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戦闘態勢に入ったセンズキ達を見て、カタナが獰猛な笑みを浮かべる。後ろの栞達はどうするべきかまだ決めかねているようだが、あいつらが攻撃を仕掛けてくれば武器を抜くだろう。カタナもセンズキもお互いに殺すつもりはないと思うが、万が一という事もありえる。それにここはエリアのど真ん中なのだ。いつモンスターが襲ってきてもおかしくはない。
「ま、待ってくれ! こいつが先走ったが、俺達はお前らと戦うつもりはない!」
「おいおい、そんな言葉が信じられるかよ。武器を向けたんだ。向けられたって文句は言えないぜ」
やはりというべきか、センズキは話を聞くつもりは無さそうだ。後ろに控える第二部隊の連中も好戦的な笑みを浮かべている。誰もあいつを止めるつもりは無さそうだ。
二つ名持ち数名と大規模ギルドのナンバー2部隊。どちらも相当の実力者が揃っているようだし、手加減が出来るとは思えない。最悪の場合、死者が出る。カタナなんか殺す気は無くてもそういう手加減とかが出来るようには思えない。
ジリジリと距離を詰めてくるセンズキ達に、後ろのメンバーも流石に武器を抜いた。お互いに緊張が走る。駄目だ。もう止める方法が思いつかない。クソ……もう戦うしか、ない。
「……兄さん。これはもう戦うしかなさそうですね。アイテムでここから離脱することも考えましたがあのカタナさんは声を掛けて止まるような人じゃなさそうですし。彼だけを置いて行くわけにもいかないでしょう」
「……ああ、そうだな」
「あのセンズキという男を叩きましょう。リーダーがやられればあちらも動きを止めるでしょう」
栞の言葉に頷いて俺が背中に手を伸ばし、太刀を抜いた瞬間、張り詰めていた空気が爆発した。センズキ達が一斉にこちらに走りだし、カタナがそれを迎え撃とうと真っ先に突っ込んでいく。栞やドルーア達もそれに続いていく。
先頭のセンズキとカタナが再び武器を交えようとした瞬間だった。その間を青色の閃光が駆け抜けた。ズガガガガガッと地面を削り、閃光はその先にあった樹を真っ二つに両断する。樹が地面に倒れ大きな音を立てた。
カタナとセンズキはお互いに後ろへ大きく下がり、乱入者の方を向く。俺達も閃光が飛んできた方向へ視線を動かす。大剣を振り下ろした状態でこちらを睨んでいる男がそこに立っていた。身に着けているのは《攻略連合》の黒い鎧。頭には何も被っておらず、男の素顔がハッキリと見えた。角刈りになった頭に、剣のように鋭い瞳。年齢は四十代ぐらいだろうか。その表情には思わず後ろに下がってしまいたくなるような、憤怒の表情が浮かんでいた。
「き、霧切さん」
角刈りの男を見たセンズキが裏返った声で名前を呼んだ。センズキの後ろにいた連中も身体を硬直させている。霧切と呼ばれた男は大剣を背中に仕舞うと俺達の方へ向かってきた。ガロンや玖龍の様に背が高い訳ではないが、乱れのない姿勢からはその実力が伺える。
「誰だあれ?」
「《攻略連合》第一部隊隊長、というか《攻略連合》のギルマスです」
ドルーアに小声で聞いてみると、どうやらあの男がリーダーらしいな。
「これはどういうことだセンズキ」
霧切が感情を押し殺した低い声でセンズキに声を掛けた。センズキはビクンと身体を震わせ、一方後ろに下がった。
「えーとですね、これは、その、そ、そう! あいつらが先に攻撃を仕掛けてきたんですよ! 俺達は自分の身を守るために、しょうがなく!」
確かにセンズキの言っていることは間違いではないが……。先に攻撃を仕掛けたのはカタナだったしな。
「そうか。攻撃を仕掛けられたか。それは何故だか分かるか、センズキ」
「い、いや、そのぉ……」
「教えてやろう。お前らが彼らの後を付けるという下衆な行動を取ったからだ。私がお前らにだした指示はエリアの探索であって、プレイヤーの尾行ではないぞ」
霧切はそう言うとセンズキから視線を外し、今度は俺達の方を向いた。鋭い視線を向けられてプチトマトやマウンテン達が小さく悲鳴を漏らす。俺も結構ビビっているのだが薄く笑みを浮べているカタナや凛とした表情をした栞の前で醜態を晒す訳にはいかない。霧切を睨み返して、一歩前に踏み出す。
「初めまして。俺はアカツキといいます。あの人達と戦闘になったのは確かに俺達が先に攻撃を仕掛けたせいですが、しかし、そちらも入り口を塞いでエリアの独占をしようとしたり、俺達の後をつけたりと卑怯な行動を取っている。手をだしたことは謝るが、そちらに俺達を攻める権利はない」
何回か噛みそうになったが、なんとか最後まで霧切の目を見ながら言い切る事が出来た。この世界に来る前の俺だったら睨まれただけで悲鳴を上げて逃げていただろうな。度胸もちょっとはついたみたいだ。それでも怖いけどさ……。
「……ああ。部下が迷惑を掛けた。すまなかった」
そう言って霧切は俺達に頭を下げた。
「我々は確かに《Blade Online》からプレイヤーを解放するために活動しているが、最近ではそれを理由にして他のプレイヤーからアイテムをたかったり、恐喝している者が出ている。エリアの前に第五部隊の者達をおいたのは、エリアを独占するためではなかった。過去に隠しエリアが発見された時、攻略する為に多くのプレイヤーがそこへ訪れたが、その中にPKギルドの者が混ざっていてな。何十人ものプレイヤーが犠牲になった。それを防ぐ為にアオギリ達をおいたんだが……やはりか。本当に済まなかったな」
再度頭を下げられて、俺は頷くことしか出来ない。《攻略連合》も一枚岩じゃないらしいな。
「おいセンズキ。今日はもう撤退する。ギルドホームに戻るぞ」
「え、で、でもまだ」
「攻略は明日から再開する。それから探索するメンバーも変更する」
「え、え」
「他の奴らを置いて一人でここまで走ってきたからな。あいつらも待っているし、私達は撤退することにするよ。君達はどうするんだ?」
霧切がこちらを向いてそう聞いてきた。
「俺達はもうしばらくエリアを攻略する。ボスを倒す為にここに来たからな」
「そうか。頑張ってくれ。……PKギルド、《屍喰らい(グール)》に気を付けろ」
そう言うと、霧切達は俺達に背を向け、ワープアイテムを使って森から離脱していった。最後に言った《屍喰らい(グール)》という不吉な単語が、嫌に耳に残った。
そういえば、掲示板で見掛けた気がするな。隠しエリアにやってきた攻略組のプレイヤーを《屍喰らい》が待ち伏せし、攻撃を仕掛けたんだっけ。救援が駆けつけた時には多くの犠牲者が出ていて、《屍喰らい》は姿を消していたらしい。《攻略連盟》はそれを警戒していたのか。
PKギルドと言われて思い若べるのは《目目目》だが、たまに掲示板に情報があがるだけでその足取りはつかめていない。
リュウのことを思い出して感情が揺らいだが今は置いておかなければならない。
「……さてと。ゴタゴタも済んだし、先に進むか」
―――――――――――――――
大きな石の門の前で、俺は栞達に最後の確認を取る。ボスの姿形、攻撃方法などをもう一度説明して、アイテムでHPとスタミナを完全な状態に整える。一度中に入ってしまえばもう逃げられない。パーティ全体に緊張が漂う。
「よし、じゃあ行くぞ皆。お互いを助けあって安全第一で行動しよう!」
重い空気を振り払うために大声で皆に声を掛け、そして俺達はボスの部屋へ足を踏み入れた。
神殿を震わす程の巨大な咆哮と共に、神殿の中央に青い炎が浮かび上がる。それが徐々に大きくなり、あの巨大な熊の姿を形作っていく。
《ブラッディフォレスト》ボス、巨青熊グルヴァジオ。
久しぶりに見るその姿は相変わらず、恐ろしいプレッシャーを放っていた。思わず唾を飲み込む。しかし、今回は俺一人じゃない。仲間がいるんだ。前みたいに俺を殺せると思うなよ。
「行くぞ!」
戦闘が始まった。
前回とは違って何人もの心強い仲間がいたし、戦闘パターンも事前に全員に伝えていたが、やはりそれでも苦しい戦いになった。
グルヴァジオの腕振り下ろし攻撃を片手剣のプチトマトとマウンテンが二人がかりで防御する。巨大な攻撃に二人のHPバーが二割程削られたが、なんとか攻撃を受けきった。動きの止まったグルヴァジオの腕に、カズヤと栞がスキルを叩きこむ。カズヤは大剣を大きく振り上げて斬り付ける大技で、栞は連続系のスキルだった。二人の攻撃にグルヴァジオのHPが僅かに削れる。
腕を引っ込めたグルヴァジオはそのまま俺達に向けて突進攻撃を仕掛けてきた。全身でぶつかってくるこの攻撃は流石に盾では防ぎきる事が出来ない。俺達は五人ずつ、二手に別れてその攻撃を回避する。
その後はどちらかが囮になってグルヴァジオを引きつけ、その間にもう一方が攻撃する感じになった。
振り下ろされる両腕振り下ろし攻撃に対して俺は避ける余裕が無かったため、《断空》を発動して片方を迎え撃つ。巨大な腕と大きく振られた太刀がぶつかり合い、お互いの攻撃を相殺する。もう一本の腕に俺は対応出来ないが、俺には仲間がいる。同じくスキルを発動させた栞が俺を潰そうと伸びてきた手にぶつかって威力を殺した。
動きの止まって両腕に対して、残りの三人が攻撃する。アストロが光を纏って突進系のスキルで腕を貫き、マウンテンとエッグワンが連続系スキルで攻撃する。それに悲鳴を上げて両手を戻したグルヴァジオは、その青い瞳を血走らせて、俺達に向かって突進攻撃を仕掛けようとする。
巨大な身体が姿勢を低くした時、グルヴァジオがいきなり姿勢を崩して地面に倒れ込んだ。背後からカタナ達が攻撃したのだろう。一定のダメージを与えると起こる怯み状態に対して、俺達はHPのスタミナを回復させて体勢を立て直す。焦らずに、安全第一で倒すのが目的だ。隙が出来てもあまりがっつく必要はない。
それからどれくらい経ったか、回復アイテムが残り少なくなった頃にようやく決着はついた。
両腕を無茶苦茶に振り回しながら向かってくる攻撃にマウンテンとアストロが大きなダメージを負ったが、死ぬまでには至っていない。
カタナ達のグループがグルヴァジオに攻撃し、怯ませた時に、俺と栞が二人で突っ込み、ダブルで《オーバーレイスラッシュ》を叩き込んだ事によって、ようやくそのHPバーを空にすることが出来た。
悲鳴を上げながら光の粒となり、崩れ落ちていくグルヴァジオを見て、俺達は勝利の歓声を上げた。




