっていることやら。

先ほどの悲鳴から察するに、相当派手にやっていることだろう。

 紙巻きをくわえるシグの口元は、愉快そうに弧を描いていた。



 時間は少し遡る。

 カドリーユが踊れるほどの空間を挟み、長いテーブルが向かい合う形で設置された大広間には、妙に浮わついた空気が流れていた。

 好みに合う“商品”を適正価格で手に入れ、それなりに満足している参加者も、そうでない参加者も、主催がここまで勿体振る“商品”に、好奇心を大いにくすぐられているようだ――若干一名を除いては。

 顔色のすこぶる優れないその若干一名はレリンクォルの子爵で、三十を越えたか越えないかぐらいだが、妙に老いた、と言うより、その年齢にしては若さというものを感じさせない男であった。

 護衛として付いていた男が側を離れ、大広間を出たのを見届けた辺りで、ほんの少しだけ顔色に生色が戻ったように見えたが、元々そう風采が上がらない部類に入るせいか、さして変わりなくも見える。

 次のオークションに、一人、こちらが指定する人物を同行させるよう、何の予約も紹介状もなくやってきた客が、子爵に唐突な申し入れをしてきたのは、半月と少し前のことであった。

 客は女で、側仕えらしき女二人を連れており、身形もどこぞの名家の夫人のようであったが、纏う気配は尋常なものではなく、それだけで子爵は、自分が萎縮していくのを感じた。

だからと言って、はいそうですか、と言いなりになる訳にはいかない。

 お引き取りを、と言った子爵に、女は、うっそりと笑った。

親鳥のいない巣で、卵を見付けた蛇が浮かべるとしたら、このような笑みだろう。

 肉感的な紅い唇が吐き出したのは、子爵にとって、表沙汰にされなくとも、噂が立っただけで致命的な“弱み”であった。

 妻に知られれば、妻の実家にもそれを知られることとなる。

そうなったら、妻の実家は、それなりに周囲を納得させられるだけの理由を作り、爵位を息子に継がせた上で、子爵を“病死”させるくらいはするだろう。

 子爵は、息子が自分の子でないことをよく知っている。

新婚初夜の床で、役立たずの息子さん、と嘲笑われて以来、子爵は妻と寝台を共にしていないにもかかわらず、二年後には妻は身ごもり、後継ぎを設けた。

 父親は分かっている、妻が実家から連れてきた執事――今では子爵家の家令として、子爵家の財政の管理をしている、何から何まで、子爵とは正反対の男だった。

優れた容姿、ある程度の戦闘能力を有するのだろう鍛えられた体躯、態度に表れる自信――まるで、護衛として連れていくよう指示されたあの男のように、子爵の劣等感を痛いほど刺激する、そんな男だ。

 あの客と、護衛ということになっているあの男の目的を子爵は知らない。

知らないが、何かしら厄介なことなのだろう。

 面倒なことにならなければいいが、と溜息をついた子爵の前に、食後酒ディジェスティフ代わりのコーヒーがサーブされる。

表向きは、“食事と美術品のオークションを楽しむ粋人の集まり”となっているので、食前酒アペリティフから始まるそれなりの食事を供されているが、子爵にはそれを味わうだけの余裕はない。

 テーブルとテーブルの間に空いた空間に、運搬人によって本日最後の“商品”が引き出されてきたのは、参加者に食後酒ディジェスティフ、またはコーヒーのいずれかがサーブされてからであった。

 白絹のミドルベールに覆い隠されているので、上半身は輪郭しか見えていない。

腰から下だけは見えているが、膝丈の黒い半ズボンの裾から覗く丸い膝から続く、しなやかな筋肉に覆われた脹脛から引き締まった形のいい足首にかけての線は、野を駆ける動物のそれを思わせた。

ソックスガーターと、ガーターに留められたソックスの黒が、ミドルベールの白絹よりなお白い肌を際立たせている。

 目に見えているのはたったそれだけだと言うのに、参加者たちの目は、自然と最後の“商品”に引き寄せられていた。

女はもとより、男まで、誰もが白絹のベールが外されるのを、固唾を呑んで待っている。

 運搬人の手がベールにかかり――ふわりと揺れた白絹の下から、“商品”が現れた瞬間、大広間には、声にならないどよめきが奔った。

 ある女はコーヒーカップを倒し、ある男はブランデーのグラスを取り落とした。

喘ぐような溜息を零したのは、誰であったか。

 月の光を紡いで絹にしても及ばない、緩く波打つ艶やかな髪。

 子供らしい柔らかさと、少年の潔癖な硬質を併せ持つ輪郭は、磨き上げられた雪花石膏アラバスターよりなお白い肌のせいもあり、彫刻めいて見える。

 形のいい柳眉。

 銀細工のような長い睫毛に縁取られた眼の中、淡い蒼の氷の中に鉛色の火が揺れる虹彩。

 すっきりと通った鼻筋、かすかに透けた血の色に彩られた唇。

 それらが配されたかんばせは、今を盛りと咲き誇り、その艶姿えんしをもって諸人を魅了する百花の女王をして、羞恥に自ら枯れ落ちさせんばかりに美しい。

捧げ持つよう両の掌に載せている、オークションの表向きの名目の装飾品は二束三文の安物だが、それすらも王室の宝物庫から流出した財物に見せるほどに。

 まだ柔らかで幼さの残る頸から肩にかけての線は、襟元を黒のリボンタイで閉じたドレスシャツと黒いウエストコートの下だが、あと数年もすれば、若木のようにしなやかな力強さを宿すことだろう。

子供から少年、青年、男へと成長する過程の一年、いや一日は、身の丈ほどに積まれた宝石でも購いきれはすまい。

 欲しい。

あの美しい子供が――あの美しい生き物が、欲しい。

 今や会場の参加者の誰もが、欲望の塊と化していた。


「……こちらが、本日最後の“商品”でございます。さて皆様。この“商品”に、皆様は幾らお出しになりますか?」


 競売人の言葉の後に生じた静けさを、参加者たちの熱気――否、狂気は一瞬のうちに飲み込んだ。

参加者の誰もが、奔騰する狂気のまま、物心ついた頃から学び、身に付けた筈の礼儀作法も何もかも擲って、欲望を剥き出しに口々に叫び、喚く。

 誰かが大銀貨と口にすれば、別の誰かは金貨、大金貨、金板貨と叫ぶ内容はエスカレートしていく。

一方、あるご婦人は代々伝わる由緒正しい一揃いの宝飾品の名を、ある紳士は王都に所有する土地屋敷の権利を、他の誰かにあの美しい生き物を所有されまいと、その一心で声を張り上げる。

 そんな中にあっても、子爵だけは口を開かず、手元のテーブルナプキンを引き千切らんばかりに握り締め、淀んだ眼でひたすら“商品”を見つめていた。

底なしの嫉妬を煮詰めた、腐臭を放つ熱泥の眼で。

 ああ、きっとあの子供は、あの美しさを何一つ損なうことなく、成長していくことだろう。

健やかに、しなやかに、古王国時代の戦士像のような体躯と、輝くばかりの美貌を誇る男となるのだろう。

妻にすら聞こえよがしに地虫と蔑まれることも、新婚初夜の床で、役立たずの息子さん、などと嘲笑われることもない、己のような風采の上がらない貧相でひねこびた男とは、大竜ドレイク蚯蚓竜ワームほども違う男に。

 嫉妬に身を焦がす子爵をよそに、会場の狂気は留まるところを知らず、ひたすら膨れ上がり続ける。

だから、気付かない。

欲の虜となり下がった己の姿の、浅ましさ、醜さに気付かぬように、“商品”の目の中にあるもの――子供らしからぬ冷徹と、残酷に。




     †     †




 ちょえーっす。俺ちゃんことみんなのアイドル、地獄からの使者・デッドプーッげふん、ツァスタバくんM仕様六歳です。

 結構ドン引いてます。オークション会場の最初っからクライマックス加減にないわーヒくわードン引くわーで御座います。

お金ってあるところにああるんですね。お金は寂しがり屋さんだから、お友達のいっぱいいるとこに行きたがるんだよ、って本当なんだなーって思いました。(小並感)

ちょっとぐらいこっちによこせや。

 表向きのオークションの“商品”を持ってはいるけど、ぶっちゃけこれ、二束三文の安物ですねー。

いけませんな、いけませんな。

 チューベローズらしい花をモチーフにした、ちょっと大きなバレッタっぽい髪飾りは無論量産品だけど、花の部分に黄銅使ってて、貧者の金プアマンズゴールドの名にふさわしく、見栄えだけはする。

まあ、十二世紀の日本でも黄銅製造されてたし、あってもおかしかないけど、つーことはファンタジー金属筆頭オリハルコンさんはいらっしゃらないつーことか。残念。

 あ、バレッタっぽい、とゆーのはクリップ式じゃなく、花モチーフの頭がついた真鍮のピンを使って留めるようになってるからだけど……いやー、いいもの持たせてくれてありがとう。

真鍮のピンとか、これ普通に武器ですやん。考え甘いんとちゃいます? ねえ。

 ……そろそろ、かね。

会場もヒートアップが止まらないし、ここらで一発、派手に騒ぎを起こそうじゃあーりませんか。

ファーストヒットは斜め後ろの馬糞一号でいいだろう。

 もうね、いたいけな子供の食事に、微量だけどあかんモノ混ぜて“調教”とか言うような連中とか、馬糞でいいと思うの。

寝起きのぼーっとした感じくらいの軽い倦怠感とか、よく見ると震えてる指先、あと何となく気分が重い、その程度だけど、これ確実に何ぞ盛られてね? だったんで、横になってぼーっとしたフリして内部魔力回して肝臓さんに超頑張ってもらいました。

味覚がねー、復旧してたら味で何盛られてたか見当ついたと思うんだけどねー。

 一応、アストラのおっさんから何ぞ薬使われた時用に、って貰った薬も使ってる。

膠とかそれっぽいので作ったカプセルに仕込んだ小さな錠剤で、舌下に隠して少しずつ溶かしながら体に回してく感じのやつ。超助かりました。アストラのおっさんありがとう愛してるー!

 さて、そんじゃ早速いきますか。

ホットな鉛はないけど、死神様とチャチャ躍らせてやンぜ、馬糞ども。

 バレッタ的な髪飾りのピンをそろりと引き抜き、青天井プライスに浮足立ってる右後ろの馬糞一号の左足首に伸ばした右足を引っ掛け、バランスを崩す。

 崩れたら引っかけた右足をさっと引っ込めながら軸足にして半回転、左足で追撃入れて更に崩したところで、右手で左手首を捕まえ引き寄せつつ、左に握ったピンの先端を顎の奥、首との交点めがけ、斜め上に突き上げる。

この間、十秒足らず。

 手に伝わってくるのは、肉を突き抜ける湿った重たい柔らかさと、骨を砕き削る硬さが一緒くたになった感触――人の命を奪う感触だ。

正直気持ちのいいもんじゃないし、好きになれない感触だけど、慣れようと思えば慣れる感触でもある。

好きになろうとは思わないけどね。

 馬糞一号の鼻の穴からどろりと血が溢れ、眼球が裏返る。

頭蓋底突き破って、小脳か間脳がイったっぽい馬糞一号は、何が起きたかよくわからないままあの世にご招待されたことだろう。

 左手を手前に引き、右足で倒れこんできた馬糞一号の体を蹴り飛ばすと、ランドレーyげふん、BWHまんべんなく豊満なマダムと目が合った。

馬糞一号の顎の下から、血まみれのピンがぬるりと引き抜かれる衝撃映像をご覧になっちゃったらしい。

ご愁傷サマー。

 次の瞬間、顎の下の見事な肉垂がぶるんと揺れ――


「キャアアアアアアアアアア!」


 響き渡ったのは、ごん太い悲鳴。

どう頑張っても引き裂かれているのは絹じゃなくて、横綱の化粧廻し三つ揃い三枚重ねです。それも10式戦車裂きされてる感じの。

 お貴族様方も凶行にお気付きあそばしたようで、あっちこっちからガタガタと椅子が倒れる音がしてる。

他の馬糞どもも気付いたようで、五人ほどがこっちに向かってきている。

あとの馬糞は大広間の大扉前で頑張ってるのと、競売人についてる奴。

 ピンを逆手に持ち替え、重心を落とた低い姿勢で、馬糞二~六号に向かって突っ込む。

こっちが逃げ出すとばかり思ってたようで、馬糞二~六号の動きが一瞬鈍った。

 猫を噛む窮鼠の牙は、ちっと痛いぞ。


「シッ」


 馬糞二号と三号の間をすり抜け、二号の背中を踏み台に跳躍して、三号の首を後ろから膝と腿で挟み込むように着地したら、気持ち首を極めつつ大きく仰け反る。

投げるっつーより、頭叩き割る気持ちと勢いと姿勢で全身を大きく捻り、馬糞三号の顔面を大理石の床に叩き付けて、百パーセント安全に考慮しないリバースフランケンシュタイナーでございます。

ミニスカの美少女に食らうFSフランケンシュタイナーはご褒美ですが、ショタのFSフランケンシュタイナーとか誰得やっちゅうねん。

 ロールシャッハな赤いペイントをぶちまけて、いい塩梅にビクビク痙攣してる馬糞三号の肩付近についた足の裏に力を入れ、前のめりの上体を引き戻す勢いを使ってバク転ついでに、掴みかかってきた馬糞四号の顎の先を爪先で蹴り上げる。

かすっただけでも、脳が揺れればダウン取れるってばっちゃが言ってた。

 馬糞三号あしふきマットの背中に着地を決めると同時にダッシュして、いい塩梅に脳が揺れたらしく、かくんと折れた馬糞四号の膝を踏み台に、こめかみ狙ってSATSUI一発シャイニングウィザード。

左の膝小僧の下で薄い骨がぐじゃっとなるのが分かるけど、トドメはきっちり刺す派なので、体を捻ってそのまま膝に体重かけて床に叩き付ける。

床に広がるペイント(赤)が、馬糞四号終了をお知らせします。

 ペイントに触らないよう前方に飛び込みながら、背後からの馬糞二号か五号か六号かのナイフを避ける。

一号、三号、四号をバラされキレた模様。おーい、いいのかーい。こちとら高額商品様やでぇ?

 一回転して片膝ついたところに、馬糞二号が突っ込んできたので、上体反らしでナイフをかわし、手首にピンをプレゼント4U。

手根骨と橈骨の隙間を狙って、先っぽだけなど遠慮せずに、ずっぷしいきましょう。

 ぎゃ、と潰れた声と一緒に柄を握る指が緩んだので、すかさず抉じ開け、ナイフを頂戴する。

折角頂戴したんだから、ちゃんと使わなくっちゃ勿体ない。

 反らした上体を引き戻し、ピンの刺さった手首を押えておうおう言ってる馬糞二号を馬跳びで越えて、馬糞六号の懐へとダイビング押し倒し。

狙いは肋骨弓の描くAラインの間の肝臓ですが、何か。

これで相手が美女や美少女だったら、肝臓じゃなくて乳の一つも鷲掴みするとこですが、相手が馬糞野郎とかもうね、罰ゲームってレベルじゃねーぞ。

 めり込むほど重い内心とは裏腹に、口角持ちあげ笑顔を添えれば、面白いくらい動揺した馬糞六号は、葱と春菊椎茸焼き豆腐割り下鍋七輪背負った鴨よりチョロうございました。

気付こうよ、刺されたんだから。

刺したナイフを抉って抜いても、馬糞六号は妙に蕩けた顔のままなんで、正直ものっそくキモい。

 さて、残るは馬糞二号と五号……と思ったら、増援入りましたー。

七号八号九号まで増えてるじゃないですかやーだー。

いたいけなショタっ子相手に大人げない。

 幸いスタミナはまだ十分に残ってるけど、ちょっと距離を取ろう。

一対一ワンオンワンをあと五回すればいいだけ、大丈夫だ問題ない。

 けど、ちょっと喉が乾いてる。

薬物中和すんのに肝臓さん頑張らせたからなー。水分糖分できればビタミンも欲しいとこだけど……お、いーもの発見。

ツァスタバ、いっきまーす。

 せーの、とナイフを放り投げる。

直線の動きだと関係ないお貴族様連中にナイッシューしそうなんで、軌跡はキャッチャーフライが理想です。

 馬糞二・五・七・八・九号が揃ってナイフに気を取られている間に、ダッシュかーらーのー股下くぐりスライディングでディフェンスを突破。

 障害を潜り抜けたら、半回転して姿勢を仰向けに。

立てた膝に胸元を引き付るように上体を起こしたら、床を蹴ってスライディングの横方向のベクトルを上方へと転換、アイキャンフラーイ☆ で打ち上げた後は、目標通り長いテーブルの上へ、十点満点の着地を決める。

着地の衝撃は全身の関節で分散吸収するから、テーブルの揺れもほぼ0です。

うん、我ながらビューリフォー。

 テーブルに直立してるナイフを回収したら、ガラスの水差しに手を伸ばし、行儀は悪いけど直飲み一気。

ミントの枝とレモンスライスを纏わせて、薄いガラスにからころと氷がぶつかる音が、場違いに綺麗で、ちょっと笑える。

 半分くらいを一気に飲み干した辺りで、舌の奥がきゅっと痺れたと思ったら、喉の奥から、少しの青臭さをまとった鼻に抜けるメントールの清涼さ、ごくわずかな苦味を伴う爽やかな酸味とが、水の匂いと一緒に強烈に吹き上げてきた。

 ……例のアレの後遺症で麻痺った味覚と嗅覚って、突然一気に回復するんだよね。

それまでの無味無臭の世界の反動なのか、感覚が一、二段階ぐらい跳ね上がることがたまーにあるんだけど、どーやら今回は、そっちを引き当てたっぽい。

運が悪いと味覚障害ってこともあるから、今回はホント、超ラッキーでしたわー。

 水分はこの辺でいいとして、次は糖分補給といきましょか。

飯モノは残ってないけど、手付かずで放置されてる可哀想なプチフールがあるから、それでいっか。

 の、前に、馬糞七号がナイフ片手に突っ込んできたので、カウンターで喉の上にナイフを押し込み、後方へと蹴り飛ばせば、二・五・八・九号が団子になってひっくり返った。

おお、ストラーイク。

 抜いたら返り血で服が汚れそうだったんで、ナイフは七号の喉に刺したまんまにしたから、またこれで無手に戻った訳だけど、アイディアとちょっとの工夫で、身近なものがあっとゆー間に素敵な凶器に早変わり。

 プチフール艦隊見ゆとの警報に接し、ツァスタバはただちに出動これを捕食せんとす、ってことで前方のプチフール艦隊に突撃しながら、テーブルの上のティースプーン、デザートフォーク、ナプキンリングをひったくる。

スプーンとフォークはソックスガーターに挟み込み、ナプキンリングは四隅を結わえたテーブルナプキンの中へとインしていく。

 馬糞連中が、スプーンとフォークが金製だっつってたのを小耳に挟んだ以上、これは回収するより他ないかと思うんだ。

窃盗? いいえテーブルの上に落ちていた持ち主不明の落し物を拾っただけですよ?

 ナプキンリングは、多分だけどスターリングシルバーじゃないかな。重みもそこそこで、四つ五つも集まれば、十分な威力を発揮してくれそうだ。

レジ袋と小銭で自動車の窓ガラス割れるんだから、頭蓋骨くらい余裕っすわ。

 プチフール艦隊を確保と同時に、即席鈍器を二・五・八・九号とは別口の馬糞の側頭部に叩き付ける。

伝わる鈍い手応えが、遠心力さんのいい仕事っぷりを伝えてくる。

 倒れこんだ馬糞を蹴り退けて、プチフールの一つを口に放り込む。

テーブルに土足で乗っかってる時点で行儀もへったくれもないんだから、いいよね別に。

 スポンジに、キルシュヴァッサーっぽいスピリッツで風味付したラズベリーのジャムを挟み、バタークリームのアイシングをしたそれは、作り置き前提だからかアイシングのしっとり感はないし、スポンジもパサついてて、エスプレッソのような濃いコーヒーで流し込まんとよう食えんくらい、甘い。

折角一段上になって味覚の戻ってきた舌が一時停止して、歯茎が痙攣しそうに、ひたすら甘い。

 燃料カロリー補給と割り切って、極力味合わずにオレサマオマエマルカジラナイで艦隊を撃滅する間にも、馬糞二・五・八・九号の側頭部、頭頂部、眉間、鼻下に即席鈍器を叩き付ける簡単なお仕事をする手は止めない。

 指についたフロスティングを舐め取りながら大広間を見回せば、お貴族様は半数以上が逃げ出した後だった。

残る半数弱のお貴族様も、席を離れ扉の方へと向かってるけど、時折こっちを振り返る顔の口許は、もっと血を見せろと言わんばかりの、愉悦の笑みにおぞましく歪んでいる。

 向かいのテーブルで、席についたままの貧相な青年以上中年未満なんか、人指差して口から泡吹きながら、殺せ殺せ叫んでるし。

うわー、がっぺむかつく!

 イラっとしたんでガン飛ばすと、視界の先で青年以上中年未満が白目剥いてテーブルに突っ伏すとこだった。

 ……え? ナニコレ? とポカーン顔してると、青年以上中年未満の後ろに、給仕の兄ちゃんの姿が。

イケメン死すべし慈悲はない、と世のMNOもてないおとこが血の涙流して奥歯砕きそうなイケメンでいらっしゃいます。

 イケメンだけど先任軍曹にタマ落としたか! とケツ蹴り飛ばされるよーなメス臭くてナヨこくヒョロいのじゃなく、しっかり雄! ってな感じの、中東系と南欧系のハーフっぽいイケメンです。

あと二十年くらいしたら、きっといいオッサンになるに違いない。

 何してはりますのん? と見ていたら、こっちに気付いたのか、にっと笑って口パクで『手伝い感謝』とやってらっしゃるんですけど……これって依頼が重なってて、こっちの騒ぎに乗っかって青年以上中年未満をあのイケメンがばらしたってことっすか?

ってことは、あのイケメンも同業者……っぽくねーな。どっちかっつーと、あれ、頭文字Aっぽくね? え? 待って。ちょっと待って。いや、大分待って。傭兵協会に大陸規模(推定)の水商売組合だけでお腹いっぱいなのに、この上山の老人とか無理無理無理無理ないないないない。

そんなオールマシマシのサブウェイとか食えないから。落ちちゃうから、具が。

 一応、こっちも口パクで『気にするな』と伝え、別の水差しに手を伸ばし、プチフールですっかりパサパサになった口内と喉の渇きを癒してる間に、イケメン消えました。

あー……うん。まあその、同業者ってことでいいよね! 頭文字Aでは断じてない! そうに違いない!

 が、青年以上中年未満が一見自然死っぽく突然逝ったせいで、残りのお貴族様方が一斉にパニックになりました。

自分は大丈夫、みたいな根拠不明の自信があってツァスタバホラーショウ見てらしたのが、青年以上中年未満がおっ死んで、そんな保障どこにもないって気付いちゃったら、そーなるわな。

 が、正直屠殺される豚のよーにキーキー叫ぶ連中に用はないんで、どこぞで殺されるよーな恨み勝ってなけりゃ、安全なこた安全なんすけどねー。

 さて、パニックになってる間に、今回のメインターゲットを探さねば。

えーっと、どこだどこだー。

 ……あ、いた。

うわなにあれすごい。ホント、ドライゼのおっさんがゆーとったまんまですわ。

会場で一番趣味の悪ぃ歩く豚とか、抽象的過ぎて分かんねーよ! と思った時期が私にもありました。

 下品を横糸、悪趣味を縦糸に織り上げ、成金の金持ってんぞアピールを散りばめた服に身を包んだ、二足歩行の中ヨークシャー? ハルコネン男爵? が、ふうふうぶうぶう汗だくになりながら、お付に支えられながらゆっさゆっさと腹揺らして歩いているんですけど……これでFAファイナルアンサー?

 つーかもう、あそこまで行っちゃったら使徒だろ使徒。ベ○リッドとかあるんですかやーだー。やめてくださいしんでしまいます。いやマジで。

 まあ、ベッチーの有無はともかくとして、あれだよね。つか該当するのあれ以外いないよね? いないって言ってよバーニィー。

違ってたら外に逃げてるってことで、オッサンたちに任せりゃいいし。

 よっこいしょーいちっ、とテーブルを蹴り、団子になってるお貴族様連中を踏み台にして豚の元へ。

気分は五条大橋の牛若丸、より八艘跳びの義経気分のパルクールの着地場所が、ハルコネン男爵(仮)を向かって右側から支えるお付きその一の頸椎になったのは不幸な事故です。

 邪魔するようなら殺っちゃっていいよ的なこと言ってたし、例の件の拉致実行犯らしいから、まとめてしまっちゃおうね推奨だったし、大丈夫だ問題ない。

 が、一応本人確認はしとかんと。

えーっと、何て名前だったけ。ツァトゥグァ? いや違う、えーっと、


「き、きさ、貴様、わ、わしを、ティボー・ボールと、し、知っての、ろ、狼藉、か!」


 そうそう脂肪ボール、じゃないティボー・ボールだティボー・ボール。

やったねツァスちゃん手間が省けたよ! ってことで、左側を支えるお付きその二と一緒に、サクッとまとめてしまっちゃおうねー、あの世に。

 にっこりと0円スマイルを添えて、


「そうだけど?」


 デカルコマニーで現代アートな斬新さで生赤く染まりつつある即席鈍器で、お付きその二のこめかみを陥没させ、返す腕でえーっと、そうそう脂肪ボールの半月板……は肉に埋もれているから、半端に踏み出した右の内踵ないかに打ち込む。

内踵っつーのは文字通り踵の内側なんだけど、靴があるんで、距骨の辺りに全力フルスイングになったけどね。

 右に続いて左の支えも外れた上に、体重を支える足首への打撃で脂肪ボールがひっくり返った。

万力でゆっくり潰される蟇ひきがえるの断末魔よりも聞くに堪えない悪声まで、脂ぎってる気がする。

死んでから臍に灯芯突っ込んで火付けたら、一ヶ月はぶっ続けで灯り続けるんじゃないだろうか。

 ……つっ転ばせたはいいけど、どうしよう、これ。

いやね、心臓とか健康な人間の三倍くらいあってもおかしくなさそうだし、仰向けに倒れた時点で、これほっといても体位性窒息で死ぬんじゃね? みたいな状態になってるんですよねー。

 気が付いたら残りの馬糞もお貴族様と逃げ出しちゃってて、大広間にいるのは死体と脂肪ボールと私だけだし、自力で起き上がれないの確実な脂肪ボールは放置して、テーブルの上に落ちているカトラリー拾いに専念しようかなー。

稼げる時にしっかり稼いで、目指せ十歳までの安定した生活。

 そのうちおっさんたちも来るだろうし、来なかったら来なかったでカトラリー拾い終わった辺りで脂肪ボールにトドメ刺して、外に探しに行きゃいいし。

うん、そうしましょう、そうしましょう。

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