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《バーサーカーグレイブ》最下層。
重苦しい雰囲気の中、光源を頼りにエリアを進んでいく。途中、何度もモンスターの襲撃を受けたが全員が冷静に対処したお陰で特に問題は起きなかった。
前に進んでいたプレイヤー達が動きを止めた。
エリアの壁に巨大な茶色の扉が設置してあった。その扉には剣を持った骨の絵などが掘られている。
しばらくして全てのプレイヤーが扉の前に集まった。先頭の玖龍が扉の前に立ち、後ろのプレイヤー達に声を掛ける。
「苦しい戦いになると思うが我々の力ならばきっと今回のボスも打ち倒せる! 皆の力でクリアしよう!」
玖龍の言葉に全てのプレイヤーが頷き声を上げる。ついにボスとの戦いが始まるのだ。俺は大きく深呼吸する。後ろにいたガロンが「生きて帰ろうぜ」と声を掛けて来たので頷いておく。
そうだ。絶対に生きて帰るんだ。
「それじゃあ行くぞ!」
玖龍が声を上げて扉を押した。ギギギと鈍い音を立てて扉は開き、ボス部屋からひんやりとした風がこちらに流れてくる。俺は大太刀を握る手に力を込めた。
役割事に分かれてボス部屋の中に突入する。
ボス部屋の中には光源が無く、暗くて何も見えない。俺達は息を飲んで部屋の中央まで歩を進める。するとボボボと音を立ててオレンジ色の光源が現れて部屋を徐々に照らしていく。部屋の壁には巨大な剣が大量に飾られている。壁や床は古臭いのに剣だけはまるで手入れされているかのように輝いており、異様な雰囲気を醸し出していた。
「来るぞ!」
プレイヤーの誰かが叫んだ。
部屋全体が光源に照らされた時、部屋の最奥部にそいつは現れた。
黄ばんだ頭には二本の角が生えている。目であろう二つの窪みからは紫色の光が怪しげに輝いている。全身を黒色の鎧で覆っており、報告通り硬そうだ。そして一番目を引いたのが腕だ。この骸骨からは四本の腕が生えていた。腕には巨大な剣が握られており、どれも刃が鈍く輝いている。
頭上に浮かぶHPバーの上にはイモータリィスカルソルジャーと表示されている。
あの四本腕の骸骨が《バーサーカーグレイブ》のボスだ。
そいつはゆっくりと顔を持ち上げ、紫色に光る穴で俺達の方を見た。そしてむき出しになった歯と歯の隙間から紫色の瘴気を噴きだすと、四本の腕を持ち上げて動き始めた。
「戦闘開始だ!」
玖龍が大声で叫ぶと、ボスを見ていたプレイヤー達が動き出す。俺も予め決められた位置に移動し、こちらに向かってくるイモータリィスカルソルジャーを睨む。
剣を握った四本の腕を同時にプレイヤーに向けて振り下ろした。前で構えていたタンクのプレイヤー達がそれを盾で受け止める。巨大な剣がぶつかった盾が火花を散らす。何人かのプレイヤーがうめき声を上げて僅かに後ろに押される中、アーサーとルークは剣を完全に受け止めていた。そこへ引きつけ役のプレイヤー達が向かっていき、スキルを黒色の鎧に叩きつけた。鈍い音を立ててほんの僅かだけHPバーが減った。
イモータリィスカルソルジャーは懐に入ってきたプレイヤーを忌々しげに見下ろすと、振り下ろしていた剣を引き戻した。そして四本の剣が光ったと思うと連続して下のプレイヤー達に叩きつけられる。四本の腕から繰り出される連続攻撃を引きつけ役達は軽い身のこなしで躱し、後ろに下がった。攻撃の動作が終わったイモータリィスカルソルジャーの動きが一瞬止まる。その隙を見逃さず、俺達が突撃した。全員がスキルを発動し、攻撃をぶつける。
最初に玖龍がその足元に大剣を叩きつけた。続いて他のプレイヤーも足へ集中して攻撃をぶつける。ダメージを負ったイモータリィスカルソルジャーの巨体がグラリとよろめいた。
俺は地面を蹴って飛び上がり、その胸へ《断空》をぶつけた。激しい音と火花が散り、柄を握る手に鈍い衝撃が返ってくる。そのHPはまだ一割弱しか削れていない。
攻撃を終えたプレイヤーは後ろに下がっていく。そこへ振り下ろされる剣をタンクが防御する。
イモータリィスカルソルジャーの攻撃パターンは報告通りだった。俺達は慎重に攻撃を繰り返しHPを減らしていく。HPが減っていくと徐々にスピードが早くなっていき、対応出来ずに攻撃を喰らってしまったプレイヤーもいたが、タンクや支援がカバーしたお陰で誰も死なずに済んだ。
そして十数回目の攻撃が加えられ、遂にイモータリィスカルソルジャーのHPが赤色に染まった。それと同時に巨体を覆っていた黒い鎧が音を立てて砕け散った。口から瘴気を吹き出しながら苦しげに呻く。
あと少しで倒せる、と僅かに気を緩めたプレイヤー達にそれは襲い掛かった。
鎧を失ったイモータリィスカルソルジャーは手にしていた四本の剣をプレイヤーに向かって投げつけたのだ。巨大な剣がグルグルと回転しながらこちらに向かってくる。俺は咄嗟に《ステップ》で大きく横に跳んだおかげで回避出来たが、反応出来なかった何人かのプレイヤーは飛来した剣がモロに直撃した。剣がプレイヤーの上半身と下半身を分断した。攻撃を食らったプレイヤーの断末魔が部屋に響き渡る。
知り合いが無事か確認しようとしたが、そんな余裕は無かった。
剣を投げ捨てたイモータリィスカルソルジャーの背中から更に二本の腕が生えてきたのだ。それと同時に赤色だったHPが一瞬で黄色にまで回復してしまう。腕が六本になった骸骨は壁に飾られていた剣に腕を伸ばし、新しく剣を手に入れた。そしてこちらを紫色に光る穴で見ると、瘴気を吹き出しながら突っ込んできた。鎧を失ったことで軽くなったのか、その動きは今までよりもかなり早い。
イモータリィスカルソルジャーは六本の剣を前に突き出しながら突進攻撃を仕掛けてきた。タンクのプレイヤーが慌てて対応するが、何人か間に合わずに剣によって吹き飛ばされた。正確には分からないが、それによって何人かのHPが急速に減少していく。
おい……嘘だろ。
攻撃をモロに受けたプレイヤーのHPが0になった。悲鳴と怒声が部屋中に行き交う。
そこへ追い打ちを掛けるかのように剣を振り回した。プレイヤーが悲鳴を上げて逃げ惑う。何人かのプレイヤーは回避、もしくは防御して冷静に対応していたが、逃げたプレイヤーのせいで陣形が大く崩れてしまった。
ボスから離れようと部屋の隅へ向かって逃げるプレイヤー達の背中に向かって、二本の剣が投げつけられた。逃げているプレイヤーはそれに対応出来ない。
「はぁああ!!!!」
標的にされたプレイヤーの前に立ち、アーサーが剣を防御した。スキルによって光っている盾と剣がぶつかり合う。流石のアーサーもボスの攻撃を受けて無傷とは行かず、大きく後ろに後退させられていた。そのHPは三割程減っている。
もう一本の剣は逃げていたプレイヤーを容赦なく斬り裂いた。さっきと同じように断末魔が響き渡る。
その中で、剣を投げ捨てて動きを止めているイモータリィスカルソルジャーに攻撃を仕掛けたプレイヤーが何人かいた。その中にカタナや栞も混ざっていた。
スキルを発動しながら進んでくるプレイヤーに向かって、イモータリィスカルソルジャーは口を開いた。そして紫色の瘴気を勢い良く吹き付ける。一番先頭を走っていた栞はそれをもろに喰らった。HPが急速に減り、毒状態のバッドステータスを受けている。その中でカタナはちゃっかり回避していたが、瘴気はゆっくりと部屋全体に広がっていき、それを吸ったプレイヤーは噎せて毒状態になってしまった。
イモータリィスカルソルジャーは壁から剣を二本補充すると、毒を喰らって怯んでいるプレイヤーに向かって剣を叩きつけた。攻撃を受けたプレイヤー達が吹っ飛んでいく。
その中にカイバが混ざっていた。
カイバは顔を苦痛に歪め、HPを0にして消えていった。
プレイヤー達は自分のバッドステータスを回復する事に専念しており、他をカバーする余裕がない。
そして骸骨は更に剣を振り下ろす。その剣が下ろされた先には栞がいた。
死ぬ。
栞が死ぬ。
俺は叫び声を上げて突っ込んでいた。
俺は《毒耐性》のお陰で毒を喰らわずに済んだのだ。
投げられた剣を回避してから隅っこで様子を伺っていた俺は、栞の元へ全力で突っ走る。
「栞ぃいいッッ!!!!」
《オーバーレイドライブ》を発動し、俺は銀色の光を纏う。そして栞の真上から落ちて来る剣に向かって思い切りぶつかって行った。大太刀が剣とぶつかって光を撒き散らした。意識が吹き飛びそうな衝撃が全身に走る。HPが減少していく。それでも俺は大声で叫びながら腕に力を込めた。
鈍い音が響き、俺は吹き飛ばされて栞のすぐ横に叩きつけられた。同時にイモータリィスカルソルジャーの剣も後ろに弾かれた。
そこへバッドステータスから立ち直ったプレイヤー達が突っ込んできて、攻撃を叩きこむ。そしてダメージを負ったプレイヤー達を後ろに下がらせた。
「HPに余裕がない者は下がって回復しろ! 余裕がある者は俺に続け!」
玖龍がそう指示を出し、先頭を切って突っ込んでいく。HPに余裕があった俺もそれに続く。
振り下ろされる六本の剣のうち、一本を玖龍が受けた。というよりは腕ごと吹き飛ばした。玖龍の大剣が緑色に激しく輝いているのが見える。恐らくあれが玖龍の持つ最強のスキル《アースシェイカー》だろう。力を集中させた直接攻撃と、力を分散させた広範囲攻撃の二種類の攻撃方法があるという、強力なスキルだ。攻撃を受けた剣にはヒビが入っている。
玖龍のスキルのお陰で動きが鈍ったイモータリィスカルソルジャーに他のプレイヤーも攻撃を加えていく。ルークが攻撃を受け止め、止まった腕にガロンが大剣を叩き付ける。同じようにアーサーが剣を受け止め、カタナがそこへ攻撃する。カタナの太刀が緑色に輝き、連続して腕を斬り刻んでいく。恐らくあれは《オーバーレイスラッシュ》だろう。色はプレイヤーによって異なる。カタナの色は緑色の様だ。
「だらっしゃぁああああああああああああ!!!!」
巨大な斧を装備した瑠璃が雄叫びを上げ、剣を正面から弾き返した。玖龍のように剣にひびを入れるまではいかなかったが、かなりの攻撃力だ。
他にも剣犬が瑠璃のサポートをしているし、らーさんはなんと腕を伝ってイモータリィスカルソルジャーの顔面に向かって突撃していった。三節棍を振り回し、無防備な顔面に攻撃を叩き込んだ。それによって巨体が蹌踉めき、隙が出来る。
そこへ攻撃可能だったプレイヤーが押し寄せた。《海賊王》が《大津波》をぶつけ、ドルーアや七海、林檎が身体を斬り付ける。
そこへ俺も向かっていき、《オーバーレイスラッシュ》を叩き込んだ。
大勢のプレイヤーがスキルを叩きこみ、ゴリ押しでHPを削っていく。あと少し、もう一撃で止めをさせる、というタイミングでイモータリィスカルソルジャーは最後の抵抗をした。さっきと同じように口から瘴気を吹き出したのだ。プレイヤー達が毒を喰らい、その動きを止める。
「効かねええってんだよぉおおおおおおおおッッ!!!!」
その中で俺は《空中歩行》を利用し、その顔面まで跳び上がる。そしてそこへ大太刀を思い切り突きつけた。
HPが0になり、イモータリィースカルソルジャーは身体を硬直させる。そして握っていた剣を地面に落とすと、光の粒となって消滅していった。




