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十五撃目 Ignorance is bliss・1

 グッモーニング・ベトナーっ、げふん、ドナルーテ! ツァスタバ(暫定)そろそろ八歳です。

つか、八歳なったんじゃね? 次の宿で日にち確認しとかんと。曜日の感覚めっちゃ薄いわー。


 ほどよく晴れたお徒歩かち日和の青空の下を、薄ら二日酔い気味のシグのおっさんの右斜め後方をてくてく歩いております。

あんだけ飲んどいて薄ら二日酔い気味・・で済んでるとは……おっさんの肝臓は化け物か……!


 昨日は、あれから屋台で、鶏ローストのスライスとレタス、トマト、オニオンスライス、オリーブとピクルスを、20メルほどにカットしたバゲットに挟んで、ビネガーではなく、あえてのレモンの程よい酸味が食欲マシマシなハニーマスタードソースで仕上げたバゲットサンドと、オレンジのフレッシュジュースで軽く昼飯にしてから、シグのおっさんとイビの街を出た。

一つ目はサコーさんにおごってもらったけど、二つ目からは自重して自腹切りましたよ? 二つ目はシーザーサラダドレッシング(マヨネーズ入ってない、卸しハードチーズとアンチョビのやつね)、三つ目はビネガー&オイルでいただきました。


 街門での別れ際、シグのおっさんに、妙なこと教えんじゃねえぞ、と釘を刺してたサコーさんは、きっといい父ちゃんになる。

子供が女の子だったら、どえらい過保護になりそうだけどな。彼氏できたら戦争じゃね?

男の子だったら特別に、市川家伝来の甲冑組手術を伝授して差し上げようと思います。


 街門を出てから十分もしないうちに、丈の高い雑草に覆われた草っ原は、一面の葡萄畑になった。

……ワイン、シェリー、コニャック、ブランデー、マール……夢が広がるわー。ぐふふ。

こんだけ期待させといて生食用だったら、私が許しても天が許さないと思うんだ。


 まだのめぬ美酒に思いを馳せつつ、眺める畑の間には、所々に小島のような雑木林がある。森を伐り拓いて葡萄畑にしたんだろう。つか、大森林ってめっちゃデカかったんだ。ビフォアーの広さが気になるわー。


 こんだけ一面葡萄畑だと、収穫期には出稼ぎ労働者でスゴいことになるな。

イビの宿は、規模大きめの街だから割高だし、出稼ぎはどこに泊まるのか。

答え・畑の近くに建ってる納屋改装したっぽい建物。

収穫時期以外では、私らみたいに半端な時間にイビを出て、途中の飛び石宿場町に着けなかった、時間配分の甘い旅人を、格安料金で泊めて元手回収しているようだ。

ただ、B&Bベッド・アンド・ブレックファーストタイプだったんで、腹減って目が覚めました。ええ。


 それだけに、ラタンのカゴに盛られたカンパーニュ(お腹に嬉しい直径15メルオーバー&高さ10メル! 外はカリっと中はモッチリでマジ美味い)と、白カビタイプの山羊チーズ、オイルとビネガーのドレッシングでシンプルに仕立てた大盛り生野菜サラダ、パリッとジューシーでハーブの風味が利いたでっかいソーセージ、目玉焼きにオレンジのフレッシュジュース(シグのオッサンはコーヒーだった。いい加減コーヒー寄越さんとコーヒー一揆起こすぞ)、テーブルにそのまま積まれたリンゴとオレンジ、梨(洋梨の方ね)、という農家風朝食はマジ美味かったです、はい。

山羊チーズはクセが強いけど、青カビタイプじゃなかったし、まだ若いやつだったからあんま気にならなかったし、ホントにウマーでした。


 朝飯をがっちょりいただき、チェックアウト後は飛び石宿場町を目指して歩いてますが、シグのおっさん、宣言通りに飯と寝床の面倒オンリーです。やだ、かっこいい……!

会話はないけど、寂しいと死んぢゃう齧歯類ではないし、サコーさんとの道中は会話量マシマシで、リハビリにはなったけど疲れたのも事実。

この会話のなさ、いいですわー。


 けど、ぼひゃーっと歩いてるだけでは勿体無い。

内部魔力オド使った負荷掛けしながら、より効率のいい、無駄のない動きを、シグのおっさんとゆー目の前のお手本を参考に、頭の中でレッツ模擬実験シミュレーション

その結果を実際の動作に取り込んで試行したら、更にその結果を比較検証してまた模擬実験して……を、朝からひたすら無限リピートしとります。

それと同時進行で、昨日の模擬実験の続行リベンジだぜぇ。

昔の人は言いました。勝ってくるぞと板橋区、諦めません勝つまでは。

……いや、暗殺者アサシン極めるとかじゃなくて、単に勝てない自分の弱さが悔しい訳でして。

分かっちゃいるけどめられんのです。諦めたらそこで試合終了ですよ。


 そうやって、二つの模擬実験を延々続けているうちに、腹時計がお昼をお知らせします、とばかりにバルバルバルバルバルッ! と遠吠えたのが、ついさっき。

胃袋こいつ空腹感においを消してやるッ!

ってな訳で、朝食の時に、昼飯用に作ってハンカチに包んどいた、山羊チーズをカンパーニュに挟んだだけのチーズサンドを背嚢バックパックから取り出し、歩きながらかぶり付く。

行儀が悪い? 細けぇこたぁいいんだよ。


 なお、背嚢にはチーズサンドの他にリンゴも突っ込んである。パンは一切れどころじゃないけど、ナイフ、ランプも詰め込んでますよ?

丸かじりするには皮が渋過ぎるし、傷みやすいので、梨はインベントリにこっそり十個ほど放り込むだけにしといた。オレンジも十個ほどガメといたけど、宿の庭にわんさと生ってたから大丈夫だ問題ない。

人はパンのみにて生きるにあらず。蛋白質やビタミン、食物繊維もバランスよく摂りましょう。

チーズサンドの数は五つ。リンゴも五つ。おやつ用にも、チーズサンド三つにリンゴ三つを用意してますが、何か。


 向こうでもそうだったけど、基本私は大食いだ。食える時には食えるだけ、がっつりしっかり食っておく。

市川鷹ぜんせでは、夏休み三十日回峰行その他のお陰で、前世紀から続く暖衣飽食の時代の只中に、“飢え”というものを、自分の肉体と精神とで味わった。

市川鷹だけでなく、ヴェルヘルミナも、ひもじさという感覚を知っている。

燃料がなけりゃ、戦闘機も戦車もただの鉄の塊。

生きるためには、食ってそのための力を蓄えなけりゃならない。

生きることは戦いなのですよ。腹が減っては戦はできんのです。


 ……まあ、最近燃費悪くなったってのもあるんだけどね。食ったら食っただけ、片っ端から使われてるっぽいし。

やっぱ内部魔力の使いすぎなんだろうか。


 数日前から、使う前に一度溜めて、密度上げる行程入れたんだけど、それからとゆーものの、格段に燃費悪くなった気がする。

ちなみに密度上げの行程は、じいさまに連れられて行ったタタラ場での、玉鋼作りを参考にした。その後、よし、そんじゃお前の守り刀打ってこい、の一言で、じいさまの知り合いだっつー刀匠んとこに放り込まれました。

丹田、まあ臍の辺りだな。そこに炉があると仮定して、集めた内部魔力を砂鉄に見立てて精錬するってだけの、かなりざっくりとザッパなやり方なんだけどね。


 内部魔力は、使えば使うだけ、発生量と回復の量・速度が上がる。

そーいうのを、余り意識しないで漫然と使ってたんだけど、それじゃもったいないんじゃね? で、始めてみたら、質に関しては格段に向上したけど、腹の減り具合と食事量も格段に上がったというオチがついたとです。


 そんな訳で、なんじの欲するところをなせ、でかぶりついたチーズサンドは、美味いけど水気が少なく、口内の水分を持ってかれるのが難点なんですよねー。

一個目を平らげたところで、リンゴにかじりつく。

口内に残るチーズの塩気とリンゴの甘さの組み合わせは、かなりポイント高い。

ブルーチーズにリンゴと蜂蜜も、あれ結構美味いですよ。アクセントにクルミを散らしても、歯応えがあって大変よろしいし。薄ーく切ったバゲットに乗せて、よく冷やした辛口の白か、軽めの赤を合わせるのが好みです。

……実際合わせて味わうまで、あと八年はかかるんだけどね。うう、こんちくせうっ。


 で、飛び石宿場町に着いたのは、昼飯のチーズサンドとリンゴが胃に消えてから三時間弱の、午後三時かそんくらいのことだった。

さーって、屋台回っておやつに合う飲み物さーがそっと。


 つうか、シグのおっさんがイビの売春宿フッカーモテルでハッスル(死語)して寝過ごしてなきゃ、昨夜はここに泊まってたんじゃないですかねぇ? とチラ見するも、何食わぬ顔でしれっとしてます。

ナイススルーだなおっさん。


「おい、子供ガキ。手ぇ出せ」


 飛び石宿場町に入ったところで、シグのおっさんが声をかけてきた。

言われるまま手を出すと、半銀貨が一枚、掌の上に降ってきた。


「?」


 わっついずでぃす? と見上げると、シグのおっさんは、


「宿代と明日の昼飯代だ」


 それだけ言って、さっさと歩いていってもーたです。

うん、この潔いまでの放任、心地いいです。

サコーさんに構われるのは、まあ、いやじゃなかったし楽しかったけど、基本お一人様仕様の人間なんで、こんくらい野放し放し飼いのが、逆に気楽なんですわ。


 まあでも、宿だけは同じとこにしといた方がいいだろ。うん。

見失わないうちに追っかけんと。

当然、ただ追っかけるなんてしませんよ? 隠形して尾行つけるに決まってんじゃないですか。

サコーさんとの道中で、折角都市部での隠形身に付けたんだから、磨かなくてどうする。もったいないお化けが出ちゃうジャマイカ。

これが夜なら、夜陰に乗じたパルクール隠形尾行するんだけどね。

よーしパパ頑張って尾行つけちゃうぞー。




     †     †




 子供ガキに宿代と明日の昼飯代を渡し、その場を離れる。

考えが足りないなら、後先考えずあるだけ使おうとするだろうし、多少考えられる頭があるなら、俺の後を追ってくるだろう。

さて、あの子供ガキはどうするか。


 ……気配を消し、俺を追跡対象ターゲットと見なして尾行、ときたか。

足音、気配の消し方、動作の無駄のなさは、すぐにでも現場・・で使えるレベルだが、意識が対象こちらに向きすぎて、丸わかりだ。

もう少し分散させないと、格下はともかく、格上には確実に気付かれる。

まあ、この子供ガキより格上となると、最低でもD級カエルラか。下手すれば現時点でC級インディクム相当かもしれんしな。


 それにしても、全くもっておかしな子供ガキだ。

疲れたの何のと騒ぎ立てることもなく、実に大人しいものだが、この年齢の子供にしては大人し過ぎ、手間はかからんが、行動自体は斜め上ときている。

まあ、この子供ガキが斜め上の例外中の例外だからこそ、ドライゼに目を付けられたのだろう。

気の毒なことだ。


 付かず離れず尾行つけてくる子供ガキを背後に張り付かせたまま、目抜通りを外れた、客の入りの悪い寂れた宿に入る。

愛想もなければ口も悪い、枯れ木のような爺さんが、似たり寄ったりの婆さんと二人、細々とやっている宿だが、宿代さえ払っておけば、大概のことには目を瞑る。

融通が効くのもいいが、何より、飯と酒が美味い。


 宿代を先払いし、部屋の鍵は婆さんに預けて宿を出た。

宿の軒下に置かれた木箱に腰を下ろし、何の関心もございませんとばかりに、明後日の方向を向いている子供ガキに、


「40点」


 そう言ってやると、不満げな視線がフードの下から飛んできた。

不満げではあるが、何が減点の理由なのか、自分の行動を検証しているようだ。

これならあと5点くらい、付け足してやってもよかったかもしれん。


「精々悩め」


 この野郎、とでも言いたげな視線を鼻先で笑ってやる。

最近の連中は、少し行き詰まるとすぐに他人を頼る。

ただ、そういう奴は、大概が次の壁で頭打ちになるが、最後の最後まで自力でどうにかしようという奴は、じわじわと伸びていく。

この子供ガキの場合は、後者の部類だろうが、成長が矢鱈と早い。

末恐ろしい子供ガキだ。


 ……まさかとは思うが、ドライゼの奴、次の仕事ヤマにこの子供ガキを使おうとは思ってないだろうな?

だとしたら、すっかり父親が染み付いたサコーの奴が、切れかねんぞ。

全く、何を考えていやがるんだか。分からん奴だ。




     †     †




 えー、かなり辛い点数いただきました。

何があかんかったのか、じっくり考えようと思います。

動作の効率化で静音性も向上したし、何があかんかったんじゃろうかー。


 と、その前に。

シグのおっさんがここの宿に泊まるのは確定したんで、これからちょっと宿代節約のため、町の外でひと狩りしてこよう。


 葡萄の木や葉をかじる兎や鹿、鳩雉は、むしろ獲ることが推奨されているらしい。これ昨日泊まった宿の女将さん情報。

あ、鳩雉ってのは、鳩みたいなカラーリングの雉だとか。つまり、地味系。味は雉だけど、大きさは鳩以上雉未満らしい。

鳩なら鳩、雉なら雉どっちかにしろよ。中途半端な。


 けどま、こないだの大ウズラ除くと、ここんとこ兎続きなんで、鳩雉あたりが獲れたらいいなー。未知の味だし。

と、屋上パルクールしながら町の外を目指す。


 シグのおっさん手本に、動きの無駄を省いていったら、動きながらの隠形の精度は上がったんだけど、まだ何かが足りてないんだろうな。

我流だと、その辺やっぱ甘くなっちゃうんだよね。

内部魔力の練り込みも、そのうち見てもらった方がいいのかなー。ギルド登録したら、基礎知識的な勉強した方がいいかもしんない。

市川家伝来の甲冑組手術以外は、清々しいほどの我流だし。

杖刀槍弓の扱いも、一応は組手術に含まれてるけど、基本無手で鎧武者をヌッ殺すことを主眼にしてるからなー、うちのやつ。


 っと、さーて町を出たはいいけど、獲物探さんといけませんな。

はっときーじはーときっじ出っておいでー、出ーないっと目玉をほーじくるぞー、って節子それ鳥寄せやない、廃屋の妖精寄せや。


 日中だしなー、条件微妙だし、今日は坊主かなー、それはそれでちょっとしょっぱいかなー。

インベントリから出した棒手裏剣片手に、狩猟仕様の気配遮断を展開しつつ、町に一番近い飛び石雑木林の近くに向かう。

雑木林で獲物探すか……って、ちょ!


「ぬわわっ」


 ええい、飛び出すな、脊髄反射は止められない、は常識だろうが。

急に飛び出してくるから、棒手裏剣ブッパしてもーたやないかーい。

飛び出した勢いを、スライディングに移行させて吹っ飛んでいった鹿に、思わず突っ込んでしまった。

私が食ってみたかったのは鳩雉であって、鹿おまえちゃうわ。空気読めよボケなのハゲなのバカなの死ぬの?

あ、もう死んでるか。


「……残念」


 予定変わっちゃったけど、仕方ないか。

とりあえず農道から、雑木林の近くに場所を移してっと。

久々の大物(兎に比べりゃ大物でしょ)、血抜きして臓物モツ抜いて下準備しないとねー。

本命の鳩雉じゃないけど、紅葉肉は紅葉肉で美味いからな。

……ああ味噌も醤油も塩麹もある、なのになぜ、ナニユエに貴方はいないのお米様……!


 紅葉鍋に思いを馳せつつ、鹿の処理を黙々と進める。

大きさからして、一歳かそこら。でもって雄。急に飛び出してこなけりゃ、鳩雉探してそっち行ったつーのに、何ともまあ間の悪い。

悲しいけど、これ、生存競争せんそうなのよね。


 しかし、さすがに鹿一頭担いでたんじゃ目立つかー……一頭丸々はでか過ぎだから、後ろ足一本でいいかな?

あのおっさんが取った宿だから、仮にまるっと一頭持ち込んでも、あれこれ詮索してくることもないだろうし……どーしたもんかね。


 考えつつ手を動かしていたら、気付けば鹿はきちんとお肉になっておりました。

皮と脳は鞣し用に別にしといて、本体も部位ごとに解体バラしたし、抜いた内臓モツは雑木林に埋めて処理終わったし。いや円匙えんぴ便利マジ便利。縁砥いどけば武器にもなるし、マジ便利。


 とりあえず、今日の宿泊料金割引分含めて、解体した鹿はさらしで包んで、インベントリから出した袋に入れて背中に括ったし、町に戻って宿取って、速効おやつにしよう。

節約して浮かせた金で屋台巡りして、明日の昼飯用のパン買っておーこうっと。

リンゴは今日食ったし、オレンジと梨は背嚢バックパックに入ってるし、それ以外の何か面白そうなのあったらいーな。


 あー、腹減った。

ギガ盛りチャレンジ的なのやってる店でもないかな。あったら挑むのに。

大食い王に俺はなる! ん? 傭兵王だっけ? あるぇー?

やっとかめの十五撃目です。

今度のおっさんは放任主義。絡み辛ぇー、と作者がじったんばったんしてます。



にしても、あっついなぁ。

ちょっと狂気山脈に、うちのてけりの好物狩りに逝ってくる。(ちょっとそこのコンビニ行ってくる風に)


……その後、作者の姿見た者はいない。

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